表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合の勇者  作者: otsk
19/48

私の旅の始まり

 なんというか、決勝というものだからどれだけの猛者がくるのやらと思いきや、決勝まで上がったのは私とアックスさんだったので、くじ運が良かったのか、初戦のお姉ちゃん以外に特に苦戦することもなく優勝してしまった。

 いや、別に対戦相手が弱かったとかじゃないんだけどさ……。


「なんか遠慮されてた気がする」


「リリアちゃん可愛いから。美少女を攻撃することには抵抗があるんだよ」


「なんかお父さんみたいな持論ですね。お父さんもそれがなかったらお姉ちゃん拾ってなかったでしょうし」


 つつがなく終了してしまったが、優勝は私がした。準優勝はアックスさん。

 あの筋肉ダルマたちは見掛け倒しでした。ボディビルダーじゃあるまいし、動けなきゃ意味がないでしょうに。

 なんというか力任せに一撃で倒していくスタイルの方々だった。当たらなきゃ訳がない。動きを止め、翻弄し、急所を捉えて攻撃して行った結果である。卑怯とか敗者の戯言です。

 相手がギブするか気絶しないと勝利にならないらしいので、ギブとか生温いことしていたら私が危ないので容赦はしませんでした。お父さんから聞いたことが初めて役に立った気がする。


「リリアが怖かった……」


「ロロちゃんに強く出れるのって現状じゃリリアちゃんしかないんだよね。ソード君もウィナちゃんもなんだかんだどころか激甘だから。怒ってあげれる人が怒ってあげないといけないよね」


「なんかあの時だけリリアちゃんが異常な程に強く見えたんだけど……なんだったの?」


「……覚醒モード?」


「どこにスイッチがあるのか……」


 ティンクル君に聞かれたが、あれだけは本当に記憶にない。気づいたらお姉ちゃんが私に土下座して媚びてたぐらいだったから。

 そのせいなのかな?なんか対戦相手がみんな萎縮してたように見えたの。


「速報に『美少女バーサーカー現る』とか載ってるね」


「人を勝手にバーサーカー呼ばわりしないでよ」


 でも、傍目から見ても美少女って思われてるのか。それとも、ただ単に担ぎ上げられてるだけなのか。少し複雑なところである。


「あの……私、そんなに可愛いですか?」


「容姿だけ見るなら」


「性格が壊滅的に聞こえるんですけど、お姉ちゃん」


「そりゃ、見た目でこうやって速報に載ってるんだから、周りから見ても可愛いんだよ」


「…………。ね、ねぇ、ティンクル君はどう思う?」


「そこで僕に振るの?」


「おやおや?」


「なに?お姉ちゃん」


「いやべっつに〜」


 なんかムカつく。


「どうしてまた僕に」


「……とりあえず一番近くにいる男の子……だからかな」


「……可愛い……とは思うよ。なんか、面と向かって言うのは恥ずかしいね」


「なんかそっちが照れてると私も恥ずかしいんだけど」


「僕は正直な感情を言っただけなんだけど……」


 誰かこの空気をなんとかしてほしいんだけど。なんか、周りはみんなニヤニヤ見てるだけだし。すごい腹たつ。


「そうだ。ティンクル。お前に用があったんだ。すっかり忘れてた。ちょっと借りてくな」


「え?別にここでも……」


「気が利かねえな。鈍感坊ちゃんよ。そんなんじゃ、女の子に逃げられっぞ」


「絶賛10連敗中のアックスに言われたくないんだけど……」


「そりゃ、あれだよ。あれ」


 どこかの主語がない監督みたいな言葉だけでティンクル君をそのまま連れ去っていった。

 助かったといえば助かったけど、ここにこの2人を残して欲しくなかったというのは本音だ。


「春ですね〜」


「だね〜」


 だからなんなの?私たちは分かってるから的な立場からのセリフ。

 むしろ、あんたたちは自分の心配しなよ。私なんかより。


「どうせ私たちは行き遅れだもんね〜」


「どれもこれも、リリアちゃんのお父さんのせいだよね〜」


 いや、自分の責任だと思う。お父さんはちゃんと義務は果たしてるし。選ばなかっただけで、この人たちの相手はしっかりしてるし。しかも、アリスさんに至っては姫という立場にかこつけて、世話係させてるらしいし。城の憲兵はどうした?


