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第11話『暗黒技』

 朝食は皆で食べるのが決まりらしく、俺達は一階の食卓に集まっていた。

 この世界の主食はやはりパンのようで、シチューみたいなスープに浸して食べるのが普通らしい。

 というのも、パンがとても硬いからだ。そのままじゃとても噛めそうに無い。

 王都なら柔らかいパンも普通に手に入るらしいが、この辺りの辺境だと難しいとマーサさんは苦笑を浮かべながら説明していた。

 だけど俺にはそんなこと関係なかった。

 アリスと二人で旅していた時も思ったことだが、一人で食べるご飯よりも誰かと一緒に食べるご飯の方がずっと美味しく感じる。それだけで俺は満足だった。


 「今日はどうするんだい? 早速家の手伝いでもやるのかい?」

 「いえ、すみません。昨日の話は忘れてください」


 マーサさんの厚意は嬉しいが、俺には時間がない。

 一分一秒も無駄にはできない。俺はその間に自分の力を完全に使いこなせるようにならないといけない。

 そもそも未来の俺は全然ドラゴンにダメージを与えられていなかった。それはつまり、ドラゴンには【暗黒砲撃(ダークブラスト)】が通用しないってことだ。

 こう言うとちょっと恥ずかしいが、俺は新しい必殺技を開発しなきゃいけない。


 「セイヤさん、何処かに出掛けるつもりですか? 村の外は危ないですよ」

 「マリーちゃん、どういうこと?」

 「あのね、最近になって外の魔物が活発化し出したの」


 マリーとアリスは俺がいない間に親しくなったらしい。

 マリーは俺と話す時は敬語なのにアリスに対しては普段の話し方で接している。

 いや、まあ、どうでもいいけどな。


 「でもセイヤが行くっていうなら私も行くよ!」

 「大丈夫なのかい?」

 「そうだよ。危ないよ」


 アリスはほぼ俺が予想してた通りの答え。マリーとマーサさんの心配は嬉しく思いながらもこの際無視した。

 俺は変わらぬ決意で言う。


 「俺達なら大丈夫です」


 仮にも俺とアリスの戦闘力は中々の物だ。そこら辺の魔物なら石ころ一つで倒すことができる。

 ……そうだな。まずは石ころみたいな媒質無しで暗黒の力を使えないか試してみるか。




*****




 村の外は緑に覆われていた。見たことも無い植物は勿論、似たような木々がたくさん生えている。

 これは俺が元いた世界でも中々見られない自然の宝庫だ。

 まあ、旅の最中に見慣れてるからどうでもいい景色になってしまっているけれど。

 俺は誰にも聞かれないようにアリス村の外に連れて行き、ずっと気になっていたことを問いただした。


 「アリス。急いで尋ねたいことがある」

 「え? 何?」

 「お前の兄貴の“加護”ってどういう力だったんだ?」


 これは大事なことだ。早急に知る必要がある。

 幸い、アリスは何の疑問も持たずに教えてくれた。


 「お兄様の加護は『未来視』。触れた相手に関する未来を少しだけ視ることができる能力だよ」

 「……未来だけなのか?」

 「うん。でも凄い能力だよ。数秒先の未来なら相手に触れていなくても視られるからって、お兄様は相手の攻撃を完全に先読みすることができるんだから」

 「……」


 アリスは嘘を言っている。そんな筈はない。

 だけど、今のアリスは絶対に俺に嘘を吐かない筈だ。ということは、アリスはディアボロスの加護の力を勘違いしているのかもしれない。

 それとも……俺の加護はディアボロスのものと違うのか?

