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第8話

魔物と遭遇しました。

 街道をひたすら歩く事、2時間半。


 途中、レウドが三回休憩をとってくれたから、どうにか自分の足で歩けました。

 私の運動不足が極まった足に合わせて、歩くペースもゆっくりだった。時々振り返っては、大丈夫か、と聞いてくれるし。本当、良いお兄さんだよね。ありがたや。うちのがさつな兄貴共にも見習わせたいくらいだ。あいつら、平気で海老反り固めとかしてくるからな。私は女の子だっつの。弁慶の泣き所を蹴り上げて返り討ちにしてやったけど。


 陽が西に傾いてきました。

 ああでも、今日中に街に辿り着くのは無理そうかな今夜も野宿になりそうかな……と諦めかけた頃。

 

 遠くに、木と金属を組み合わせて作られた高い柵と、大きな両開きの門が見えてきました。


 つ、着いた!?

 着いたよ!

 ヒャッホー!


 やっと着いた、お風呂──じゃなかった、街!

 柵の隙間から、木造や土壁の建物もいくつか見える。露店っぽいものも。これなら、宿もあるかもしれない。


 私は、レウドの腕を叩いた。

「レウド! 着いた! ……レウド?」

 いきなり、レウドが立ち止まった。

 街ではなく、北の方へ視線を向ける。


「どうしたの?」

「*****」


 レウドは目を細めて、じっと北を見据えている。


 私も同じように見てみたが、茂る木々と、ごつごつとした岩が突き出た斜面の狭間を蛇行する坂道が見えるだけだ。


「──ん?」


 木々と岩の隙間から、坂道を駆け降りてくる集団が見えた。


 目の前を走るのは、長めのショートヘアがよく似合う、金髪緑眼のスレンダーな女性。右目の端にあるホクロが色っぽい。手にはボウガンを手に持って、金属の肩当てと胸当をしている。


 その後ろには、よく陽に焼けて、がっしりとした体つきの青年。黒い髪は、元気よく上に立っている。ラグビー部とかにいそうな、パワーと元気が有り余ってそうなお兄さんだ。

 幅広の大きな剣を右手に、左手には銀色のバックラーを持って、金属の肩当て、胸当、籠手、ブーツを身に付けている。


 そして、その後ろには──


 羽根のついた猫の集団が、ぽろりとこぼれ落ちそうなくらいに目玉を飛び出させ、頭部が半分に千切れそうなくらいに大きく裂けた口を開いて、追いかけてきていた。

 その口の中は赤く、鋭く尖った歯がびっしりと並んでいる。目も血走っている。


 憤怒の形相をした、化け猫の集団。



 可愛くない。



 猫なのに、これっぽっちも可愛くない。



 いや、むしろ呪われそうなレベルの不気味さだ。背中についたファンシーな白い羽根が、余計に気味悪さを演出している。


 なにあれ。

 

「ぷ、〈プローブ〉!」


【フライングファンシーキャット】

 小型モンスター

 生息地:山岳地帯

[説明]白いふわふわの可愛らしい翼を持った猫型モンスター。気性は気紛れで大人しいが、一度怒らせると、相手を死に至らせるまで追いかけてくる執念深い一面がある。血走り肥大化した瞳と、牙を生やし、耳まで裂けた赤い口元の憤怒の形相は、見た者の心を折るほどに恐ろしい。

[詳細] HP300〜500

「属性」 土

 ??

 ??



 ピロリン、と場にそぐわない明るい音が鳴った。脳内で。


 レベルが上がったらしい。

 

 シャラリン、ともう1つ、音が鳴った。


 んん? 


 なんだろう。聞いた事がない音がしたんだけど。


「〈ステータス・オープン〉」


 名 前 チナミ

 種 族 人族

 レベル 5

 次のレベルまで 0/600

 HP 50/50

 SP 150/150


 取得スキル

 【精査】Lv.5 

     次のレベルまで 0/500 消費SP20


 【サーチ】LV.1

     精査済みの対象を指定して、有効範囲内で検索できる。

     レベルが上がると、指定できる対象数が増える。

     現在の有効範囲:半径1m

     次のレベルまで 0/100 消費SP50



「スキルが増えてる……」


 有効範囲内を検索?

 物は試しだ。使ってみよう。


「──【サーチ】、【フライングファンシーキャット】」

 

 目の前に、円形のウインドウが現れた。同心円状に水色のラインが引かれている。


 円内には、中心に緑色の光点だけが表示されていた。これはおそらく、私の位置を現しているのだと思われる。


 それ以外は、なにも表示されていない。


 うん。

 1メートル圏内って、使うには、まだ微妙だね。

 ていうか、サーチしなくても、目視できるレベルだよね。説明によると、レベルが上がれば検索範囲と検索対象が増えていくみたいだから、使えるようになるには、まだ先の話だな。


 ボウガンを持った女性が、何かを叫びながら、こちらに向かって走ってくるのが見えた。

「****、*****!」


 なんで、こっち向かって走ってくるかな!


