その歴史に名を
ティンクル君の国は一週間ほど歩いてようやくたどり着いた。
どうやら、私たちの国とも連携を取っているそうだ。
それならば、このお姫様もティンクル君のことは知っていても良さそうなものだけど……。
「ん?どうかした?疑問があるならいくらでも答えるよ。リリアちゃんのためだもん」
「いえ、どうせ面白半分なんだろうな、って結論がついたのでいいです」
「何それ?」
この人にそういう方面を期待したところで、気遣いなんてものは出てこないだろう。
基本的に自分勝手なのだ。
私が付いて行ってるのか、この人についてきてもらってるのかは疑問なところではあるけど。
「そうだ。闘技場っていうぐらいだし、強い人もたくさんいるでしょ?せっかくだし、仲間になってもらったらどうかな?」
「……どうだろうね。ああいうところは野蛮な人も多いから、あまりお眼鏡に合う人がいないかもしれないよ?」
「いや、絶対いるね。それが、ご都合主義というものだよ」
「どこの世界の常識なんだろうかと……」
理想としては無骨で口下手だけど、心優しい人がいいかな。
お父さんは無骨だけど、口は無駄にうまかったそうです。
なんというか、自分のことより人のことを考えて行動する人だとか。
やっぱり、そういう人は憧れるよね。
身を呈して自分を守ってくれるんだもん。
まあ、私には必要のなかった話ですけどね……。
「リリアちゃん、自信はある?」
「まあ、対戦相手を見ないことにはどうとも言えないけど……闘技場って魔法禁止?」
「基本何でもありだよ。それゆえに女性が参加することはほとんどないけどね。ただ、一度だけ参加して優勝をかっさらっていっためちゃくちゃ強い人がいたって話だよ」
「へえ〜」
「そうだ。先に闘技場に行く前に歴代のチャンピオンでも見に行かない?前回の優勝者ぐらいなら出てくると思うし」
「その闘技場でどれぐらいのスパンで開催されてるの?」
「大から小まで様々な大会がやってるよ。でも、今度行われるのは、年に一度の一番大きい大会だよ。それゆえに、優勝商品も豪華でね。参加者も多いし、強い人が下馬評通りに勝ち上がるとも限らないんだ」
「それはどうして?」
「予選があってね、それは実績関係なく時間制限のあるバトルロワイアルなんだ。その大会によってルールは変わるけど、基本的には装備したものを破壊すればそれで負けが認められるっていうものでね。不意打ちなりなんなりで負けることもあるから」
「へえ。でも、やっぱり勝ち上がる人は強いよね」
「まあ、運で勝ち上がった人がさらに上まで勝ち上がるのはさすがに難しいからね。歴代のチャンピオンは闘技場横の博物館に写真が飾られてるよ」
「よし、行ってみよう。アリスさん行きます?」
「あ〜うん。そうだね」
「どうかしまたか?」
「なんとなく、知ってる人のような気がしてね……ウィナちゃんではないと思うけど」
「お母さんからそんな話は聞いたことないですね」
「だよね。ウィナちゃんは魔法だけに特化してたから、そういう乱闘になりそうなのは参加しないと思うけどね……」
「なら誰なんですか?」
「まあ、行ってみれば分かると思うよ。最低でも20年ぐらい前の話になりそうだけど」
「?」
20年も前ってなると、お父さんとお母さんが最初に旅をしていた頃か。
そういえば、同行していた2人が仲悪いくせに無駄に強くて、自分が置いてけぼりにされてたって言ってたな。
ちょっと名前が思い出せないけど、きっとそのうちの2人のどちらかだろう。
2人ともほとんど魔法は使わなかったって話だけど、剣とか体術だけでそこまで出来るものなんだろうか。
「あ、リリアちゃんここだよ」
「随分といっぱいいるね」
「割と歴史が長いからね。ちょうどその女性の人が優勝した時は10回目の節目とかだったでかなり盛り上がったらしいよ。まあ、僕も生まれる前だけどね」
「そういえば、入場料とかは?」
「それは、これだよ」
しーっと、口に指を当てた。
大方、権力の濫用でもしたんだろう。
提携国の姫がいるので私も必要がないといえばないんだけど。
ただ、この姫はニートもいいところなので、世間一般の認知があるかどうかは疑問を抱かざるを得ない。
ともすれば、やはりティンクル君の知名度に頼っても問題はないだろう。
私だって、世界を救った勇者の娘なんだから、もっと世界的な知名度はあっても良さそうなんだけど……。
ちょっと聞いてみよう。
「アリスさん、アリスさん」
「今度こそ質問?」
「一応、勇者は世界を救った英雄なわけじゃないですか。勇者、っていう存在は世界中に広まってますが、勇者のその後の顛末はあまり広まってないですよね?」
