はい。私が勇者です(2)
休日だというのに、自宅は朝からバタバタしていた。
あまりにうるさいので文句でも言ってやろうと、起き出してきたのだが。
「リリア!ロロ。見かけなかったっか?」
「お姉ちゃん?なんで、今起きてきた私が知ってるのさ。ていうか、何があったの?」
「そ、そうだな。悪い。ロロがいなくなったんだ。こんな朝っぱらから。昨日の夜中にでも抜け出したんだろう。あと、俺の剣が無くなってる」
「ああ〜……王様のところに行ったほうがいいと思うよ」
「なんで?」
「お姉ちゃん。昨日なんか起業するとか言ってたから。融資してもらうなら、王様のところいくでしょ。朝って言っても、もうそんな早い時間じゃないし」
9時ぐらいか。いつからバタバタしてるのか知らないけど、私が言ったことぐらいは、お母さんがもうしてるかもしれない。
「スター君のところにもアリスのところにもいないって」
「どこ行ったんだ?」
「あ、そうじゃなくて。確かにいないけど、行き先は知ってるって」
「それを先に言え。探しに行くぞ」
「なんか、魔王城を再建しに行ったって」
「……は?今、なんて?」
「ロロは、魔王城の、再建に、行きました」
「はあ⁉︎何考えてんだ?」
「いや、こっちが聞きたいけど……」
寝起きだけど、バタバタしてる今の状況を整理するために頭を働かせることにする。
あんまり働かせたくないけど……。
確か、昨日姉が起業するとか言っていた。
そして、今日、王様から魔王城を再建するとか出ていった様子。
今の行方はそれ以降は知られていない。
……バカなのか?姉は。
「だ〜俺が今、家を開けるわけにもいかんし……」
「もうそんなに小さい子じゃないんだから……背は低いけど」
自分の娘というか、一応拾い子らしいのだ。
だから、うちの親と年が近いし、私と極端に離れていたりもする。近いと言っても五、六歳は差はあるけど。だが、姉の年齢を言ってもとても信じてもらえるとは思えない。信じて貰う必要もないけど。
なんで、一緒に歩いてて私の方が年上に見られないといけないの?この上ない屈辱だよ。
だからこそ、だったのか、それとも転機だと感じ取ったのか、その時を振り返ってもしょうがないが、私は両親に告げていた。
「私がお姉ちゃん探してくる。魔王城再建するってことは、今は跡地になってるところだよね?」
「リリア。お前が行くことないんだぞ?お前が危険を冒す必要はないし、城の兵にでも行かせればいいんだし」
「城の兵なんかにお姉ちゃんの暴走は止められないよ。それに、学校に行っててもつまらないもん。ちょっとは外を見てきた方がいいと思うんだ。お父さんとお母さんも私ぐらいの時に旅をしてたんだよね?」
「俺たちの時はお互いがいたからまだいいが、リリアは誰か頼れるやついるのか?一人だけでは絶対ダメだぞ」
「……大丈夫。あてならあるから。とりあえず、王様のところに行ってくる」
「お、おいリリア」
「何?」
「……俺たちの子だからな。止めはしない……が、先立つ物は持ってけ」
「父さんのはお姉ちゃんが持っていったでしょ?」
「う……ウィナ。お前の杖貸してやれよ。リリアなら扱えるだろ」
「そうね……じゃ、私のローブと杖。お下がりで悪いけど使っていいわよ。防具はお父さんのがあればいいけど、自分で破壊したから」
「最強の防具を自分で破壊するって馬鹿なの?」
「うわ〜娘からも馬鹿扱いかよ……そりゃ、今はしがない兵士だけどもさ……お前が生まれる前までは勇者やってたんだぜ?」
「私が生まれる前のことなんか話されても面白くないよーだ。これからは私の武勇伝聞かせてあげるから待っててよね」
とりあえず、城へ向かおう。
移動手段は……スケボーでいいや。これなら嵩張らないし。
蹴り出して、加速。そして、浮力を働かせて、火の魔法でターボ。
ここまで出来る人は、そうはいないらしい。
根本的に魔法を使えても複数使う人は少ないらしい。
あっちもこっちも手を出しては、どっちつかずになるのが原因らしいが。
だったら、自分の才にあった魔法だけを伸ばしていけばそれが後に役立つとのことだ。
……全部満遍なくできてしまった私が言うのは単なる皮肉しかならないか。
今私が使ってるような「浮力」と「火」を同時に使うことは一人でできることではない。
それを、乗り物に応用できないか、何人もの大人が頭を悩ませているとのことだ。
出来ない理由は説明する機会があればしよう。
自宅から飛ばすこと10分弱。
城ほどの規模となれば、遠くからでも視認ができるが、徒歩なら通常は40分程度かかるとのことだ。
あんまり楽するものじゃないかな?