 『転生召喚』によって俺にはディアボロスの全てが宿っている。もしその能力の一部が俺に宿ったことで変質しているのだとしたら、俺の力の正体にも説明が付きそうだ。

 例えばこんなのはどうだろう。ディアボロスの加護は未来を視る能力だった。

 だけど俺にその力が宿った時、元々俺にあった何かと融合し、新たな加護になってしまった。もしくは進化した、と考えれば一応納得はできる。

 じゃあ俺の加護は何か。

 一応俺が自己分析をした結果はこうだった。


 ・大雑把な情報だが相手の素性と過去を知ることができる。

・確かな映像として相手の未来を視ることができる。


 ……なるほど。

 俺の仮説はかなり正しいと言えるかもしれない。

 ディアボロスは相手の未来しか視ることができなかったが、俺は過去すら知ることができるわけだ。

 ただし、この加護の力はまだ俺の意志が反映しているとは言い難い。マーサさんの時はたまたま発動しただけだったのだから。

 最低でもディアボロスがやっていたという相手の動きの先読み。これができなければドラゴンにダメージを与えるのは難しいと思った方がいいだろう。

 よし。とりあえず加護の力については置いておこう。次は暗黒騎士の力そのものについて試してみるか。


 「……セイヤ?」


 俺の暗黒の力に反応したアリスが怪訝な顔をする。

 それに構わず、俺は右腕に暗黒の力を集中させた。


 「……【暗黒砲撃(ダークブラスト)】」


 魔力操作はイメージ力が重要になる。

 これまでは単発だった【暗黒砲撃】だったが、もしこれを連射することができれば……。


 「連弾……装填!」


 超強化した物質もいらない。

 暗黒を凝縮させ、一つの物体として確立させる。

 純粋な暗黒だけで作った弾を腕の中に何発も詰め込むイメージで。

 俺は空に向けて、真っ黒に染まった自分の腕を突き出した。


 「発射!」


 俺が銃の引き金をひくイメージで砲声すると、計十二連発の黒い塊が青空の中を突っ切っていった。


 「わあ! 凄い!」

 「……とりあえず、成功だな」


 アリスは空に轟く銃声を聞きながら楽しそうにはしゃいでいる。

 ……遊びじゃないんだけどなぁ。まあ、喜んでるならそれでもいいか。

 速度もまずまず。これならいくら空を自在に飛ぶ魔物だろうが完全に避けるのは難しいだろう……多分。いや、これって本当に避けられない攻撃か?

 油断は禁物だ。もっと射撃ばかりじゃなくて、他のアプローチも考えないといけない。


 『ブロロロ……』


 「ん? 何だあの猪は?」

 「あれはバウンドボアだよ! 突進するように見せかけて地面を跳ねて攻撃することがあるから気をつけないと!」

 「ふぅん。……イメージ……よし、試してみるか」


 多分、俺がさっき撃った【暗黒砲撃】の音に反応して出てきたんだろう。黒っぽい猪が俺の正面に現れて威嚇している。

 やる気があってちょうどいい。まだ近接戦闘は慣れてないから、練習相手になってもらうぞ。

 俺は自分の腕を暗黒で包み込んだ。

 イメージするのは鋼鉄になった腕だ。すなわち、俺自身の超強化。


 「名付けて【暗黒強化(ダークブースト)】」


 『ブロロロロロ!』


 バウンドボアは俺に目掛けて全速力で突撃してくる。

 俺はタイミングを合わせて腕を構えた。

 俺とバウンドボアの距離はどんどん縮まっていく。俺はギリギリまで引き付けた後、一気に拳を突き出した。

 イメージするのは弓で放った一本の矢。ロケットのような推進エンジン。

 俺の腕は黒い火を吹きながら凄まじい速度で空を切り裂き、バウンドボアの体を貫こうと前進する。


 『ブロロロ!』


 しかしバウンドボアはアリスの説明どおり、突如地面を蹴り上げて宙に跳ね上がった。

 俺の渾身の攻撃は見事に空振り。

 無防備になった俺にバウンドボアが落ちてくる。

 重力に身を任せた落下速度は眼を見張るもので、俺は咄嗟に横に跳んで回避しようとした。


 「――ッ!?」


 しかし、俺の中で何かが割れるようにビキリと音が鳴った。

 その瞬間、俺の体は勝手に動いた。

 ディアボロスの戦闘経験が俺に反撃のタイミングを教えてくれる。気が付けば俺の腕が暗黒に覆われて一本の剣のような形をしていた。


 「――フッ!」


 落ちてきたバウンドボアに向けて一閃。

 線のような黒い軌跡が真横に走り、体が真っ二つに裂かれた猪がそれぞれ地面に着地した。


 「カッコイイ!」


 アリスが興奮しながら俺に飛びついてくる。彼女はまるで自分のことのように喜んでくれた。

 俺は咄嗟のことで何が起きたのか正確に理解しきれなかったが、確かに分かったことが一つだけある。

 それは俺の暗黒騎士としてのスキルが最初からレベルMAX状態だということだ。

 戦いを経験すればするほど俺の中でディアボロスの知識、経験が解禁されていき、その力の本領を発揮する。

 その結果、俺のイメージ次第でどんなことにも応用が利く。大袈裟に言ってしまえば、イメージしたことは大抵再現できてしまう。

 俺はこの時、ディアボロスの予言の意味を完全に把握した。


 『自覚しろ。幻想しろ。覚醒しろ。全ての鍵はお前の中にある、暗持誠也』


 あの言葉はまさにこのことを言っていたんだ。

 全ての鍵は俺のイメージ力が握っている。逆に言えば、俺の工夫が足りなければドラゴンの暴虐を止めるチャンスを永遠に失うということでもある。

 暗黒騎士の力についてはひとまず自覚した。

 力を上手く使えるように幻想だってした。

 あとは……。

 俺は最後の一つに考えを巡らせ、どうすればいいのか分からず盛大な溜息を吐いた。


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