「あ〜それね。兄さんが目立ちたくないから凱旋も何もしなかったんだよ。魔王城がなくなったから、ああ、誰かが何かやってくれたんだなって程度で。一応、勇者がやったことが広まってるのは、修道院に立ち寄って、広報してもらったからなんだよ」
「他の人のことは隠して?」
「その時は、私もロロちゃんもいたからね。無闇に誰がいたって言えなかったんだよ。だからソード君だけ名前を出して、他は勇者一行ってだけにしておいたの」
「でも、有名になったら、誰かその後を嗅ぎつけてきたりしないんですか?」
「修道院がその辺りも手を回してね。それ以前にうちの国がそこまで大きな国じゃなかったこともあって、未だに所在地不明のままになってるんだよ。この人が勇者でこの国に住んでるって知ってる人は、うちの国の人と、それ以外はほとんどいないんだ」
「そうだったんですか……」
「自分のことがあまり知られてなくて残念だった?」
「いえ、でも知られてたら知られてたでアリスさんのような人が増えるだけだと思うのでいい迷惑ですから、良かったと思います」
「つまり、私だけは認めてくれるってことだね!」
「どう解釈したらそうなるんですか!」
「二人とも静かに」
ティンクル君にたしなめられ、意気消沈する。
いや、そりゃ騒いじゃいけないところですが、声を出さざるを得ない発言をする向こうサイドに問題があると思う。
仕方ないので、会話を中断し、初代からの優勝者を順に見ていくことにする。
なんだか、屈強な人ばかりでやはり、こういう人じゃないと優勝は難しいのかな……と思いつつ眺めながら、第10回の優勝者に目が留まった。
年の瀬は20代中盤ぐらいだろうか。
それでも、周りの優勝者も比べれば、女性のためにあまり力強さを感じられない。
「アリスさん。この人ですか?」
「ああ、うん。やっぱりだ。この人はエド・ウォーカーさん。砂漠のオアシスで今も孤児院の代表やってるのかな?ソード君とウィナちゃんと一緒に旅していた人だよ。ソード君は名前を出すだけでもげんなりするほどの人らしいよ」
「はへ〜」
なんとも情けない声が漏れ出る。
お父さんも一時期はうちの学校で剣術の講師をやっていて、鬼教官やらなんやら言われてたみたいだけど、それでも形無しなんだな。
まあ、お父さんより強いって話だし、納得はできるか。
「ねえ、ティンクル君。準優勝者の資料はない?」
「優勝者しか飾られないからないかな……。どうして?」
「いや、もう一人めちゃくちゃ強い人がいたってお父さんから聞いたからもしかしたら、出てたのかなって」
「ちょっと聞いてみるよ。近年だったまだしも、この辺りの年になると僕も生まれてないから知らないことが多いんだ」
受付の人のところにいって資料があるかどうかを聞いてきてもらう。
アリスさんであれど、お父さんとお母さんの前の旅の全容は知らないと思うし、でも……。
「どうかした?」
戻ってきたティンクル君に声をかけられる。
「いやね。あのドラゴンとアリスさんの話を統合すると、もう一人の一緒に旅してた人って多分亡くなってると思う」
「え?そうなの?」
「うん……。私のお父さんが倒して、そこから所在が不明になってるけど、城が崩れた際にほとんど瀕死の状態だったらしいから、生きてると考えるのは難しいって」
「そうか……。でも、一応3位までの資料はあるって。もらってきた」
「アリスさん。2位か3位の人に知ってる名前の人いますか?」
「なんだってまた?」
「ちょっと気になったんです」
「え〜っと……あ、2位の人。セド・ギルフォード。この人がリリアちゃんの親と一緒に旅してた人」
「う〜ん。男の人ですよね?負けたんでしょうか?」
「花をもたせた可能性もあるね。まあ、真意は定かじゃないけど」
「あと……もう、この人って生きてないですよね?」
「……どうしてそう思う?」
「たぶん、お父さんが倒した人だからだと思います」
「正解。形としては敵討ちだったんだけどね。あの人はあの人なりの正義を掲げて行動してたけど、どちらの意にもそぐわなかったの。なかなか難しいね。何が正しいのかは、誰が決めることでもないんだから」
「そのために法律があるんじゃないんですか?」
「法律を超えたところで、だよ。……ちょっと、外に出て話そうか。エントリーは2人ともする?」
「まあ……一応」
「私が今度は名を刻んでやりますよ」
「ティンクル君、そのエントリーはいつまで?」
「来週からなので、今週末までにエントリーすれば大丈夫です」
「じゃ、ちょっと時間をもらおうかね」
受付の人に会釈をして博物館を後にした。
アリスさんが話したいことってなんだろうか。