私は王様に呼び出されたと、適当なことを伝え、城へと上がりこんだ。
「相変わらず広いなー。ここ」
キョロキョロ見ながら歩いていると、前から私より少し低いだろうか。
だけども、とても気品が溢れる女性が来た……かのように思われた。
「ちょっと待って。なんで、否定するの。ちゃんと気品溢れる女性ですよ」
「いや、アリスさん。職務放棄して堕落してるらしいじゃないですか。内面を知ってたら、外面がいくらよくてもどうにもなりません」
「うう……昔はあんなに可愛かったに……今も変わらず可愛がってるというのに……私は悲しいよ」
「もう30超えてるんですから、いつまでも王様の脛かじってないで自立したらどうです?」
「15歳の子にそんなこと言われるとは思ってもみなかったよ。まあ、それは置いといて、兄さんに用だよね?」
「え、ええ。情報が早いですね」
「リリアちゃんのためなら、私は働くよ。まあ、他のことは一切やる気ないけど」
「よくもまあ生きてこれましたね。旅もされてたんでしょう?」
「リリアちゃんのお父さんについてってね。フられたし」
「……相手が悪かったってことにはなりませんかね?」
「よし。決めた。リリアちゃん。旅に出るんだよね?私も同行するよ」
「へ?いやいやちょっと待って……」
「とりあえず、兄さんへ報告に行こう!」
なんか不純な動機っぽいけど、私が旅をする理由は知らないのかな?
まあ、先駆者がいてくれるのはありがたい。あてがあると言ったのは嘘千万だったので。
アリスさんに引っ張られるがままに、玉座の間へと連れてこられた。
「兄さん♪」
「却下する」
「うわ、妹の発言を聞かないまま却下した」
「よし、と。リリアちゃん」
「は、はい」
我が国の王様、スター・グラスフィールド。
かつてはうちの両親とともに旅をしていたらしい。
その関係でうちとは縁が深く、私もかなり世話をしてもらっている。
妹と違い、上昇思考で、近年ようやく父に代わって王の職についたそうだ。その関係でお父さんも城の憲兵になったわけだけど。それまでは、お母さんの実家でお姉ちゃんと働いてたぐらいだし。どこまで情けないんだ、うちの父と姉は。
「リリアちゃん。旅に出るのは構わない。自分を見つめるいい機会だ。ただ、その目的はなんだい?」
「……バカ姉の暴走を止めるため?」
「ああ……なんか魔王城を建設するからお金ちょうだいとか来てましたね。お金を渡したところで、ロロちゃんではどうしようもないだろうって言ったら、飛び出して行っちゃったけど」
「うちの姉が重ね重ねすいません」
「今に始まった事ではないから、いいんだけどね。飛び出してからはちょっと僕でも行き先は分からないな。……とりあえず、余計なことをしないように見つけてきてくれるかな?」
「ええ。元よりそのつもりですので。それと、王様の妹さんが一緒に行くとおっしゃってるのですが」
「は?アリス。なんのつもりだ」
「そんな睨まないでくださいよ兄さん。私もそろそろ結婚相手を探さなければと思いまして。リリアちゃんを援護しながら、相手探し」
「お前はまず城の業務からやりなさい……と言いたいが、どうせ聞きやしないんだろう。お前はやれば出来る子なのになんでやらないんだ」
「今がその時です。やれば出来る子を証明する時なのです」
「結婚相手を探すことがか。今までこちらが見つけてきては拒否してきたくせに。ソードさんはもう家庭も持ってこんなに立派な子まで育ててるというのに……」
「ソード君は関係ないもん!私がいなくなって寂しがるのは兄さんですよ!」
「食い扶持が一人分浮くから良いことだな」
「王族がそんなところでケチらないでよ……」
「どこかに移り住んでも、子供ができたら見せに来るといい」
「兄さんこそ早く相手を見つけてください」
「はぁ……とりあえず、妹をよろしく。リリアちゃん。んー一応、旅に出るなら何かしら役職を与えておくか。学生じゃなんだし。よし、リリアちゃん、君は勇者として旅をするんだ」
「勇者……?」
「ああ」
「……はい!私が勇者です!」
「よし。では、妹をよろしく頼むよ。アリスはしっかりサポートすること。迷惑かけない。暴走しない。分かったね」
「い、いつまでも手のかかる妹ではないのですよ」
「私はいつでも、何かしでかしたら切る覚悟ですので、自分の行動には責任を持ってくださいね」
「な、なんなの?この子。とても15歳には思えないわ……」
「お母さんに似たんだね。お父さんに似なくてよかったよ」
「全くです」
「まあ、魔王城建設なんて言ってるけど、あの規模のものがたかだか数日だけで建つわけないし、リリアちゃんの言うことなら、ロロちゃんも聞いてくれるだろう」
「…………とりあえず、頑張ってみます」
「こちらも出来る限りの支援はしよう。……一番行きそうなところはあそこかな。アリスなら分かるだろう?」
「ええ……あそこ線路開通したのに、また故障したとかで使えないじゃん。歩いて行けって?」
「別に休まず歩けなんて言ってるわけじゃないんだから。まずは、足取りから辿っていかないと」
「分かりましたよ……とりあえず行こうかリリアちゃん」
「あ、はい。では、行ってきます」
「ここからじゃ応援しかできないけど、頑張ってね」
こうして、行方不明の姉を探す私の旅は始まった。
いくつまで迷惑をかける気なんだあの姉は……。