逃げた者の末路
ティンクル君は四人兄弟で末っ子らしい。だが、1番下であろうと王族ととして生まれたからにはそれなりの重責を課されるとのことだ。男兄弟二人とはあまり離れてはいないが、一番上という姉とは10近く離れてるという。だからだったのか、姉からは可愛がられたらしい。
だが、周りからは王族の男して生まれたので相応の振る舞いをしろと言われていた。でも、今更言われたところですぐに矯正できるはずもなく、勇敢、ではなく、姉譲りの見かけ上はお淑やかといった体に育ってしまった。見かけ上というのは、確かに振る舞いこそ、姉はお淑やからしいが、身内に対してはむしろ横暴らしい。
まあ、内弁慶ということだ。外に出ると恥ずかしがって萎縮してしまう。
ただ、ティンクル君は横暴な部分は見習わず、良いところだけを見ようとしたので、今のような人に強くあたれない自分が形成されてしまった、ということだ。
自主的という形で旅に出たが、打診はされていたらしい。姉の手が伸びないところで自分の力だけで成長してみろ、ということだ。
上の兄弟は王様の望み通りに育ったみたく、その必要性もなかったようだが、特別措置というやつだ。
なんだって偉い人は体裁を気にするのかな。子供の尻拭いをするのが親の仕事ではないのだろうか。まだ成人にもなってないのなら未熟な部分なんてあって当然だ。
私自身もそうだろう。きっと誰の助けのなしでは生きていけはしない。アリスさんだって、普段突っぱねてるけど、いなかったら旅には出られなかった。
「ゴールなんてないんだよ。きっと、僕はあの国で認められることはない。でも、もがいてくしかない」
もがいて生きて、それで誰にも認められない?それで生きている意味なんてあるんだろうか。誰にも認められないなんてことがあっても良いんだろうか。
そんなことはない。誰にも認められないなんてことは。
「ねえ、少なくともお姉さんは味方してくれてたんだよね?」
「どうだろうね。自分の思い通りになるおもちゃが欲しかっただけかもしれない。……こんな卑屈な考えだから、きっと見透かされてたんだろうね。僕は唯一家族では認めてくれてた姉さんからも逃げたんだ。旅という名目でね」
「……そんなの……そんなの間違ってる!」
「え?」
私は立ち上がって、一緒に座っていたティンクル君を立たせた。
その肩に手を置いて吐露する。
「ねえ、今まで積み上げてきたティンクル君はなんなの?それが全部否定されちゃうの?男だからって勇敢にならなくちゃいけないの?そんなの違うよ。少なくとも私は……」
私は……?ティンクル君のことを……そうだ。ずっと否定してた自分の気持ち。もうあの時から私の気持ちは決まってたんだ。
でも、ここで告げてティンクル君に届くんだろうか。
いや、届かなくてもいい。私は……
「私は、今のティンクル君が好きだよ。そんな無理矢理変わろうとしなくてもいいんだよ。他の誰も認めてくれなくても、私は今のティンクル君しか知らない。私が認めてあげるから……だから、今の自分を否定するようなこと……言わないでよ……」
不意に力が入っていた。
きっと、肩に指に食い込んでいたに違いない。
でも、ティンクル君はそれを払おうとはしなかった。
「……やっぱり、優しいね。リリアちゃんは、いつも。でも」
ティンクル君は私の手を下ろした。
「リリアちゃんの優しさに甘え続けるわけにもいかないんだ。僕が僕で決めたことだ。少なくとも、君にだけでも本当は少しでもかっこいい姿を見せたい。……そう思ってたんだ。……そんな機会はもうないのかもしれないけど」
「……そんなことないよ」
「慰めは……いや、そんなことはないのか。リリアちゃんはわざわざそんな嘘はつかないよね。ただ、逃げた者の末路がどこへ向かうのか。少し付き合ってもらえないかな」
「……少し後ろ向きだけど、それで前へ向いてくれるなら。ねえ、ティンクル君」
「なに?」
「あそこ……塔があるよね?一緒に行ってみない?」
「ああ。……よし、行こう。何があるんだろう?」
「う〜ん。なんだろう」
無人島であるはずなのに、人工物らしきものが残されている。
もしかしたら、この島へ行く方法を知ってる人が長い年月をかけて作り上げたのか、もしくは、もとは陸続きだったものが、なんらかの要因で引き離されたのか。
お姉ちゃんかアリスさんなら知ってるかな?
でも、たまには自分の足で、自分の力で調べてみよう。
結局、ティンクル君には告白には取られなかったようだ。でも、私のこの気持ちは……きっと……。
せっかく二人きりなんだ。ちょっと、デートみたいにしてもいいよね。
こんな無人島でミステリーツアーなんて風情があったものじゃないけど。
それに、もうティンクル君に逃げただなんて言わせない。この旅は私と会うためにあったものだって言わせてやるんだから。




