姉をお願いします
ある勇者さんは、魔王の子供を拾いました。
その魔王の子供は、自分たちに害をなす勇者たちを恨んでいました。
それもそのはずです。
そのせいで、自分は親と引きはされてしまったのですから。
ですが、その魔王の子供が出会った勇者さんはとても優しい人でした。
魔王の子供だと言って偏見を持たず、耳を傾けて、その魔王の子供が家に帰りたいという話を聞き、送り届けてあげることにしました。
それが、二度目の旅の始まりでした。
ですが、その勇者さんは以前の旅で力を失っていました。
お城も宙に浮いていて行く手段がありません。
勇者さんはお城へ行く道を探りながら、奪われた力を取り戻しに行きました。
ある時は無人島生活をし、ある時は妖精の住む里へと赴き、ある時は砂漠のオアシスへと足を運びました。
困難を乗り越え力を取り戻した勇者さんは、色んな人の力を借りて魔王の住むお城へと着きました。
ですが、そのお城へ着いた時、その魔王の子供の親、つまり魔王は別の人の手によりすでに倒されてしまってました。
事情も聞かずに手をかけたことに激昂した勇者さんは、その人を責め、倒すことに決めました。
他の仲間は、その人の中に潜んでいた悪魔と戦闘することになり、勇者さんとその人は一騎打ちをしました。
結果は、魔王の子供の手を借り、勇者さんは勝利を収めました。
そして、魔王はいなくなってしまい、途方にくれた魔王の子供は勇者さんに引き取られ、平和に暮らすことになりましたとさ。
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簡単にうちの親の冒険譚を語られた。
魔王の子供というのは私のお姉ちゃんだ。
その人、というのは先ほどのセド・ギルフォードのことだろう。
「魔王の脅威に怯えることがなくなったのはその人のおかげでもあるんだよ。でも、その魔王はこの世界の侵略なんて考えてなくて、しばらくの間は孤児院の先生をしていたんだって。魔王は魔王なりに人間に歩み寄ろうとしてたんだよ。でも、それが伝わるはずもなくてね。……だから、モンスターと人間が仲良くしようっていうのは難しいことなんだと思う」
「結局、どっちが正しかったんですか?」
「どっちも正しかったのかもしれないし、どっちも間違ってたのかもしれない。今のこの世界はきっと、ただの結果論でしかなくて、どちらに転がってたにせよ、この世界に生きる人はそれに順応して生きていくんだよ」
「お姉ちゃんの本当のお父さん……か。ちょっと会ってみたかったな……」
「たぶん、本当に侵略する意思なんてなかったんだろうね。一度ソード君が撤退に追い込んだ後も、わざわざ2年も間を空けてたのに、特に動きを見せなかったから。本当、不憫な人だったよ」
「でも、ともすれば魔界?ってとこがあるってことですよね。ドラゴンはもうなくなってしまったって言ってましたけど」
「私も行ったことないし、ロロちゃんも記憶がないって言ってるから、どんなところかはあまり分からないけどね。ただ、つまらない世界だっていうことだけ聞いたけど」
「まあ、でもこっちに来て、襲われたりしても居続けたのは、それだけ人間の世界が魅力的だったんでしょうね」
「そういうことだね」
「でも、魔王っていう制度もこの世界で途絶えさせたのに、また復活させて意味はあるのかな?」
「あるのかもしれないし、ないのかもしれない。もしかしたら、また襲撃を受けるかもしれない。でも、やらなければ何も変わらないから、ロロちゃんはやろうと思ったんじゃないのかな?リリアちゃんも応援したいんでしょ?」
「応援はしてあげたいですけど……でも、危険な目に合うなら、それなら辞めて、一緒に平和に暮らして欲しいです」
「ま、なんにせよ、手回しはしないといけないね。王子様?」
「ここで僕に振るんですか?……そちらの国次第ですよ。僕が決定権を持ってるわけじゃないですし、そちらの国王様は何て?」
「動向を見守るってところかな。兄さんは私に厳しいくせに、ロロちゃんには甘いんだから」
当然、というか、この自覚がないのか、分かってて言ってるのか、うちの姫様は。
自業自得という言葉がピッタリすぎる。
せめて、もう少し早い段階で結婚してればまだこうはならなかったのかもしれないのに。
王様も甘やかしすぎたって反省してたけど。
「はあ……私もモタモタしてたら、もう伯母さんだよ。絶対兄さんより先に子供見せるって思ってたのに」
「二十歳そこらで子供産んだ人もいますけどね」
「あそこは、二十歳以前に子供は引き取ってたからノーカン。私たちが引き取って可能性もあったんだから」
「お父さんがバカみたいに溺愛してて、お姉ちゃんもお父さんのことが好きだったからついていったって言ってたので当然の結果なんじゃないんでしょうか?」
「というか、ロロちゃんも結婚しないとそろそろいい歳じゃないの?」
「アリスさんよりまだマシですけど……ただ、年齢詐欺のところもあるので、ロリコンを探すしか……」
「自分の姉を捕まえてロリコンってそれでいいのか」
よくないです。
でも、姉が各地をまわってる間にいい人を見つければいいけど、私が見繕ってもいいかもしれない。
でも、魔王に偏見を持たず、あの容姿で受け入れてくれる人ってかなり限られるような……。
実際、私の目から見ても愛くるしいという表現が未だに合う稀有な存在だけど。
「やっぱりお父さんが養ってけばいいような気もしてきた。お姉ちゃんを許容できるのってそんなにいないと思います」
「今から信頼を築くって言っても時間かかりそうだしね……」
「えっと……お姉さんは今いくつ?」
「……確か、今年30?いや、今30か」
「……とても、そうは見えないね……」
「……そうだ!こんなところにいるじゃない!」
「え?」
「お姉ちゃんをよろしくお願いします」
「いやいやいやいや」
「ティンクル君しかいない!」
「いやいやいやいや」
「そこをなんとか!」
「素性もよく知らないのに、それに向こう側がいいとは限らないじゃないか」
「あ、お姉ちゃんが拒まなければオーケーなんだね」
「すごく都合よく解釈されちゃった……リリアちゃんもなかなかに強引だよ。それに、忘れてるかもしれないけど、一応王子なんだけど……」
「玉の輿!奥さんがこっちの国の王様のお墨付きならなお安泰!」
「……考えておくよ」
「毎度あり!」
あとはお姉ちゃんを説得しよう。
ティンクル君がなんだかげんなりしてたけど、私の見間違いだよね。
話が済んだところで大会のエントリーへと向かった。




