第三章も不思議な国で冒険だ
第三章も不思議の国で冒険だ
「僕はしばらく飛び続けたのだ。とてもかっこよく。」
と、言いたいところなんだけど実際はちょっとちがうのです。だって・・
「ユミさんめちゃくちゃ早いんですよ!」もう僕の顔真っ青。
あのねえ。僕が初心者である事は考慮してほしい。いや絶対に考慮するべきだ。
最初はね、そりゃ僕も飛ぶことに夢中で色々ためしたさ。でもね、ユミさんのペースで飛んで行くと試している場合じゃなくなってくるのさ。
「ヒロ君。早く、早く」
まるでテレビドラマに出て来るヒロイン見たいにはしゃいじゃってさ。ちなみに僕は彼女いた歴がまだ0年だからちょっとうれしくなってさ、笑いながら「まてよ まてよ」なんてセリフが口から出ていて、なおかつちょっとうれしい気持ちがあったんだけど。
でもね・・今はけっこう無口でいます。
「ヒロ君疲れた?」
やっと僕のこの切実な気持ちに気づいてもらえた様だ。でも僕のバカなプライドは気持ちとは逆方向の言葉を口にしていたんだ。
「いや、ぜんぜん」
なんてやつだ、かわいくない。実に不愉快だ。しかも言っている本人は僕である。
なんてへそ曲がりな発言だ。「いつか決着つけてやる」
と僕は心の中でつぶやいた。まったくバカである。
「くちびる」
「えっ?」
「紫色になっているよ」
ユミさんが心配そうに僕を見つめた。自分の唇は確認できない、「うー」の口で目を下におもいっきり下げればなんとなしにわかるかもしれないけど。
「えっ本当」
確かに僕の「くちびる」は「夏」限定で紫色に変貌する。海と川とプールに漬かると、どうしてもなってしまう小学生特有の期間限定の病気だ。ちなみにこの病気の原因に今回から「空中」が特別に加わった。しかも季節は問わない。
「少し休もうヒロ君」
ユミさんが心配そうに僕に話しかける。
確かに手と足の感覚が全然なくなっている。暖かそうな空の上にいてもやっぱり寒い。
僕はユミさんの提案に素直に従った。でも「まだ遊びたりねぇぜ」って顔だけは残して。
「あそこがいいわね」
ユミさんが空から一つの島を指差した。ここから見ると実に小さな島だけど僕としては
今はゆっくり休みを取りたい。とにかく後ろに着いていくことにする。
「先にいくね」
と、言った瞬間、僕の目の前でまるでスキージャンプの選手の様にユミさんは島に下りて言った。一瞬何がなんだかわからない。「すごい勢いだ。」
「おお 怖」
僕も同じ様に出来るかな?そんな事は絶対に考えない。だから僕の遊園地での理想系であるゆっくりなジェットコースターをイメージしてソロソロ降りていった。
それでも大空に上がった時と違って降りるのはずっと怖い。慎重に降りてく。
海に近づくと最初一つの島だと思っていた所は実はたくさんの島が集まっている場所だと気づく。「ユミさんどこ?」急に不安になっちゃう。僕は一番目立つ大きな島を目指して進んだんだ。だいぶ暗くなってきて月や星がうっすらと見えだしている。
反対に僕が飛んでいる足の下の海は何処までも暗くて「ちょっと怖いぞ」という気持ちに
なってきちゃう。
「ユミさーん!どこですかー?」
僕は島の方角に向かって声を張り上げた。返事は聞こえない。
「とにかくいかなきゃ」僕は島に近づこうとする。でも気が付いたんだその時。
僕の飛ぶスピードが歩くよりも遅くなっている事に。
「ありゃ おや?」
飛ぶイメージを懸命に考えるのだけれど一向にスピードが出ない。「焦る!」
