第7話『新たなる幕開け』
まだアレな感じのプロローグです。
もしかしたら後で加筆修正を行うかもしれません。
自分がいつからそこにいたのか分からない。
気が付いた時にはもう俺はあの人達とは違う場所で暮らしてた。
捨てられたのか、それとも追い出されたのか。
どっちにしろあの人達にとって俺は邪魔な存在でしか無かったのだろう。
俺はきっとあの時から――人を信じることを恐れるようになったんだ。
「――ッ!?」
俺はいつの間にか眠っていたようだ。辺りはすっかり夜になっていた。
そこは全てが凍りに閉ざされた空間。どうやら俺はその中心に倒れていたらしい。
見たところ、ここは学校の校庭だ。
物置やサッカーゴール。隅っこに建てられたとはいえ邪魔でしかない初代校長の銅像などから、ここが俺の通っている学校の校庭だということが分かる。
いくら凍りに覆われていようとも、見慣れた光景なんだから見間違える筈が無い。でも、だとしたら俺はどうしてこんな場所に倒れていたんだ?
「そうだ! アリスは――」
俺は傍にいないアリスを探そうと立ち上がったが、そこから一歩も動けなかった。いや、正確には動くことを忘れていた。
『……』
「――ディアボロス」
俺に背を向けているが、間違いない。
目の前で立ち尽くしている鎧の男は、俺が夢で見たディアボロスと同じ姿をしている。
そして鎧の男は背を向けたまま、俺に向けてくぐもった声を発した。
『魔力操作の基礎は学んだか』
「……?」
『ならば、次は加護を使いこなして見せろ』
「ちょっ、おい!」
鎧の男は前を歩き出し、どんどん俺から遠ざかっていく。
追い掛けようにも俺は足が動かず、ただその場で手を伸ばす事しかできない。
……くそっ! 何で動かないんだよ! 俺はあいつに聞きたいことが山ほどあるってのに!
『お前の未来に脅威が迫っている。それが、最後に俺が伝えられる忠告だ』
「おい、一人で何勝手なこと言ってるんだよ!」
鎧の男は闇の中に姿を消していく。俺にはそれを止める術が無い。
気が付くと世界全体が暗黒の中に溶け込み始めていた。
『自覚しろ。幻想しろ。覚醒しろ。全ての鍵はお前の中にある、暗持誠也』
最後にそんな言葉を聞いて、俺の意識も闇に飲まれた。
*****
「……今度こそ夢だったか」
俺は手の温もりを感じながらゆっくりと瞼を開けた。
空はうっすらと日が昇り始めている。つまり、旅を始めてから今日で六日目の朝ということか。
俺は地面の上で熟睡してしまったことに苦笑を浮かべた。
どうやら俺も着実にこの世界に馴染みつつあるらしい。野宿に対する抵抗感が俺の中から完全に消えてしまっている。
そもそも異世界に来てたった二日目で旅に出るとか、どんだけアクティブなんだよ俺は。
ま、全部アリスの積極的な姿勢が原因だったんだけどな。
「すぅ……すぅ……」
アリスは俺の隣で気持ち良さそうに眠っている。
一体彼女はどんな夢を見ているのだろうか。少なくとも、また暴れるような悪夢は見ていないらしい。
「んぅ〜〜! 嫌ぁ!」
「……はぁ」
一体これはどういう原理なんだろうな?
旅の間で学んだことだが、アリスは俺と離れることを極度に嫌がる。特に眠っている間はその傾向が強くなり、意地でも俺の手を放そうとしてくれない。おかげで俺はアリスと手を繋いで寝るというのが習慣になってしまった。
まあ、そうしないとアリスが悪夢にうなされてもっと酷いことになるから仕方がないんだけどな。
……うなされて寝相が荒くなっていたとはいえ、突然アリスに抱きつかれた時は死ぬかと思った。色んな意味で。
「……んにゅ? あ、セイヤ……おはよう」
「ああ、おはよう」
アリスは目を覚ますと普通に手を放してくれる。
だがその代わり、何も言わないでいると当たり前のように俺の後ろをついてくる。
背後に立たれると不安になるんだよな。刺されそうで。もしくは首を掻っ切られそうで。
そういうわけで、俺はいつものようにアリスを隣で歩かせる。そうして近くの川で一緒に顔を洗った。
「朝食はどうしよっか? また川の魚でも獲る?」
「うーん。でも、近くの村までもうすぐなんだろ? だったら今日はそこで普通の飯が食いたいな」
「わかった!」
アリスはあまり外出しなかったらしいが、意外にもサバイバルスキルが充実していた。
正確に言えば、それに通じた魔術を数多く使えるようだった。どうやら昔お兄様から仕込まれたらしい。
……ということは、俺もいずれ索敵とか浄化みたいな便利な魔術が使えるのか? それはちょっと楽しみだ。
だけど俺も負けていない。伊達に一人で生きてきたわけじゃないからな。ちょっとした料理なら作ることが出来るんだぜ。今は調理器具が無いから無理だけどな。畜生。
「アリス。魔族だって疑われないように、あんまり目立つ行動はするなよ?」
「はーい! 気をつけます!」
俺達の向かう先は魔族領の外、すなわち人間の領土内だ。
アリスの外見はどう見ても普通の女の子だから、まあ、よっぽどのことがない限り魔族だって疑われる事は無いと思う。だけどやっぱり油断は禁物だ。この先何が起こるかなんて誰にも分からないんだから。
俺とアリスは魔王城の地下室で見つけたリュックを背負い、最初の目的地に向けて一緒に歩き始めた。