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百合の勇者  作者: otsk
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姉妹の攻防(2)

 予選終了のブザーが鳴り響いた。

 残ってるのは私を含めて10人ぐらいだろうか。

 そうだ。お姉ちゃんは……。

 いつの間にか姿を消していた。

 ずっと上空にいるのも疲れるだうし、どこかで降りてたかもしれないけど、それにしても私に挨拶もせずにどこかへ行くとは……。

 本戦は2時開始とのことだ。

 それまでは休憩でもしてろということなのか、それとも、本戦用のフィールドにするためか。

 なんにせよ、お姉ちゃんがいないのなら、ここに止まってる理由もない。

 ティンクル君でも慰めに行きましょうかね。

 去り際に1人の青年ぐらいだろうか。出場者の中では私たちに次いでぐらいに線の細い人が私に声をかけてきた。


「ちょっといいかな?」


「なんです?ナンパなら間に合ってますよ」


「邪険にしなくてもそんなつもりはないよ。一応激励のつもりだからね。残ってる中では唯一の女の子のようだし」


 言葉は柔らかく、裏があるようにも聞こえなかったので足を止めることにした。


「聞きたいことがあるんだ」


「なんですか?」


「さっき、脱落しちゃったけど一緒にいたのはこの国の王子、だよね?」


「まあ、あれだけ騒々しく言ってて違いますっていうのも変ですよね」


「まあ、僕もこの国へ来たのは王子に用があったからなんだけど、旅に出たって言われちゃって、これには軍資金でも調達出来たらって出場したぐらいなんだけど。一応ベスト4までには賞金が出るようだし」


「あの、あなたは?」


「自己紹介がまだだったね。アックス・スカイ。アックスって呼んでくれ。僧侶のつもりだけど、腕っ節には自信があってね。最近は専らこっちだ」


 背中に背負った斧を指差す。僧侶でファイターなのか。


「私も自己紹介してなかったですね。リリア・ブレイバー。一応、勇者やってます。……必要なのかどうか知りませんが」


「もしかして、20年前に魔王を撃退したって勇者の娘さん?」


「まあ、もしかしなくても……ですけど」


「どうりで強いわけだ。見る目はあるつもりだよ。出場者の中では決勝に進めるだけの力があると思う」


「優勝できる……とは言わないんですね。アックスさんが優勝できるとでも?」


「いや、サシでやったらきついだろうね。予選でいただろ?上空で魔法を放ってた……人、なのかどうかはよくわからないけど」


 そりゃ、あれだけ派手な動きをしていたら分かるだろう。

 そもそもお姉ちゃんの魔法でほとんどの出場者を蹴散らしてしまったのだ。

 確かに、空を飛んでる以上、魔法、とも言えなくもないけど、翼を生やして飛んでいるので、それはむりがある話だ。


「私がこれに出場したのは一緒に旅をしてくれる人を求めて出たんですけど……さっき言った飛んでる人、あれ、私の姉なんです。元々の旅の目的が姉を連れ戻すことなんですけど……あの様子じゃ、本戦には出てこないかもしれないです」


