姉妹の攻防(4)
一回戦、第5試合。私たちの試合は一回戦でも最後だ。
それまでに到着すればいい。
だが……。
「勝者…………!」
第四試合の勝者が決まったようだ。
だが、姉の姿はまだ見えない。
多少、休憩の時間はあるとはいえ、そう時間もない。
このまま来ないつもりだろうか。そうなれば、不戦勝となる。普通なら、余計な力を使わずに上に進めることを喜ぶべきなのだろうけど、今は目的が違う。まず、戦うこと自体が目的となる。
そうなれば、私がこれに出てる必要性もなくなるといえばなくなる。お金も必要といえば必要だけど、そこはそんなに急く用事ではない。王様も私だったら協力を惜しまないって言ってくれたし。
アリスさんには一切援助しないとか言ってたけど。多分、その分余計に私に回してそれを使ってやれ、ということだろう。ツンデレ王様である。
「次の試合後の選手は所定の位置についてください」
「ほら、リリアちゃん。出番だよ」
「は、はい」
アックスさんに背中を押されて、フィールドに足を踏み入れる。
女の子ということもあってか声援は他の人より一際大きくなっているように聞こえた。
嬉しい限りだけど、対戦相手はまだいない。
「あ、あの〜ロロ選手〜⁉︎いませんか〜⁉︎」
アナウンスをしてお姉ちゃんを呼びかけるが、物音一つしない。どこをほっつき歩いてるのか、もう来る気はないのか。
少し寂しい。そんなにお姉ちゃんに嫌われちゃったかな。
「では、来ないようなので、勝者は……」
「ま、待ってください。あと、あと五分だけ。最終試合ですし、少しぐらいは問題ないですよね?」
「……あと五分だけですよ」
レフェリーは了承してくれた。
会場はまだざわついている。なんだかんだギャラリーは多いのだ。お姉ちゃんは予選で派手に動き回った上、容姿も割れているので、私より、お姉ちゃんの方を待ちわびている人のが多いに違いない。
その姉は、あと五分以内に来なければ失格となる。
こんな形で勝ち上がりたくはないのだけど、致し方ないのは事実である。
レフェリーは手元の時計を見始め、少し合図をした。
電光掲示板にカウントダウンが刻まれ始める。残り1分。
そもそも、普通は試合前には到着して用意してるものだ。無理を言って五分伸ばしてもらっている。いない、ということは来ないということだ。そんな簡単な話だ。
私は唇を噛む。
その理由はよくわからない。悔しいのか、それとも……。
残り十秒を切った。もう、来ないだろう。
私は、フィールドを去る準備を始めた。
「こらー‼︎そこー!相手に背を向けるんじゃなーい‼︎」
声が聞こえた。紛れもなく、お姉ちゃんの声だ。でも、入場門からの出入りは見られない。
なら、どこから?
それは、姉だけに許された参上方法だった。
「とぉーーー……っと、たった。あて」
盛大に飛び降りたと思えば、着地失敗でこけていた。
それでも、何事もなかったかのように立ち上がる。
電光掲示板は一秒で止まっていた。間に合ったということか。
レフェリーの顔はかなり血管が浮き出てる様子だけど。
「やあーすいません。お昼遠くで食べてたら、これでも急いだんですよ。でも、間に……合ってなかったようですね」
レフェリーにへこへこしているが、そんなので機嫌が直るはずもなく、忠告を受け、さっさと持ち場に着くようにしこたま叱られていた。
「なんだよー。ヒーローは遅れて登場するものなんだぞー」
「そのヒーローが遅れて、被害者出してたら意味ないじゃないですか」
「……まさか、一回戦からリリアに当たるとは思ってなかったよ」
「予選の時、わざと無視してたでしょ」
「流石に姉が妹の行く手を予選から遮ってたらいかんでしょ。大衆の中訳も分からず倒されるよりは、ちゃんと名前、知ってもらわなきゃ」
「別に名前を売るつもりはないんだけど」
「え?」
「え?って、別に有名になる気はなかったし……」
「じゃあ、なんでこの大会出てるのさ」
「一緒に旅してくれる人、探してて」
「スポンサーつけて、一稼ぎしようって話じゃなかったのか……がっかり」
スポンサーってこの国の王様からだろうか。ぶっちゃけ、自国の姫とこの国の王子が仲間にいるのですでに金の工面はしなくて済んでいる。
お姉ちゃんは王様から融資を断られてたけど。
というか、魔王城を一から建設って何年かかるプロジェクトなのだか。
「今度こそ、お姉ちゃん連れ戻すからね!」
「まだまだ妹に負ける訳にはいかんな」
私は、お母さんから譲り受けた杖を、お姉ちゃんはお父さんから強奪してった剣を構えた。
……それより、お姉ちゃん、お父さんの剣を使えたんだろうか。
今、開戦のブザーが鳴り響いた。




