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第四章は不思議の国の海の上

第四章は不思議の国の海の上





僕は今「鮫」のいる海の中をプカプカ浮いている。

プカプカはかわいい表現だけど内心はヒヤヒヤ物だ。でも全然襲ってこない鮫達に僕は少し余裕を持つことが出来ていたんだ。


「鮫」達は時折僕の近くまでその鼻先を近づけてくるけど、「ゴン!」ってぶつかる音がしてそれ以上は近よってこれない。


「見えない壁があるの?」


僕は不思議に思って壁の辺りに手を近づけて見た。「なんにもない」

「鮫」達は忌々しそうに僕の周りをウロウロするだけ。僕はその間にもう一度飛ぶイメージを頭の中で懸命に考える。「飛べ!」でも飛べない。

僕が途方に暮れているちょうどその時にいやな足音が聞こえた。


「海の上で足音?」


動物が走り回るみたいな音だった。「ドタドタドタ」段々近づいてくる。

「鮫」達もそれに気が付いている様子だ。五匹とも鼻を海面に出してヒクヒクしている。

音のする方を僕は懸命に探すんだけど暗くてよく見えない。

突然「鮫」達が一斉に一つの方向に向いたんだ。


「あっ」


僕も「鮫」の方向に視線を向けた。海の上を何か走ってくる。「何?」

よく目を凝らしてみる。四足っぽい。何か危険な香りが・・


「狼だ」


僕はもう一度目をこすりまじまじと見てみる。「どうみても狼だ」しかも海の上を走って

こっちに向かって来る。


「めちゃくちゃだよ、まったく」


僕はあの狼に「鮫」以上の危険を感じたんだ。もう首の付け根の毛が逆立つくらいに。

泳いだってすぐに追いつかれる。そうこう考えているうちにも狼はどんどんこっちに近づいてきた。


「うぁあ」


僕の目の前まで狼の顔が迫っている。「熊よりも大きいぞ」と僕が思った瞬間。

鮫達が狼を襲いだした。鮫が五匹共、狼に喰いついたんだ。

狼が思わず悲鳴を上げる。凄い声だ。反対に鮫達は静かに喰いついたまま狼を海の中に引きずりこもうとしている。


鮫の尾ビレが「バッシャン」「バッシャン」と大きな水しぶきをあげた。

すごい格闘を僕は今 生で見ている。


僕はちょっとだけ放心状態になっていたけど、すぐに「逃げなきゃ」って逃げ出すことに決めた。で、どうしたかっていうと簡単。無我夢中さ。

何をしたのか全然覚えていないんだ。でも気が付いていたら海の上を走っていた。


「あれ 走っている?」


走りながら海の上なんだと気が付いたんだけど後を振り返ると五匹の鮫にかじられたまんま狼が僕の方にむかっていた。だから僕は考える事は一切やめて海の上を走る事に専念したんだ。

海の上は波打っているんだけど僕が踏みつける足はちゃんと水平になってくれていて地面を走るのと全然変わらない感じだった。

とにかく走った。


「狼は?」


僕が後ろを振り向くとまだ追いかけて来ている。でも五匹も鮫を背負っているから凄く遅い。僕は充分に距離を開けてから狼に向かって振り向いた。

狼もそれに気が付いて足を止めた。狼の目は僕をじっと見ている。その黒い目に僕は吸い込まれそうな感覚になった。


「なんで僕を追いかけるの」


大声で僕は狼に聞いてみた。狼に言葉が通じるかなんて事は僕も知っている。

でも聞いてみたんだ。狼は動かずに黙ったまんまだ。


「やっぱり狼とは話はできないのかな」そう思った時「狼」が又僕に近づこうとした。

僕は逃げる準備を開始する。


「ヒロ君!」


僕は声のする方向を見た。「この声は絶対ユミさんだ!」

その時一瞬僕は狼から目を離した。それが良くなかった。

狼はまた全速力で僕を狙って突進して来た。鮫も五匹連れたまんまで。


「ユミさん!」


狼の顔が僕のすぐ目の前まで来ている。顔だけで僕の背丈ほどある。

ユミさんは空にいた。空から真っ直ぐに僕のいる所に降りてくる。


「沈め!闇の狼」


ユミさんの声が海の上に響き渡る。その瞬間まるで氷が割れるみたいに狼が海に沈んだ。

僕はびっくりだ。その場で腰を抜かして座り込んでしまった。

ユミさんは僕の前に立って狼との対決に備えている。素直に思う。「超かっこいい」


沈んだ狼は鮫達に襲われて、なんだか可愛そうな事になっている。鮫も海の中で本領発揮しているみたいだ。しばらくの間は狼と鮫の大混戦だったけど、段々狼の動きが弱っていく様に見える。


「ヒロ君大丈夫?」ユミさんが僕に優しく聞いてきた。               


「大丈夫な訳無いでしょ。小学生が夜の海に一人で落っこちて鮫だわ、狼だわ、に襲われそうになって今日一日で僕の人生においてのピンチをどれだけ更新した事か」


と言いたい所だったけど僕は強い子の振りをして「全然大丈夫」としか言わなかった。

海はだいぶ静かになっていた。

最後に鮫のヒレしか見えなくなって、それからその鮫もいなくなった。

僕は立ち上がってユミさんの隣に並んだ。


「鮫君は僕達の味方なの?」


ユミさんはしばらく考えてから口を開いた。


「鮫君はごちそうを取られちゃうのがいやだったの」


「僕はごちそうなの?」


だとしたら僕はとんでもない所に来ているらしい。やだよ、こんな弱肉強食のサバイバルなんて。


「大丈夫ヒロ君絶対に二度とこんな事にはならないから」


「僕はいつ帰れるの」


その質問はユミさんを困らせたのか悲しくさせたのか。二人の間に気まずい沈黙が流れたんだ。僕はあわてて話題を変える。


「僕、空を飛べなくなっちゃった」


出来るだけおどけて言ってみた。女の子の悲しい顔はなるべく見たくないからね。


「大丈夫 またすぐに飛べるから」


そう言ってユミさんは僕の手を握った、正直ちょっとドキドキする。それから僕達は夜の大空に飛び上がった。



闇の狼のその後



深海の中で闇の狼が泳いでいる。体中いまいましい鮫のお陰で傷だらけだ。

しばらくは意識も朦朧としていたが途中で月明かりが増したお陰でなんとか気絶せずに

すんだ。「月のエネルギーは素晴らしい」

匂いからしてもう時期、陸地のはずだ。身体にも力が入る。


やっとの事で陸地に上がった。小さな島であったがここでなら本格的に体を休ませられる。

身体にまとわり付いた水と海草をブルブルっとはらい落として岩場の影に倒れこんだ。


「小娘め、」


今日見たあの娘は生かしておけない。そしてあの坊主の体は絶対に俺が手に入れる。

闇の狼は沈んでいく意識の中でそう誓った。


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