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第13話『最悪の結末』

 俺とアリスはすぐに旅の準備を始め、誰にも挨拶を交わすことなくドラゴンの住処に向かって移動した。

 正確なドラゴンの住処は分からないが、魔族領のとある方角から一直線に向かってくるのは未来の映像で知っている。だからその方角に向かえば必ずドラゴンの住処に辿り着く筈だ。


 「それにしても、これって便利だよね! 全然疲れないし、凄く速く動ける!」

 「急造した技だから、あんまり期待すんなよ?」

 「ううん! セイヤのことはちゃんと信じてる!」

 「……だから、信用するなって」


 できるだけ速く移動する為、俺は自分の足とアリスの足に【暗黒強化(ダークブースト)】を施している。

 これにより俺達の速度は格段に上昇していた。恐らく今の速度なら高速道路を走っても問題ないだろう。

 ただ、慣れてないから本気で走ると危険なんだよな。何処かに激突して死ぬかもしれない。

 そんな俺と違ってアリスは全速力で走っても問題なさそうだ。絶対俺から離れようとはしないだろうけど。


 「とにかく、このまま一気に勝負をしに行くぞ」

 「おー!」


 俺達は互いに意気込みながら、草原や林の中を驀進した。

 最短距離で向かう為、曲がり道も崖も無視してひたすら一直線に突き進む。

 今の速度なら、たった一日で魔王城まで戻ることもできそうだ。

 そんなことを考えていた直後、空が急に暗くなった。


 『グルグルグルグル!』


 空を舞う紅い物体。それが大きな影となって俺達を覆い隠してしまったようだ。

 じゃあその影の源とは一体何なのか。

 俺は、空を見上げて息を呑んだ。


 「……嘘だろ」

 「すれ違い!?」


 ドラゴンが、俺達の頭上を通過して反対方向に飛んでいく。

 すなわち、セレン村がある方角に。

 一瞬、ドラゴンはこちらを一瞥したが、すぐに視線を村の方へと向き直した。

 咄嗟に【暗黒砲撃(ダークブラスト)】で打ち落とそうと考えたがすでに射程距離外。

 俺にドラゴンを止める術はなかった。


 「い、急いで戻らないと!?」

 「――クソッ!」


 俺とアリスはすぐさま村に向けて疾駆する。

 だけど、ドラゴンと俺達とでは速度に大きな違いがある。

 ドラゴンの方が圧倒的に早い。まるで自転車で自動車を追っているようだ。

 一向に差が縮まる気がしない。むしろ、徐々に距離を離されていく。このままじゃ、俺達よりも先にドラゴンが村に辿り着いてしまう!


 「このままじゃ未来のとおりになっちゃうよ!?」

 「分かってる!」


 畜生。どうしてこうなった。

 何で、未来を変えることができないんだ。

 クソ! クソクソクソ! ちっくしょぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!


 俺の視界にぼんやりと暗黒の世界が混じっていく。

 そして目の前には暗黒騎士が立っている。

 俺はこんなにも必死に足を動かしているのに、全く距離が縮まらない。

 追いつけない。触れられない。

 何で! 何でだよ! 俺に何が足りないっていうんだ!


 「クソ。だから世の中は理不尽なんだ!」


 何かを期待したところで、その期待はいつかきっと裏切られる。

 裏切られるくらいなら捨てればいい。

 そう思って俺は人との干渉を断ってきた。自分以外の誰かを受け入れることはしなかった。

 けど。だけど。そうだとしても!

 俺は、俺はあの村を見捨てる気にはなれないんだ!

