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百合の勇者  作者: otsk
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姉妹の攻防

 私はお姉ちゃんに目を向けた。

 だけど、その目線に気づかないのか、そもそも私が出場してることすら眼中にないのか、わざと目を逸らしているのか。

 ならば、気づかせるまでだ。

 お姉ちゃんの氷魔法に相性のいい炎の魔法を繰り出す。魔法にも相性というものがある。私の魔法は風魔法に弱い。微力なら増長させることも可能だが、強ければかきされてしまう。

 魔法も自然の摂理にしたがってるのだ。

 どうしてそれが人の手で繰り出せるようになったのか分からないけど。それも遠い昔のことだ。

 自称、30歳の姉はもっと昔のことを知ってるんだろうか。

 思えば、お姉ちゃんのこと、何も知らないで生きてきたような気もする。

 あるいは私にそれを聞かれないように仕向けていたのかもしれない。

 どこで綻びが出るか分からないからだろう。

 本当にこんな状態で協力なんて出来るのかな?


「リリアちゃん危ない!」


「わっ!」


 急に襟元を引っ張られたかと思うと、目の前を短剣が飛んで行った。


「大丈夫?」


「少し首しまった……。ごめん、ぼーっとしてて」


「お姉さんの方に気が向きすぎだね。どうやら、お姉さんは僕たちに攻撃する様子はないようだし、地上に残ってる人をやっつけていこう。とはいえ……」


 未だ地面は氷のリンクだ。魔法で溶かそうという動きもみられるが、そんなちゃちな魔法で溶けるはずもない。修行して、氷魔法だけはお母さんも凌ぐって本人から言わしめたんだから。

 さすがに魔王の娘と言ったところだそうで。潜在能力は未知数だったってところだろうね。


「じゃ、モブキャラを一掃していきましょうか」


「いや、他人を捕まえてモブ呼ばわりは酷い扱いだと思わない?」


「どうせ、名前すらも知られてないような自称腕っ節のある人でしょ?」


「その棘のある言い方だよ……」


 そうしてる間にも氷で滑ってどんどん脱落者が出てくる。

 うーん。これでは、決勝トーナメントとか必要なくなるような……。


「そうでもないみたいだよ」


「そう?」


「あそこの人は氷を自分の力で壊して行動範囲を確保してる。あそこの人は氷の上でも自在に体を操ってるし、他にも数名はお姉さんを警戒しながらも、他の出場者を脱落させてるみたいだし」


 まあ、多少は腕に覚えのある人が出る大会だけあって、ハプニングの対処には慣れてる人も多そうだ。

 そもそも、これだけで脱落しているのようなら仲間に誘うだけの力量はないってことだし。

 姉は最初の攻撃から手を止めて、空で滞空している。

 コロシアムは吹き抜けになっていて、今日は快晴だ。だが、まだいうほど暑くないし、お姉ちゃんが作った魔法が暑さ程度でやすやすと溶ける代物とも思えない。

 溶かす方法は物理的にいくか、お姉ちゃんを気絶させるかしないといけない。


「ま、私には関係ないか」


 私は手前に貼られていた氷を溶かした。やすやすと壊れるものではないが、一点集中というか、お姉ちゃんにしては雑な魔法なので、欠陥が多い。

 私はすべての基本魔法を習得しているが中でも炎の魔法に特化させてきた。

 理由がお姉ちゃんに少しでも有利に働かせるためっていう子供っぽい理由だったけど。それが、役に立つとは思わなんだ。

 しばらく戦ってなかったけど、これのような欠陥なら私の魔法でも通用しそうだ。

 しかし、これ以上溶かす理由はない。氷の上に立っているわけではない私は他の出場者よりも有利な立場にいるということだ。

 わざわざ溶かして、他の人を助けることはしなくてもいい。

 私は魔法を切り替え、炎から雷へとシフトさせた。

 威力は高い。が、その威力の分命中精度に難を残す。

 雷魔法は二つ発動方法がある。

 一つは他の魔法のように自分で生み出す。もう一つは、空に雷雲を発生させる方法だ。こっちは水魔法も使えないと自力で発生させるには天候に左右されてしまうのだが、私には関係ないか。割と万能に覚えてきたのだ。お母さんの実家が魔法書がなんでも揃っていたので、片っ端から読みかじって、習得していったのだ。

 お父さんからお母さんそっくりだなって笑ってたな。

 そのお父さんの実家にはほとんど立ち寄った記憶はないけど。

 考えながら魔法を放っているが、多少思考したところで、それが魔法に影響が出るわけでもない。切羽詰まってるならまだしも、ティンクル君もいるのだ。

 ただ、ティンクル君はずっとフードを目深に被っている。正体が一応バレないようにしてるらしいのだけど、あまり激しく動いたら取れるんじゃないだろうか……。

 ふと、一陣の風が巻き上がる。

 誰かが魔法を使ったんだろう。それが、攻撃のためなのか、自分の立ち位置を変えたいためなのかは分からない。

 ただ、その軽いフードを脱がせるのには十分な風だった。


「あ……」


 ティンクル君は慌ててフードを被り直したが、もう遅いだろう。

 さっきからわんわん呻いていた実況が言わなくてもいいのに、それを盛大にバラしたのだ。


「ティンクル君?」


「……いや、予選だけのつもりだったよ。顔を隠してるのは。まあ、バレたくなかったのは出場云々よりも、親に戻ってきていることを知られたくなかっただけだから……まあ、今更言い訳しても仕方ないね。邪魔なしがらみはなくなった」


 ティンクル君はフード付きのコートを脱ぎ捨てた。剣を改めて握り直して、まだ残ってる出場者に特攻を仕掛け……


「ま、待って!ティンクル君!」


 静止も聞かず、突っ込んで行ってしまった。

 酔っていたんだろう。

 後はお察しだ。

 氷のリンクに足を取られ、転倒。肩の風船を割ってしまった。

 ティンクル君はとても申し訳なさそうに、私を見た。声をかける元気もなくしたのか、そのままコロシアムを出ていてしまった。

 後で慰めてあげよう。

 そのためには、後残り時間を生き残らないと。

 ええと、後人数は10人そこそこか。確か、8人になった時点で時間が来てなかろうが終了ともあった気がする。

 仕方ない……。

 私はティンクル君の二の轍を踏まないように、敵の密集している地帯に赴いた。






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