「ウィナちゃんが羨ましい」


「あれを父親にもったらもったでそれなりに苦労してるんですよ?」


「常に勝つことを強いられてるとか?」


「いや、お父さんお母さんはそんなことに興味はないんで、ただ何事もなく育ってくれればいいって考えてるぐらいですし。ですけど、周りの目というのはありますからね……。主に姉のせいで」


「あれ?私のせいなの?」


「いや、お姉ちゃんは大したことなかったです。結局、今こそ、細々やってますけど、すごいことやった人なので、子供にも注目は集まるわけですよ。まあ、そうなることを予期してたのかなんなのか分からないですけど、幼少期からやることはやってましたからなんとかなってますけどね。まあ、そろそろボロが出ると思います」


「リリアちゃん強いよ?」


「年齢的に男子に勝てるのは今ぐらいだと思いますから。もっと、体格良くなってきますし、そうすれば私は小技に頼るしかなくなってきます。今回、決勝がアックスさんだったのが幸いしましたけど」


「……わざと負けてくれたとか?」


「謙遜はしてましたけどね。明らかに私より強いですよ。まあ、私がお姉ちゃんに勝つとは予想してなかったようですけど」


「でも、女の人でも強い人いるよ。ほら、エドさんとか」


「いや、見たことないんですけど、確かお父さんよりもパワーが上回るとかありえない人ですよね?」


 そもそも本当に人なのか疑わしいレベルでもある。

 お父さんも力を全て取り戻して、なお勝てないって言ってたしなぁ。鍛えればお父さんにも力押しで勝てるようになるんだろうか?


「ま、だからって言うわけでもないけど、攻撃力の増加魔法とかも最近はあるみたいだよ」


「男が同じように使ったら意味ないじゃないですか」


「補助魔法は魔法回路?っていうのかな?それが、男と女で異なってるらしくて、その関係で女しか使えないみたいだよ。ウィナちゃんは使えるって」


 だからうちのお母さんは何者なんだろう。魔女の血族だとか聞いた記憶あるけど、それを差し引いても魔法を使える数が多すぎる。私もそれなりに多い部類であるのだけど、どうしても見劣りする。お母さんと比べることはないんだろうけど。

 ちなみにお姉ちゃんは魔法の威力こそ負けてても数は私の方が多い。だからなんだという話でもある。


「ともかく、です。お姉ちゃん」


「はい」


「何がしたいの?」


「魔王城建設。そして、魔王としてその城に君臨します」


「それはなんとなく察しがついてる。作ってどうするの?また、魔王が来たって、どこの馬の骨ともしれない勇者がお姉ちゃんを倒しに来るのかもしれないんだよ?」


「みんなにもさ、モンスターと仲良くなってほしいんだよ。まあ、私も仲良くなったモンスターって一体しかいないんだけど。モンスターにすら認識されてない魔王の娘ですけども。そもそも、本当に魔王の娘かどうかも怪しくなってきてますけども」


「お姉ちゃんが魔王の娘かどうかは置いといて。今は、お父さんとお母さんの子供で私のお姉ちゃんでしょ。それで、人間とモンスターが仲良くなった先に何があるの?また、良からぬことを考えた人が戦争を起こすに決まってる。そんなの、お姉ちゃん一人の力で防ぎようがないでしょ?」


 いいところばかりを見つめて、理想卿を描くのはいい。でも、その先に何があるのかまで描かなくちゃいけないと思う。自分の理想卿を作った時点で終わりじゃないんだから。それはまだずっと続いていくんだから。

 全て、自分の思い通りになんていくわけない。

 だから、私はお姉ちゃんを止めに出たんだ。

 王様もそれを分かっているから、お姉ちゃんにお金を出さなかったんだと思う。


「世の中、お父さんみたいな人ばかりじゃないってお姉ちゃんだって分かってるでしょ?お姉ちゃんがやることを理解してくれる人なんて、もしかしたら指で数えれる程度しかないかもしれないじゃない。私たちが個人的にモンスターと仲良くしたいって、それだけじゃダメなの?」


「……リリアは私のやりたいこと認めてくれるんだね」


「うん……。どこかで聞いた。全部否定してばかりじゃダメだって。私はお姉ちゃんのこと好きだから、お姉ちゃんの力になれたらって思うから」


「そっか。お姉ちゃん嬉しいよ。よし、お金も少しあることだし、また旅に出ますか」


「また、一人で行くの?」


「ううん。今度はリリアも一緒に行こっか。私の友達に会いに」


 友達。

 そういえば、国には私の友達もいる。向こうは私のことを友達としても認めてくれてるんだろうか。でも、私がいなくても、きっと時間は過ぎ、私がいない日常に順応していく。私は、戻った時にそこにまた入れるんだろうか。

 私の周りに味方がいないわけじゃない。でも、自分がいた空間が別の何かで埋まってしまうのは少し悲しくもあり寂しい。

 でも、私は自分で選んで旅に出たんだ。


「お姉ちゃん、どこに行くの?」


「ん〜。ちょっと無人島に。まだいるのか分かんないけど」


「そんなところに行くの?行く手段はあるの?」


「ははは。空飛ぶ魔王城と違って、まったくいく手立てがないわけじゃないから大丈夫大丈夫。よし、じゃあ出発!」


「待て待て待て」


「どしたの?」


「まだ一緒に行く人いるから」


「あ〜あの、ティンカー◯ル君?」


 微妙に違う。妖精じゃないし、人間だし。ネバーラントに行きたいとかそんな病んだこと言わないし。


「リリアちゃんの彼氏だよ」


「違う!友達!」


 うん。そうだ。友達。友達。

 何度も言い聞かせて、新しく出来た友達が帰ってくるのを待った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