「どうして?」


「そりゃ、私が追いかけてるんですから、追いかけられてる方は逃げるでしょう。姉もお金が欲しかったんだと思いますけど」


「そうだ。旅をしてるって言ったよね?王子も一緒にいるのかい?」


「ティンクル君のことですよね?ええ、一緒に旅してます。少し前に会ってあれやこれやで一緒に旅をすることにしたんです」


「君と二人だけなのかい?」


「だったらどれだけよかったのか……」


「ということはまだ誰かいるんだね?」


「ええ、一緒に旅に出た人が……」


「なぜ、そんなに話をするのが億劫そうなんだ?」


「察してください……」


「な、なんか嫌なことされてるだったら相談したほうがいい。僕でよければ、乗るが……」


 アックスさんがどこかへ吹っ飛んで行った。

 そろそろ来ると思ってたけど、来るなり人を蹴り飛ばすのは止めてあげましょう。


「リリアちゃんを口説くんじゃない!嫌がってるでしょうが!」


「いえ、そんなところで言っても聞こえないと思いますけど」


 どれだけ強い力で蹴り飛ばしたんだろう。

 いくら細いとは言え、どちらかといえば細身で筋肉質っぽい人だったから、ティンクル君とは体重は段違いだろう。

 軽くコロシアムの奥まで転がってるけど。

 上手く受け身を取れたのか、すぐに立ち上がってこちらへ戻ってきた。


「この人は?」


「お察しくださいの人。アリス・グラスフィールドさん。こんな見た目だけど、私より年上だしもう30過ぎてる」


「どこにあんな力が……というより、いきなり人を蹴り飛ばさないでください」


「うちの可愛いリリアちゃんは渡さない」


「この人の娘なのかい?」


「懇意にしてもらってるだけです。度が過ぎてるので辟易してます。まあ、いざとなったらこの人のお兄さんに訴えるので大丈夫です」


「そ、そうか……」


「で、アリスさん。ティンクル君は?」


「私より、ティンクル君にお熱?妬いちゃうぞ」


「一緒にいたんじゃないんですか?」


「いや、多分観客席にいたら迷惑こうむるだろうからどこか離れた場所にいるんじゃないかな?」


「役に立たない付き人ですね……」


「うわー役に立たない扱いされちゃった。こんなにも熱烈なエールを送っていたというのに、それは届いてなかったということだね」


「だったら出場すればよかったじゃないですか。とにかく、私はティンクル君探してくるので、アックスさんに謝っててください」


 踵を返して、二人を残していった。

 アリスさんに言われた通り、ティンクル君にお熱なのかもしれない。

 別に好きとかそういうわけでもないけど……。そもそもそういう感情自体がよく分からない。お父さんやお母さん。お姉ちゃんや妹だってもちろん好きだ。でも、家族愛とは別物ではあるのだろう。

 ティンクル君はなんというか、ほっとけないという感じなんだろう。

 私より一つ年上のはずだから、私に心配される道理もないだろうけど。だから、勝手に心配してるだけだ。

 誰か一人にこういう行為を向けるのは、その人が気になってるから?

 会って数日なのに……。

 しばらく歩いていると目的の人物を見つける。


「ティンクル君」


 よかった。声は上ずってない。話しかける時に緊張もしてない。……なんで、一々こんなこと確認してんだろ?


「リリアちゃん……。情けないところ見せちゃったね。バカにするなら、思いっきりしてくれ。そのほうが気は楽だよ」


「やーい。氷があるのに気づかずに自分に酔って転んでやんのー。……って言えばいいの?」


「正直、事実を突きつけられるとぐうの音も出ないよ」


「でしょ?自分で分かってるならそれでいいじゃない。うちのお父さんなんて家じゃいつも間抜けなんだから」


「勇者さんでもそんなことあるんだね」


「いや、本当に何かと戦うことに特化したような人だから、他のことに無頓着というか、常識が欠けてるというか……注意力散漫というか……」


「随分な物言いだね」


「でも、すっごく優しい。見方を変えれば甘やかしすぎって言えなくもないけどね。私はお父さんが私のお父さんでよかったって思ってるよ」


「それは親冥利に尽きるだろうね。僕は仮にも王族として生まれてきたんだ。だから、逐一動向をチェックされる。周りより出来なきゃいけない。本人に才能がなくたってね。……僕にはそんな才能はなかった。何するにも長続きしないし、途中で投げ出す。だから、段々見離されてくのを感じたよ。逆によかったのかもね。プレッシャーがないほうが楽に生きていける」


「旅に出たのも周りの期待から逃げるため?」


「……かもね。それが理由でなくても、僕は弱い。予選を勝ちぬけないのも慢心からだろうね」


「だーもう‼︎うじうじうじうじ‼︎終わったことはしょうがないでしょ⁉︎周りから期待されるのが辛いのは分かる。それに応えられないことだってある。でも、生まれた者の責任ってあるでしょ?ティンクル君はこの国の人に平和に暮らしてほしいんでしょ?だったら、ティンクル君が王様にならなきゃ。そのために強くなりたいんじゃないの?」


 早口にまくしたてる。私にティンクル君のことが理解できてるはずもないし、私に言う資格があるかも分からない。でも、言っておかなくちゃ気が済まなかった。

 男の子には強くあってほしいから。凛々しくいてほしいから。

 幻想を押し付けているのかもしれない。それほどまでに強くないから、ティンクル君は旅に出たんだろう。

 見離されてきたからこそ、旅で強くなって誇れる自分になって、認められようとしてるんじゃないのかな。

 だからこそ……今、弱音を吐いて欲しくない。


「決勝トーナメント。アリスさんと見てて。私を見てて。私が勝っても負けても一緒に私といるなら強くなれるって思ってほしい」


「リリアちゃん……」


「そうだ。お昼まだだったんだ。一緒に食べよ。気分転換しないと」


「……そうだね。リリアちゃんからはいつも元気もらってばっかりだ。ちゃんと恩返しはするよ」


「もっと立派になってからでいいよ。今のティンクル君じゃ頼りないから」


「ストレートだね。少し悲しいけど……現実だ」


「あ、そうそう。さっき、ティンクル君の友達……かな?アックスっていう人に会ったんだけど、なんかティンクル君に用があったらしいんだけど」


「……ああ。昔からの友人だよ。いわゆる幼馴染。向こうは二つ上なんだけどね。何だろう、また急に。僕がたまたまいたからいいものの」


 ぶつくさ言いながら、もたれかかっていた壁から、歩く姿勢へと変えた。

 少しは前に向けたのかな?

 小さくお腹が鳴ってお腹を空かせてたことを思い出した。






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