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第12話

フルーツジュースと特訓と蛇と剣の紋章


 チナミがメインで使用する言語を日本語から異世界語に変更しましたので、***(伏せ字)、解禁しました。(この言語切り替えが小説でしてみたかったのです。ちょっと話数かかっちゃいました)

 ※但し、当然ですが、チナミは自分が覚えた言葉しか分かりません。






 この町、コーストラに着いてから、15日経ちました。


 露天商のオッサンから購入した地図で確認してみると、ネイサス、という国の西の端にある町のようです。石畳の道と漆喰が素朴な雰囲気を醸し出している、とても穏やかな田舎町。

 


 私はというと──

 

 首だけの化け猫モンスターに噛まれたり、慣れない徒歩の旅に筋肉痛やら疲れやらが貯まっていたりして、結局、何度が熱を出したりして数日ベッドで寝込んでいました。


 自分で言うのも何ですが──自分、弱えええええ。


 しっかり、しっかりして、私。そんなことでは、この異世界でやっていけないぞ。頼むぞ、私。


 そんなひ弱すぎるにも程がある私を、見捨てずに世話を焼いてくれたレウドには感謝してもしきれません。


 この恩は、いつか絶対、返すから!

 まだもうちょっと先になるかもしれないけど、必ず返すから!




 寝たり起きたりを繰り返していた私ですが、何もしてなかったわけではないです。


 時間は無限じゃなく、有限です。あのS神お兄さんが言いそうなセリフですが、人間の起きてる時間は限られてます。これ本当。バア様も口を酸っぱくして言ってた。やれそうな事があったら、何でもいいからやっときな! って。


 寝ててもできること。



 言葉の勉強。



 いやもう頑張りました。本当頑張りました。

 受験勉強並に、夜遅くまで頑張りました。


 頑張りすぎてまた熱を出したりして本末転倒でレウドに怒られたりもしましたが、頑張りました。



 頑張った甲斐があって、まだ単語と単語の繋ぎ合わせだけど、ちょこっと会話らしきものが成立できるようになってきました。


 遅かれ早かれ、こちらの世界の言葉をメインで使っていかなければ生きていけないので、頑張って、言い間違っててもどんどん使っていこうと思います。




 それから──地道に、本当に地道に、【精査】【サーチ】のレベル上げもしています。


 町で買って帰った品物や、人のいないところで町の中の物や設備を見つけては、ちまちまとスキルを使っています。


 努力の甲斐あって、現在のレベルは──



 名前 チナミ・マトバ

 種族 人族

 レベル 7

 次のレベルまで 655/1000

 HP 60/60

 SP 300/300


 取得スキル

 【精査】Lv.7 

     次のレベルまで 700/800 消費SP25


 【サーチ】LV.4

     精査済みの対象を指定して、有効範囲内で検索できる。

     レベルが上がると、指定できる対象数が増える。

     現在の有効範囲:半径4m

     次のレベルまで 55/400 消費SP55



 ちなみに、今のレウドは──



 名前 レウド・バーシュレイ

 種族 月狼族

 レベル 41

 ▼状態異常中▼ 隷属中(主:チナミ・マトバ)/ ??

 次のレベルまで 1200/10500

 HP 6500/6500 

 SP 2500/2500 


 取得スキル

 ※状態異常中の為、使用できません。


 

 ──お兄さんは、なにやらもう1つ、謎のバッドステータスにかかったままのようです。



 今の私にはまだ分からないけど、お兄さん、だからいったいどこで何をしてきたの。

 聞けるようになったら、聞いていよう。



 それから、私が登録したあとで、レウドのHPとSPがぐーんと増えていました。

 デバフ欄が、隷属から隷属中になってるし。手と足の不穏な魔法拘束具が解けて、元に戻った、ってことなのかな? よくわからんけど。

 それは良い事なんですが。



 ──なにそのすごいHPおおおお!!? ちょ、HPが私と違いすぎて、恐ろしすぎるんですけどおおお……!!!!? 



