第三話 赤い目の少年
緑の樹木を連想させる見た目とは反対に素早く、瘴気を固めた棍棒を振り下ろす。その一撃で数十人が吹き飛んだ。再び振り降ろされる棍棒を大目入道が抱えるように止める。その隙に他の妖たちが攻撃しようとするが、他の二体に邪魔されてしまう。
「くっ……!」
棍棒となっていた瘴気が霧散し、大目入道に絡みつく。
樹海の鬼は纏っていた瘴気で新たな棍棒を生み出し、大目入道に殴りかかる。大目入道は避けようとするが、絡みついた瘴気で身動きができない。まともにくらった大目入道は地面をえぐりながら後方に吹き飛ぶ。
「大目入道さん!!」
止めようとする盲目の死霊を振り払い、少女は大目入道のもとに駆けつける。
「……譲、ちゃん……なに、やってんだ」
「しゃべらないで! すぐにろくろ首さん呼んで来るから!」
少女が立ち上がろうとしたとき、戦っていた妖が叫んだ。
「譲ちゃん逃げろ!」
少女が振り向くと、大目入道を殴ったのとさらに別の樹海のがこっちに向かってきていた。
「……譲ちゃん……俺が奴らを……引き止める……そのうちに、逃げろ」
「え……」
大目入道が少女に背を向け、走り出す。
「ウ、オオオオオォォォォォォォ!!!!」
樹海の鬼に突進し、そのまましがみつく。
「大目入道さん!」
しかしすぐに振り払われ、樹海の鬼が纏っていた瘴気に再び拘束されてしまう。もう一体が真上に振り上げた棍棒が大目入道めがけ、振り下ろされる――瞬間、
不自然な風が巻き起こり、樹海の鬼が二体ともバラバラに斬り崩された。
大目入道はその目を大きく見開く。樹海の鬼の残骸の向こう側には銀髪の少年が一人立っていた。紺と白の烏羽を纏ったその少年の目は赤く鋭く光っている。
残った一体が少年の後ろから襲い掛かる。
「!! ……坊主、逃げろ!」
大目入道が叫ぶ。だが、少年は狩人のような瞳で見据えると懐から記号の描かれた長方形の紙を三枚取り出し、樹海の鬼に向けて投げつける。三枚の紙はそれぞれ一つの風になったように舞い、樹海の鬼を一瞬で切り刻む。切り刻まれた体は重力に従って崩れ落ち、役目を終えた護符は宙で燃え尽きる。
「……まじかよ」
妖たちはその光景に目を釘付けにされ、口を開けたまま唖然としている。
少年は樹海の鬼が動かなくなったことを確認すると大目入道たちに歩みよってくる。そして、少し手前で立ち止まると懐からさらに数枚の紙を取り出す。
「オンコロセンデン…………」
なにやら小声で呪文のようなものを唱えるとそれを真上に向かって投げる。数枚の紙は少年の真上に陣をつくる。陣は妖しくそれでいて太陽のような光は発する。
突然、一体今度は何をするつもりだと少年を見ていた妖たちの体がまるでなにかに乗っかられているように重くなる。
「う、動けない……」
それはどうやら社の中にも及んでいるようで盲目の死霊が唸る。
「みんなどうしたの!?」
「譲ちゃんは動けるのか」
少女にはこの力は及んでいないようだ。
「!! 譲ちゃん逃げろ!」
少年が少女に近づいてきている。だが、少女は逆に少年に近づいていく。
「なにやってんだ!」
少女は大目入道に振り返らずに言う。
「みんなを置いていけない!」
やがて、少年と少女が対峙する。
「あなたは誰なの? ――!?」
少女が少年に問い詰めようとすると少年は突然ひざまづき、頭を下げる。その予想外の行動に妖たちも少女もみなが目を見開く。
「お迎えにあがりました――――巫女さま」




