第六章は不思議の国の夢の中
第六章は不思議の国の夢の中
僕は眠り込んでいた。夢を見ていたと思う。夢とわかりながら夢をみていた。
「パパ、 ママ、 どこ?」
僕は心の中で叫びながら必死で二人を探している。僕は小さな子供にもどっていて「もっとも今も小さくていたいけな子供だけど」人ごみの中をさ迷っている。
しばらく一人でさ迷いながら見覚えのある風景に気づく。
「そうだ、ここは子供の頃によく来たショッピングモールだ」
そしてもし、ここで迷ったときは約束の場所が有った事を思い出した。
「そうだ、おもちゃ屋さんだ」
僕はそこからかけ足で走ってショッピングモールの「おもちゃ屋」を目指した。
すぐに「おもちゃ屋」は見つかった。僕は駆け足で行ってパパとママの姿を探す。
「パパ ママ」
二人を見つけた! 「ヒロ」二人が同時に僕の名前を呼ぶ。
僕は息をはずまして二人に近づく。そしてパパの腕の中に飛び込んだ。
「ヒロ心配したんだぞ」
「パパごめんね」
「ヒロ心配したわよ」
「ママごめんね」
「ヒロ心配したぞ」
「?」「だれ?」
僕のパパとママは世界中に一人ずつしか存在しないはず。じゃあ三番目は誰の声。
その後もう一度三番目の声が聞こえたんだ、今度は恐ろしい声で
「本当に心配したのだぞ」
僕が思わず顔を上げた。パパの顔が真っ黒に変わっている。
「何?パパじゃない」
僕はパパもどきの腕から逃れようとしたけど反対に腕は木の根の様に絡み付いてきた。
「離せ!」
「いやだね」
真っ黒の顔はとてもいやらしく笑っている。奥から新しい顔が出てきた。僕は凍りついた。
「狼!」
ユミさんは「闇の狼」って呼んでいた。海の上で昨日出会った、あのでかい奴だ。
でも、どうして僕の夢の中にいやがる!「迷惑な奴だ」
「お前はたしかに死んだ、どうして僕の夢に現れる」
僕は「闇の狼」に訴えた。
「死んではいない。すぐ近くにいるよ」
本当にいやらしい声だ。下品でずうずうしい。でもちっとも怖いとは感じない。
「うるさい、僕をはなせ」
正直に言おう、夢と確信しているからこんな大口をたたいてる。
だから僕は動けないながらもしばらくの間ジタバタした。
「調子に乗るなよ、小僧」
闇の狼が僕の胸倉を掴んで引き寄せる。狼の牙が僕の目の前までせまって来る。
とたんに僕はシュンとなった。夢のはずなのに屈辱的だ。
「いいか小僧 今すぐお前の頭をこの牙で粉々に噛み砕いてもいいのだぞ」
闇の狼は僕が怯えておとなしくなると満足する様に話を続けた。
「よく聞け、俺はお前の敵ではない。誤解するな」
「誤解されるには充分」と言いたい所だけど、実際は怖くて何も言えません。
闇の狼の目が僕の目をのぞきこんだ。最初に見たときと同じ吸い込まれそうな感覚になってしまう。
「小僧忠告してやろうというのだ、お前はまだこの世界の事を何も知らない」
「忠告?」
「そうだ、大事な事を忠告してやろう」
「大事な事って何?」ここはちゃんと言葉が出た。
「お前はあの小娘に騙されている」
「小娘ってユミさんの事?」
闇の狼の方が僕を騙そうとしていると思うけど。だってビジュアル的にも悪役だ。
「信じられないだろう」
僕の心の中を覗きこんだ様に闇の狼が笑う。いやらしく気持ち悪い声で。
「一つ教えてやろう、もうじき小娘はお前の目を盗む」
「目?」
「奪われる前にあの小娘から離れろ、まずはここまでだ」
その後に闇の狼の姿は消えた。同時に僕は眠りから覚めようとしていた。
夢と現実の間を僕はフワフワ漂っている。
僕は目覚めた。でも同時に恐怖で鳥肌が立ったんだ。
「目が見えない」
確かにこの世界に初めて来たときも目の前が真っ暗で始まった。
でも今の僕は闇の狼の声が頭に残っていて若干パニックになっている。
「ユミさん」
僕は声に出して読んでみた。目が見えない以上どうしようもない。
「ユミさーん」
もう一度叫んでみる。僕は叫びながら闇の狼の言葉がもし本当ならどうしようかと
途方にくれていた。