 いやこの場合、私が恐ろしく低すぎるのか……!? 


 気のせいだと思いたい。いやまじで。大丈夫なのか、私。頑張れ、私。


 レウドのは、見なかった事にしよう。うん。そうだ、レウドがものすごく特殊なんだ。そういうことにしておこう。




 さあ、今日も一日頑張ろう。




 * * *




 今日もコーストラの町は青空が広がっています。いい天気です。

 気候も今のところ温暖で、とても過ごしやすいです。


 ここって、四季とかあるのかな?

 雪とか降ったら嫌だなあ。寒いのはものすごく苦手です。コタツとミカンを愛しています。





 石畳の緩い坂道の少し先の方で、レウドが振り返って、ゆっくり手招きしている。


 黒いシャツを腕まくりして、金属で手の甲が補強された革手袋と、ジーンズっぽい頑丈そうな厚手のズボンに、金属で補強した厚底のブーツ。首に巻いた緋色のスカーフが西部っぽいテイストでまとめてて、よく似合っています。

 金属のバックルがついたベルトには、革製のポーチと、にぶい銀色の長剣がぶら下がっています。


 白銀色の髪が日の光にきらきらと反射して、欧州の街角っぽい背景と相まって、外国の男性ファッション雑誌の表紙みたいです。


 ──ただ、腰の長剣が、ものすんごい違和感を放ってますが。



「──チナミ。頑張れ。この坂を登りきれば、冷たい飲み物が飲めるぞ」


 レウドは私に合わせて、ゆっくりしゃべってくれるから、とても聞き取りやすい。

 坂を登れば、冷たい物が、のめる、と言っているのがわかった。


 冷たい飲み物! 休憩だ! やっと休憩できる……! 2キロぐらいぶっ通しで歩いたよ!


 私は乱れそうになる息を整え、額の汗を袖でぬぐいながら、坂道を見上げた。


「……ぜえ、……つ、つめ、はぁ、たい、のみ、もの! ……の、のむ!」


 レウドが涼しげに笑った。汗どころか、息も全く乱れていません。すげえ。



「よし。頑張れ」



 ……目の前に教官がいます。

 黒くて丸い大きなサングラスをしたら、もう完璧教官です。



 最近の私の午前中の日課は、レウド教官によるウォーキング特訓です。



 このところ、レウドはよく私を連れて、町を歩き回ります。


 だんだん歩く距離が長くなっています。

 早く歩いたり、遅く歩いたり、坂道をいったりきたりしたり、私が息切れしてよろけたら、少し休んだり。もう体育会系のノリです。私は生粋の文系です。


 まるで、ひ弱な私にどうにか体力をつけさせようとしているかのようです。かのようです、というか、これ確定だと思います。


 私も旅に出たとき何日も野宿したくはないので、頑張ろうと思います。ですが、もうちょっとペース緩めて欲しいです、教官!




 


 息も絶え絶えに坂を登りきると、そこはちょっとした憩いの広場だ。


 真ん中に帆布っぽい生地の大きなパラソルと、シンプルな木製テーブル5つと、折畳みチェアが各テーブルに4つずつ置いてある。

 孫3人の面倒を見させられてる老夫婦、タバコをふかしながらボードゲームをしているおじさんたち、楽しそうにスイーツを食べておしゃべりしている女の人達。

 その周囲を、お店と露店がぐるりと囲んでいる。




 いろんなフルーツがカラフルに山積みにされている露店の前に、私は立った。


 フルーツの山とフルーツの山の間から、フルーツが山と盛られたジュースの絵がついたエプロン姿のお姉さんが、満面の笑顔で現れた。


 金髪でポニーテールが良く似合う、趣味はテニス、とか言いそうなスポーティでさわやかなお姉さんだ。原色ブルーの眼がキラキラしてまぶしいです。アーユーレディ? イェア! とか言い出しそうなお姉さんです。