 だからこそ。俺はまだ諦めない。諦めるわけには行かない。


 「セイヤ!?」


 把握しろ。思い出せ。自覚しろ。

 俺は今までに解禁されたディアボロスの知識を総動員させる。

 幻想しろ。イメージしろ。限界を超えろ。

 俺は足に加える力を更に強めた。


 「【暗黒超強化(ダークフルブースト)】!」


 俺の足はただ暗黒を纏っているだけじゃなく、その暗黒の形を一気に変質させた。

 足から腰まで、腰から胸まで。俺の体は暗黒に包まれていく。

 体が引き千切れそうだ。とうに俺の運動能力が限界を超えている。

 だけど足を止めない。止めちゃいけない。


 「――お兄……様?」


 俺は自分が嫌いだ。

 誰よりも大嫌いだ。

 でも俺は。

 それでも俺は。

 自分に宿ったこの力を信じたい。

 俺は全速力でドラゴンの後を追った。




*****




 誠也が村に辿り着いた時、すでにドラゴンは村中を蹂躙し始めていた。

 空を飛び、炎を吐き、まるで誰かを探しているかのように、一つ一つ建物を壊して回っている。


 「ドラゴンじゃーー! 全員逃げろーー!」

 「うわぁあああああああああああああ!?」


 村の中は阿鼻叫喚としていた。

 地面で倒れている人はドラゴンの攻撃を浴びてしまったのだろうか。

 視界は炎のせいで真っ赤に染まりきっている。


 「……変えられなかったのか」


 誠也は無意識に自分の拳を握り締めていた。

 そして次の瞬間、誠也は地面を蹴り飛ばし、黒い弾丸となった。


 『ガアアアア!?』


 それはただの体当たり。だがその威力は【暗黒砲撃】よりも遥かに上回るものだった。

 ドラゴンは地上に落下しながら誠也に視線を固定し、驚愕するように金色の眼を見開いた。


 『――ッ! グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアア!』


 もう誠也の外見に少年の姿は見当たらない。

 ドラゴンの目の前にいるのは全身を漆黒の鎧で包み込んだ一人の騎士のみ。

 それも当然だ。なぜなら誠也は無意識のうちにディアボロスの鎧を暗黒の力で模倣していたのだから。

 暗黒騎士の姿を見て怒りの炎を燃やすドラゴンに対し、誠也は冷たく言い放つ。


 「……うるせえよ」


 ドラゴンは口からいくつもの火炎球を吐き出す。

 紅蓮の巨大な弾丸が誠也に向かって一直線に突き進んできた。

 だが誠也は高く跳躍することでそれらの攻撃を難なく回避した。そしてすかさずドラゴンの頭上に暗黒の弾丸を撃ち返す。


 「【暗黒砲撃(ダークブラスト)】!」


 すでに得意技となりつつあるその攻撃は連射可能であり、合計二十発の黒い閃光がドラゴンの紅鱗を削り取っていく。


 「【暗黒砲撃(ダークブラスト)】! 【暗黒砲撃(ダークブラスト)】!」


 着地するまでの三秒間。

 右腕から左腕。交互に暗黒の弾幕を張り続けることでドラゴンの動きを塞き止める。

 そして着地した後も間髪入れずドラゴンの懐に潜り、誠也は自分の拳を固く握り締めた。


 「――ああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 以前バウンドボアを相手にした時は不発だった炎の拳。

 それがミサイルの如き勢いをもって、ドラゴンの脇腹にめり込んだ。

 結果、暗黒の一撃は容赦なく爆ぜる。


 『グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』


 ドラゴンは口から血を吐き、悲痛な叫びをあげながら体のバランスを崩す。

 しかし、ドラゴンはすぐに翼を開いて空に飛び上がった。

 金色の瞳は誠也を鋭く睨みつけている。

 どうやら致命傷では無かったらしく、ドラゴンは血を吐きつつも健在であった。

 代わりに、深紅竜の逆鱗に触れてしまったようだ。


 『――――』


 誠也はその攻撃に見覚えがあった。

 ドラゴンの体は炎のように赤みを増し、その口からは灼熱の如き火球が形成されていく。

 恐らく、村一つくらい軽く吹き飛ばせるだろう。それほどまでに魔力が圧縮された炎を見て、誠也は鎧の中で瞳を揺らした。


 (不味い!)


 誠也は咄嗟に辺りを見回した。そしてすぐに見つける。

 ちょうどマーサとマリーが村を逃げようとしている直前の光景。

 誠也は全力でマーサ達の下に駆けようとした。

 だが、突如両足に激痛が走る。


 「ぐあああああああああああああ!?」


 【暗黒超強化】の反動がここにきて発現。すでに人としての肉体限度を大きく超えてしまっていた。

 誠也は無様に地面の上に倒れる。その際、上半身にも激痛が駆け巡った。

 足の骨でも折れているのか、必死に立ち上がっても歩くことさえままならなくなっている。

 動かなければならないのに。

 体がちっとも言うことを聞いてくれない。

 後ろでアリスが追いついてくるのが分かったが、同時にドラゴンが力を溜め終えたことも悟ってしまう。

 そして――。


 『グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


 ――ドラゴンは未来を決定付ける白炎の咆哮を村に向けて放射した。

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