 巻き込む気満々ですか。そうですか。ですよね。止めて下さい。お願いします。


 どうする。


 私、ゲーム以外でモンスターと戦った事なんてないんですが。

 退避してもいいですか。

 でも、退避するには、ちょっと間に合わない感じだ。それか、戦いながら退避するしかない。

「ああもう。し、仕方ないなあ!」

 私は、レウドに選んでもらった武器の棒を取り出した。戦えるだろうか。わからない。アクションゲームでは、そこそこ上手く立ち回れてたけど、実際に、そのコントロール知識がリアルに反映されるかは甚だ微妙だ。運動能力とか身体能力とかの問題がね。ものすごく大きいと思うんだ。でも、やるしかない。頑張れ、私。死ぬ気でやればできる。──多分。


 モンスターを引き連れて走ってくる二人組。 

 私の隣で、厳しい視線で前を見据えていたレウドが、1つ息をついたのが聴こえた。

 おもむろに、肩に担いでいた大きなリュックサックを私の目の前に下ろし、振り返る。

「チナミ。*****」

 人さし指を、下に向ける。

 ここにいろ、ってこと?

 レウドは私の返事を聞かずに、再び前を向いた。

 腰に下げた銀色の剣を抜きながら、掛けてくるモンスター集団に向かって駆け出した。


「レ、レウド!」

 えええ、行っちゃったよ!? 

 私、大人しくここで待ってるべき?


 レウドは身を低くしてモンスターの群れに走り込むと、剣を下から上へ一閃した。


 レウドに襲いかかってきた2体が、真っ二つになる。

 

 背後から飛びかかってきたのを、振り向きざまに切り倒す。

 横に跳んで、もう1体。


 無駄の一切ないきれいな動きに、私は思わず見入ってしまった。


 戦闘慣れしている人の動きだ。レベル41だから、当たり前なんだろうけど。


 本当、お兄さん、なんで奴隷なんかになってたの。

 謎過ぎる。

 言葉がもっとわかるようになったら、一番最初に聞いてみよう。


 


 レウドが、最後の1匹を切り倒した。


 最後、だと思う。周囲を見回してみたけど、キモイ飛ぶ猫の魔物の姿はみえない。


 離れたところにいるレウドが、剣を振ってから鞘に収めているのが見えた。

 剣を仕舞ったということは、戦闘は終わったということだろうか。

 私は気づかない内に詰めていた息を吐き出した。

 よかった。


 レウドが振り返る。

 ゆっくりした足取りで、私のいる場所に向かって戻ってくるのが見えた。

 その後ろから、ボウガンを持ったお姉さんと、ファイターっぽい格好をしたお兄さんも何故かついて歩いてくる。お姉さんがしきりにレウドに話しかけているようだったが、レウドは無視しているみたいだ。なんだろう。まさか、ナンパしてるのだろうか。だったら、すげえ。この世界の女性も私のいた世界と同様、たくましい。


 私は棒を仕舞って、レウド達が来るのを大人しく待った。


「レウド! お疲れさま! すごいね、あんなに沢山いた魔物、倒しちゃうなんて──ん?」


 それまで何もなかった円形のサーチ画面上部端に、赤い点が1つ現れた。


 んん?


 赤い点は、同心円内の上側から少しずつ、降りてくる。


 私は顔を上げた。


 目の前にはレウド。

 その後ろに、お姉さん。

 少し離れた隣に、でかいお兄さん。

 他には、なにもいない。


 もう一度、サーチ画面に目を戻す。

 現在のサーチ範囲は、半径1メートルだ。

 赤い光点は、80センチラインにある。


 ということは──


 私は、考えるよりも先に動いていた。

 棒を手に構え──お姉さんに駆けよる。

 お姉さんが、驚いたように私を見た。

「***、***!?」


 どこだ?

 どこにいる?


 私は、お姉さんの背中に回った。


 いた。


 血走った目玉を飛び出させた、猫の首が、お姉さんの短いマントの裏にぶら下がっていた。


 そして、私と目が合った。


 ぎゃあああ!? ホラーですよ! 怖っ──!


「ギシャアア!」

「ひょわあ!?」

 

 猫の首は、見つけられた事に腹を立てたのか赤い牙をむき出しにして、私に向かって飛びかかってきた。

 

 私は、棒を縦に振った。


 見事に外した。

 それはもう、自分で言うのも何だけど、いっそ気持ちいいぐらいの空振りだった。


 文系の運動能力、舐めないでいただきたい。動体視力が良くても、身体が動かなければ意味がないのだ。

 

 左腕に噛みつかれた。


「いっ……」


 みしり、と音が聞こえた。気がした。腕が痛みを通り越して熱湯に突っ込んだように熱い。


「チナミ!」

 レウドが、猫魔物を素手でたたき落とした。

 魔物が地面に落ちた。

 猫の首は、黒い煙を出しながら、消えていった。


 表示したままだった、自分のステータス画面が赤く染まっている。


 HP  5/50


 ちょ、猫に噛まれて瀕死ですか。ありえねえよ。どういうことだよ。このHPの低さは、やっぱり、ちょっとかなりマズくないですか。S神もどきさん。


 地面に顔が激突する前に、何かに腰を引き寄せられ、顔面砂まみれは免れた。


 私は、脳裏に思い浮かべたS神もどきに文句を言おうとして──



 意識を失った。



 自分、これ、弱すぎない?

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