「いらっしゃーい! チナミ! 今日はなんにする?」

「こ、こんにちは。リリィア」


 ここ5日ほど、毎日ここに飲みに来てるので、すっかり顔を覚えられてしまった。


「今日もお兄さんとお散歩? 大分、顔色も良くなってきたね。でも、無理しちゃダメだよ!」

「はい」


 私はとりあえず頷いて、笑顔を返しておいた。


 リリィアさんは、私とレウドを、どうやら、病弱な妹と、空気の良い田舎に療養に連れてきた兄、という昔観た切ないホームドラマみたいな認識をしているようなのだ。


 レウドも私も、人にはどうにも説明しずらい立場なので、勘違いしてくれて実のところ、とても助かっている。その登場人物設定、なにかの際には使わせてもらいます。


 レウドの方も、リリィアさんの話にうまく合わせているようなので、今のところ疑われてはいない。


 ……ただ、リリィアさんの交友関係が広すぎて、他の店の人にもそう思われているようなので、町中でうかつに元気一杯な姿を見せられないのが辛いと言えば、辛い。常に演技に気が抜けない。


 幸薄い病弱な妹の演技か。よし、まかせろ。演じきってみせる。テレビで観たあの有名子役みたいにすれば、いいはずだ。多分。


 私は目移りしながら果物を物色した。

 うん。やっぱりこれだな。紫色の粒が房になった果物を指さした。


「これ。わたし。のむ」


 この果物、めっちゃ甘くて美味しいのだ。ブドウみたいな形だけど、味は甘い桃のネクターだ。そして、ちょっぴりミルキーなやさしい味。とても美味しい。


「あいよ! グレウシアーダだね。チナミはそれ好きだねえ。そっちのお兄さんはどれにする?」


 私は後ろに立つレウドを見上げた。

「レウド。くだもの。のむ。どれか?」

「俺? そうだな。……じゃあ、これを」


 レウドは銀色の丸いトマトみたいな果物を指した。……その果物はなんだろう。なんで銀。しかもやたらメタリックな光沢感。妙な……いや新しいフルーツが入荷している。あとでレウドに聞いてみよう。

 私は果物と、レウドを交互に指さした。


「──ぎん。レウド。かみ。くだもの。おなじ?」

 同じ色。銀。発音、合ってる?



「──あああああん、かわいいぃ!」



 お姉さんに横から抱きしめられた。なんだなんだ!?



「なんでうちにはがさつな弟共しかいないんだろ! 私は妹がほしいんだよー! いいなあいいなあ、妹ほしいー! ちょっと、お兄さん、うちの弟と交換しない?」


「しない。離せ」


 レウドが間に入って、お姉さんを引き離してくれた。おおお助かった、ありがとうありがとうレウド。なんかちょっと怖かった。


 レウドが銀色の不思議果物を1個取って、リリィアお姉さんに渡した。あ、【精査】用に、1個取ってくれたみたいだ。ぬかりないね、教官!


「チナミ。会計」

「……あ、うん! わたし、かう。いくら?」


 こうして買い物の練習もさせてもらっている。お陰で大分買い物にも慣れてきました。


 値切り交渉はまだ私には難易度が高すぎるので、今のところレウドが主に担当している。

 店の人が時々涙目になったり目を白黒させたりして、結局レウドの言い値で買えているから、プロ級の値切り技を持っているようだ。近所のおばちゃんにも負けないかもしれない。頼もしい。


「もーお兄さん容赦ないんだから。はーい。ジュース二つで300ディルだよ! その果物は、おまけしてあげる!」


 やったー! おまけ! おまけ、って聞こえた! お店で余分にくれる時によく聞く言葉だ。この銀色不思議果物は、おまけ!

 てことは、合計300ディルでいいんだよね?


