第七章は不思議の国の街へ
第七章は不思議の国の街へ
結局僕の叫び声に気が付いたユミさんがやって来た。
僕は目の見えない恐怖で後から考えたら恥ずかしくなるくらいに怯えていた。
「ヒロ君どうしたの?大丈夫」
「目の前が真っ暗なんだ。ユミさん助けて!」
ユミさんは僕を抱きしめた。それはすごく温かくて僕を安心させた。
「大丈夫 大丈夫」
呪文の様にユミさんがささやく。そしてその手が僕のまぶたに触れた。
すると嘘みたいに視力が回復した。
空の青さと海の青さと砂の色とユミさんの顔が僕の視界にいっぺんに入ってきた。
「ユミさん」
僕は放心状態になっていたと思う。でもすぐに現実に戻った。そして一気に恥ずかしくなっちゃった。
だからまず小学校六年生の当然の行動として僕はユミさんの腕から逃げた。
「ヒロ君ごめんね」
ユミさんが少し泣きそうな顔で謝っている。どうして謝るの?
「謝らなくていいよ」
僕はユミさんの謝る理由を聞かなかった。夢の中の闇の狼の言葉を思い出したからだ。
僕の目が見えなくなる理由をユミさんに聞けば何か二人の関係が壊れてしまう様な予感が
していたからだ。
それから僕達は朝食用のバナップルの実を採りに行った。
林の前まで来たけど昨日の椰子カニ君達はもういない。「どうやら夜行性らしい」
しかたなく僕が空を飛んで果実を採って今日の朝ごはんを確保した。
朝食をすますと、いよいよユミさんが昨日言っていた街に向う事になった。
ちなみに今朝からここまでの間、なんだか僕とユミさんはぎこちない。
「さあ、 行きましょう」
そう言ってわざと明るくユミさんは立ち上がった。
僕もそれに合わせる様に「うん、がんばろう」なんてわざと言ってみたりする。
僕達は浜辺を歩き出した。
「あれ?」
僕は不思議に思ったんだ。きっと又空を飛ぶと思っていたから。
だって僕達は小さな島にいる。飛ばなくちゃ街なんかにたどり着けない。
でもユミさんは浜辺から今度は島の奥へ奥へと足を進めていく。
「ユミさん本当にこっちでいいの?」
僕は少し不安になってユミさんに聞いてみた。
「ヒロ君心配しなくて大丈夫」
ユミさんは優しく自信に満ちた声で僕にそう言った。
その言葉に嘘はないのだと思う。そう感じるくらい今の声には説得力があったんだ。
しばらく僕達は歩いた。途中に小川があって僕達はそこで少しの休憩を取ることにした。
「あれおかしいぞ」
僕は小川の水を飲んでいる時に、ある疑問が頭に浮かんだ。
「この島ってこんなに大きかった?」
そうなんだ、昨日僕が空からこの島を見た時は僕の足で30分もあれば一周できるくらいの島だと思っていた。でも僕達は朝出発してからどう考えたって二時間は歩いている。
それにどうして空を飛ばないで歩いて行くの?
「ユミさん聞いていい」
僕は隣で休んでいるユミさんに思い切って聞いてみた。
「何?ヒロ君」
「どうして飛んでいかないの。その方が絶対早いと思う」
「うん、それはね街は空からは見えない場所にあるから」
「この島、こんなに広かったっけ?」
「街がね、近づいて来ているの、もうこの島と同化しているから広く感じるの」
僕「?」
ユミさんの言葉を僕は理解できなかった。「街が近づいている?」どういう事。
それでもユミさんの自信たっぷりの表情は僕を今のところ安心させてくれている。
「さあもう少し、がんばろう」
ユミさんが立ち上がった。僕もそれに従う。
僕達は又歩き始めた。
しばらく二人で歩いていると急に視界が広がった。そしてその向こうに灰色の大きな固まりが見えたんだ。
「ヒロ君付いたよ」
ユミさんが指差して言う。僕はもう一度その方向を見てみた。
灰色の大きな固まりは城壁だった。すごく高くて大きい。
だから城壁が邪魔して中の様子はまったくわからない。でもすごい、夢みたいだ。
「こんなの映画でしか見たことないや」
僕は興奮気味に感想をユミさんに伝えた。
城壁の周りは湖になっていて橋が城壁に向って何本も伸びている。
僕達がそこへ近づいていくと、まわりはどんどんにぎやかになってきた。
「みんな街にむかっているの」
ユミさんが教えてくれる。色々な人種の商人や家畜や野菜を売りに来た農夫。旅の大道芸人。みんな始めてみる様な人たちばかりだ。
人間だけじゃない。人かなとおもっていたのは実は二本足で歩く猫だったり。
馬のかわりに大きなアルマジロに荷馬車を引かしている旅のキャラバンもいる。
みんなガヤガヤ言いながら城の方角に向っている。
僕は好奇心で一杯になった。
「ここは 望まれた街 ここの街に来たいと願えば現れる不思議な街」
ユミさんはそう僕に教えてくれた。そうか、だからあの島から海を越えずにそのままこれたのか。僕は一人納得する。
「魔法は禁止。飛ぶことも禁止。呪文も禁止。化けることも禁止。」
大きなペリカンみたいな鳥が空から大声で街に向う人々に注意を促している。
僕はうるさい鳥だなと思いながら街に向う行列に並んだ。
僕は並びながら行列の先にある門をみていた。なんか大きな物が動いている様に見えたからだ。遠くでまだ良く見えない。だんだん門が近づいてきてそれがなんだか僕は理解した。
同時に僕の驚きは最高潮「マックス」に達する事になる。
大きな物の正体は門番だった。
「ビル三階建てぐらいもある大きな巨人だ」