ジタバタすればするほど動きが悪くなる。このまま海にドボンとかだったらどうしよう。
「ユミさーん」
僕はもう一度、今度はお腹の底から声を張り上げた。・・・返事は聞こえない。
下の海をチラリと見てみる。真っ黒な海は僕を飲み込もうとしている様に見える。
怖さに僕の手足が思わず縮んだ。で、その時僕の魔法が解けたんだ。
「あっ」
「あっ」と言ったかどうかどうか確認できない。それくらいあっという間に僕は海に
落ちた。真っ黒な海の中を僕はぶくぶくと沈んでいく「こいつはやばい!」
僕のあらゆる器官の細胞たちが「ヒロやばいぜ」って僕に教えてくれる。
「わかっているよ。それぐらい」
僕は体のあらゆる器官に命令する 僕「全速力で海面にあがれ」 器官「アイアイサー」
僕はこれ以上に沈まないように平泳ぎと犬掻きの合同泳ぎで海面を目指した。
目の前は空気の泡と暗闇の水中しか見えていない最悪な状況だ。「怖いよ、ママ」
「ぷはー!」
海面にやっと出られた。とにかく新鮮な空気を吸い込む。
波は静かだったし水の中はさっきまで飛んでいた空よりも暖かい。でもね、暗い海と夜は
僕を恐怖のズンドコに押し込めるんだ。若干泣きそうにもなっている。
「ユミさーん」
もう一回呼んでみた。お腹に力が入らなくて声がどうしても小さくなっちゃう。
とにかく僕はこの暗黒の海に漂うという人生最大のピンチに陥った。
眠ってしまった様だった。
「ユミさーん」自分の心の闇の中で声が聞こえてくる。ヒロ君の声だ。
ハッと私は起き上がった。砂が体のあちこちに付いている。起き上がるとそれが下に落ちる音が聞こえる。砂浜で眠ってしまっていた様子だ。
「ヒロ君」
私はヒロ君の名前を呼んでみた。反応が無い。近くにはいない。
失敗したと思う。昨日は眠らなくてそのままこの世界ではしゃぎまわった。
この島の砂浜に着いた瞬間に倒れこんだ。ヒロ君はすぐ来るものと思っていた。
「ヒロ君」
もう一度今度は心の中でヒロ君の存在を感じようとしてみた。
心の中で静かにヒロ君をイメージする。「見つけた」「!?」
ヒロ君の存在は感じる事が出来た。しかしもう一つの悪い存在もヒロ君の近くにいる。
「闇が来ているのね」
私は「闇」に語りかけた。闇は最初私の存在を無視するようにダンマリをきめていたけど私が自分の本当の姿をイメージして送ると返事を返してきた。
ニンワリと闇がイメージを私に送ってくる。生暖かくて気持ち悪い。
「お仲間か」闇の心のイメージが伝わってくる。
「違う!」
私は否定してわざとキツイイメージを闇に送った。闇はこれで少し動けなくなるはず。
闇はしばらく蛇の様に私のイメージの周りにトグロを巻いていたけど。
私がもう一度キツイイメージを送ると今度は本当に気配を消してどこかへ行ってしまった。
「ヒロ君が危ない」
私は確信して海の方角を向き。ヒロ君の気配をもう一度確認した。
「待っていてすぐに行くから」
私は今までよりもずっと力を込めて砂浜を蹴り上げて大空へ飛び上がった。
僕の名前は田坂博之 通称ヒロ覚えていて忘れないでね。
何でまた今更自己紹介かって。簡単だよ、もうじき僕が死ぬという危機の真只中にいるからだよ。
僕が海面に浮かび上がって三分も立たないうちにある物に囲まれちゃったのだ。
最初は史上最大のピンチと思ってパニクってたけど、もう腹は決まった。
「食べるなら早くして」
僕は海に向かって大声で叫ぶ。もう開き直った、完全に開き直った。
「鮫」が五匹、僕の足の下を行ったり来たり。
「人生短かった。」