 私はお財布袋から100ディル硬貨を取り出して、間違いないか硬貨を確認して、3枚数えて揃えて、リリィアに差し出した。


「あ、ありがとう、リリィア。うれしい」


 お金を受け取ったお姉さんの頬が、ピンク色になった。なんでだ。


「あああん、この荒みきった世の中に、この純真さ! かわ──」

「さっさと頼まれたジュースを作れ」

「もう、いいじゃん! 少しぐらい触らせてくれたって!」

「触るな」


 ……なんか二人とも早口で、うまく聞き取れない。じゅーす、さわる……? ジュースさわーる? サワー。お酒の話か? お酒はまだ未成年なので飲めません。うむ。違うな。わからん。

 

 たいていの女性店員さんたちはレウドにはすこぶる好意的なのに、リリィアとレウドはあまり馬が合わないようだ。なんかよく言い合っている。やっぱり、好みとか相性なのかな。よくわからんけど。


 なんでもいいけど、早くフルーツジュースが飲みたいです。




 

 ────カシャン。


 

 



 ──カシャン、カシャン、と聞きなれない金属の擦れる音が、かすかに、背後の遠くの方から聞こえてきた。




 なんだろう?

 


 振り返ってみると、他のお客さんや店員さんも、同じ方向へ顔を向けていた。リリィアも、出来立てのグレウシアーダジュースを手に持ったまま、皆と同じ方向を見ている。


 私も同じ方向を見てみた。

 憩いの広場から伸びている石畳の道の先を、横切るように伸びている道の右奥の方から、音が聞こえてくる。



 カシャン。カシャン。カシャン。



 音はどんどん近づいてくる。



 なんだろう。これは足音だ。硬い物を履いて石畳の上を歩く、複数の足音。


 パレード?


 それとも、なにかのイベントの行進?


 それにしては、皆が楽しそうに騒がない。

 変に──変に、静かだ。



 店の角から、音の元がゆっくり現れた。



 黒みがかった金属のガントレットとブーツ、黒い色の制服みたいなかっちりした服をきた男の人達が10人ほど、ばらばらと歩いてくる。


 それぞれ、剣を持ってたり、槍を持ってたり、大きなボウガンっぽいものを持っている。


 左肩を覆うマントも黒い。




 マントには──白色と赤色の2匹のヘビが絡まる、大きなギザギザの剣が描かれていた。




 赤と白の蛇。赤白の組み合わせはめでたいけど、赤白の蛇はめでたいのか、めでたくないのか、どっちなんだ。


 真ん中のギザギザの刃身の剣も──なんでギザギザなんだろう。



 あの剣、そうだ、思い出した。よくファンタジー系の本やゲームにでてくるやつだ。

 確か……刀身が波打ってると、斬った時の傷跡が治りにくいから、相手を確実に死に至らしめることができる、んだっけ? 武器説明に、そんな怖い説明が書いてあったのを覚えてる。


 名前、確か──フランベルジュ。そんな名前の、相手を確実に殺すための、剣。



 めでたい赤白の蛇2匹と、怖いぎざぎざ剣1本が組み合わさって、ちょっと気味が悪い紋章だ。

 

 なんの集団なんだろう。鎧着てるし、もしかして騎士団、とかなのかな? ここ、ファンタジーな世界だし。


 ちょっと気味が悪い紋章を付けた騎士団っぽい集団が通りすぎた後──遅れてもう1人、角から現れた。



 少年だった。


 

 少年、と言っても、高校生ぐらいだろうか?

 もしかしたら、同い年ぐらいかもしれない。

 

 子供か大人か、どっちともいえない微妙な外見だ。



 真っ黒い短い髪に、真っ黒い服。白い肌。


 裾の長い、軍服っぽいデザインの服を着ている。


 左肩には、あのちょっと気味の悪い紋章。



 パレードの後に付いていく子供みたいな軽い足取りで、後ろ手に手を組んで歩いている。



 少年が、道の真ん中で、立ち止まった。


 そして、ゆっくり顔をこちらを向けた。




 真っ暗な、真っ黒い瞳。






 ──え。


 

 なんか目が合ったんですけど。


 気のせいかな。

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