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プロローグ

 少年が目を覚ましたのは、日差しの届かない真っ暗な場所。

 体には至る所に切り傷や擦り傷があり、致死量には至らないにしても結構な血が体に付着している。

 ジャリという音と共に少年は立ち上がり、辺りを見回してみても、暗闇に目が慣れていないせいで、まったくと言っていいほどなにも見えてはいない。

 血の臭いが充満する場所にいるという事実だけが存在して、他に誰かいないかと大きな声を張り上げて


「どなたかいらっしゃいませんか!」


 と、育ちの良さが窺える問いかけには誰からも返事はない。

 それもそのはずでこの『乗り物』の中には生存者などいるはずもなく、唯一存在しているとすれば彼だけ。

 やっと目が慣れてきて、うっすらだが辺りを確認することぐらいは出来るようになっていた。

 電車の座席だろうモノが彼の左側にあって、座席としての役割は果たしていない。

 足元はガラス片が所狭しと落ちていて、素足で歩けるのは中国4000年ほどのレベルがなければ無理だと少年は思う。

 立ち止まっていてもなにも始まらない。

 少年は近くにあった杖のような棒で、天井と化している窓ガラスを突いて、破片を粉砕してから座席に足をかけて、窓へと飛び移る。

うまいこと、窓ガラスのふちに掴まることに成功して、懸垂けんすいと同じ要領でグっと顔を窓の外へと出すと、そのままの勢いを殺すことなく体も一緒に外へと押し出す。

 運動神経のいい彼だからこそ出来た技だと言える。

 外に出て彼はなにがあったのかを悟った。

 横転した電車の中に自分がいて、横転した場所がトンネルの中だということ。

 それに、不思議な点がいくつかあることに、彼は考える。

 どうして自分が電車に乗っているんだろうか。

 乗客がいないのはどうしてだろうか。

 考えても、彼の脳は答えを導き出してはくれなかった。

 乗客のいない電車を進む光景は、とても新鮮で、特に横転している電車の上を歩いているのも、他の人から見たら驚かれるに違いない。

 どっちが前か後ろか。

 それもわからないまま彼は歩き出す。

 すると、小さな光が見えてきて、彼の心にも光が差し込んだように、歩くスピードが少しだけ速くなる。

 電車もいつまでも続くわけでない。

 先頭車両だろう場所まで行って、飛び降りられる高さなので、なんの躊躇ためらいもなく飛び降り、彼は走り出した。

 外に出れば誰かいるだろう。

 そんな期待を胸に秘めて、ただひたすら息を切らしながら走る。

 そう長くない距離なのに、何キロも走った感覚に陥って、無駄な知力を使っていることにも気づくこともなくトンネルの外へと、彼は飛び出していった。

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