姉妹の攻防(5)
「まったく……どれだけ迷惑かければ気がすむのよお姉ちゃんは」
「迷惑はいつまでもかけるよ。きっと死ぬまでね」
はた迷惑な姉だ、そう感じていた。
でも、私自身外の世界というものに憧れを抱いていたのかもしれない。その機会をもらったことにだけは感謝をするべきなのかもしれない。
だけど、感謝なんてしようものなら、この姉は確実に付け上がるので悪態を吐くような物言いとなってしまう。
すでに戦いのゴングは鳴っている。ただ、どちらとも動こうとしない。私としては出方を図っているのだが、多分お姉ちゃんは私の力を確かめたいのだろう。
余裕ぶってるのなら、今がチャンスだ。一撃で倒して、ゆっくり引きずって話を聞いてやる。
私は詠唱を始める。
無論、詠唱はなくとも魔法を放つことは可能だ。だけど、こうしたほうが更に威力の増幅をすることができる。
詠唱するなら独唱することはまずないんだけど、あのバカ姉は攻撃をしてこないようなので。本来、魔法は人に当たってもダメージがない云々言ってたような気がする。
お姉ちゃんは人ではないというかクォーターだから効くかもしれないけど。
……手足一、二本折ってったほうがこちらとしては好都合かもしれない。
私は最大火力の炎魔法をお姉ちゃんに向けて放つ。
これだけでは、きっと目くらまし程度にしかならないだろう。
まあ、大体向こうの目的は読めているから次の行動に移るのはたやすい。
「つ〜かま〜えた」
「ひっ!リ、リリアちゃん……」
やっぱり、逃げようとしていた。
かなり大きな砂煙が立ち込めている。
結果どうあれ、お姉ちゃんがここからあれ以上目立たずに逃亡するにはもってこいだ。
だから、私は挑発に乗って、ほぼ全力の魔法をぶつけた。
「……まあ、流石にかすり傷程度っていうのは気にくわないけど」
「お姉ちゃんをなめちゃいけないよ。リリアより無駄に歳食ってないんだから」
「無駄に歳食ってるなら、いい加減鬼ごっこは止めにしませんか?お姉ちゃん」
「は……はは……目が怖いよ。リリア。リリア可愛いんだから、笑顔笑顔」
「笑えるかぁー‼︎このバカ姉貴ー‼︎」
杖を剣に変え、斬りかかる。
ただ、姉も不用意に捕まっていたわけでもなかった。
私の足元が地面と一体化させられるように凍らされていた。
私の腕の長さでは射程距離が足りず、姉は後退して私の剣をかいくぐった。
「……やること汚いよ。お姉ちゃん」
「まあまあ。でも、私はまだ本気じゃないよ。リリアがそれで終わりなら、一枚一枚剥いでいくよ」
「やったら、お父さんとお母さんに言って、家から勘当してもらうから」
「すいません。アリスじゃあるまいし、そんなことしません」
アリスさんはお姉ちゃんにやったんだろうか。色んな意味で怖くて聞けない。ただ、アリスさん→お姉ちゃんの構図でも、お母さんブチ切れそうだしなあ。すごく優しいのに、いらないことばっかりするから、アリスさんは度々怒られてる。実の親よりきっと説教されてる。それでも、ヘコたれない。いい加減に折れてほしい。
「あの人のことはどうでもいいや」
「アリスをそんな邪険にしちゃスター怒るよ〜」
そして、この姉も姉で怖いもの知らずである。普通自分の国の王様を呼び捨てにしない。
呼び捨てにするのは、お父さんとそれこそ前王様ぐらいのものだろう。
この人、何様だろう。
「ふふふ。お姉ちゃんが何者か未だに計りかねてるようだね」
「出来損ないの魔王様」
「どストレートだよ!お姉ちゃん傷ついた!この傷をどう癒してくれるの⁉︎」
「うちに帰って頭冷やすまでは構ってあげないから」
「なら、私が逃げ続ければ構ってくれるってことだね⁉︎」
「なんで私の周りはこんな自分勝手思考の人ばかりなのよー!」
自分の姉だが、うんざりだ。30を超える人がなんでこんなに妹に構ってもらいたいのよ。
見捨てればいいのかもしれないけど、ばっさり切ることもできない辺りは私も大概なんだと思う。
「お姉ちゃん」
「なあに?」
「ちょっと、私の言うこと聞いてくれるかな?」
「愛する妹の頼みなら、いくらでも聞いてあげるよー。あ、でも、まだまだ家には戻らないからね」
「大丈夫だよお姉ちゃん……」
「あ、そう?」
「私が気絶させて無理やり戻すから」
「へ?」
その後、両者ともにその試合の記憶はないと言った。




