第十九章は不思議な国の攻防戦1
第十九章は不思議な国の攻防戦1
僕の言葉を聞いたユミさんとミスマーブルは一瞬「キョトン」とした顔になった。
唐突にそんな事いわれても確かに驚くだけだ。
でも次の瞬間二人はもっと驚いた。
豚小屋の壁が爆発したからだ。土埃が立ち上がる。奥に何かいる、赤い目が二つ「闇の狼」で間違いない。
「逃げるんだ!」
僕の言葉とは反対にユミさんが前に出た。手が青く光ったかと思うといきなりその手から
光の玉が「闇の狼」に向かって放たれる。
「闇の狼」は素早く動いて光の玉の直撃を免れた。
光の玉はそのまま豚小屋の中に入って行く。
言葉には表せないほどの「ドカン!」て大きな音が周辺に響き渡った。
「うひょぉぉぉぉ!」
僕は驚きの声をあげる。「だって豚小屋の屋根が吹っ飛んだんだ。空高く」
映画みたいな派手な爆発を僕は見るはめになった。
「闇の狼」には直撃しなかった。
奴は無傷だ!
変わって「闇の狼」が僕達に向かって突進して来る。
「ヒロお逃げ!」
ミスマーブルが僕に向って叫んだ。そして向ってくる「闇の狼」の前に立ちふさがる。
「ミスマーブル無茶です!」
僕は叫んだ。ユミさん同様 僕の声は無視。どうなっているんだ、ここの女どもは、
ユミさんの攻撃をかわしながら「闇の狼」が突進して来る。
標的はどうやら僕らしい。
「小僧! 探したぞ」
声は出ていないけど「闇の狼」の表情はそんな狂喜の顔で満ち溢れていた。
ユミさんは光の玉を僕とミスマーブルの前方「闇の狼」に向かって立て続けに発射した。
大きな爆発音が続く。一発は大きく外れて少し遠くのテントを直撃した。
街を行きかう人々の悲鳴が聞こえる。
ジグザグに攻撃をかわしながら驚く速さで近づいてくる。
とにかく間にいるミスマーブルが一番危ない。
「闇の狼」の鼻先と牙がもう後ちょっとでミスマーブルに届く。
「だめだ!」
僕は無意識にあの女の子を思い出していたのかもしれない。
ふだんなら絶対しない行動を僕はとった。
僕はミスマーブルを抱きかかえて空へ飛んだ。
飛び上がる瞬間「闇の狼」と僕との目が合った。
恐ろしい目だったけど僕はにらみ返した。
そのあと耳と頭が見えて続いて背中と腰。最後に尻尾が僕の太ももに軽く当たった。
上手く飛び越えられた。
すり抜けられた「闇の狼」が反転して再び僕達を襲おうとする。
反転する為に一瞬「闇の狼」が速度を落とす。そのタイミングを狙ってユミさんが
光の玉を連続で発射する。
爆発に巻き込まれないように僕はミスマーブルを抱きかかえたままさらに高く飛んだ。
爆発で土ぼこりと煙が僕を包む。
「ヒロ!」
ミスマーブルが煙の中を指差した。
僕が指差す方向に視線を向けた時!
「闇の狼」の巨大な口がワニみたいに大きく広げられて僕の視界一杯に広がった。
「うぁ!」
僕は驚いてさらに空に向って高く飛ぶ。
でもそれは「闇の狼」の罠だったんだ。
この街の空には結界があるんだった。
驚いた僕はそんな事も忘れていた。思いっきり高く飛んでその結果僕は結界に嫌というほど身体をぶつけた。
僕は「グハ」とか「グェ」とか言ったと思う。
頭の中が真っ白になった。それでもミスマーブルだけは絶対離さなかった。
「ヒロ大丈夫か」
ミスマーブルが僕に話しかけてくる。答えている余裕が僕には無かった。
身体全身をぶつけたみたいだ。
「とにかく安全な場所に下りなきゃ」
僕は心の中でそう呟いて下を向いて安全そうな場所を探した。
しかし執拗に「闇の狼」は僕達を狙ってくる。
ユミさんの攻撃をかわしながら何度も飛び上がってきて僕達に牙と爪を向けた。
その度に僕はそいつらを避けるために。動き回らなければならない。
「くそ」
そう焦っていた時「闇の狼」が又僕達を狙って大きな口を開けて飛び上がってきた。
でもそれも「闇の狼」の作戦だった。
牙を避けようと右に移動した瞬間そこには「闇の狼」の爪が待ち構えていた。
考える暇も無かった。
「あっ」
僕が爪だと思った時にはもう「闇の狼」の手で僕とミスマーブルは吹っ飛ばされていた。
そのまま二人とも地面に向って落ちていった。
もう僕の出来る事は意地でもミスマーブルを離さない事だけ。
「ヒロ君・・・・・」
たぶんユミさんが絶叫しているんだと思う。
でも今の僕には遠くの声に聞こえる。意識が遠のいて行く僕がこの世界に来てからのお約束になってきた。
もう少しで地面に落ちる。
どんどん地面が近づいてくる。
「こりゃ死んじゃうな・・・」
他人事の様に考えてしまう。
その時僕の身体がフワリと浮いた。
「あれ?」
正確には誰かが僕達を上から抱きかかえてくれた様だ。
地面には僕とミスマーブルの影が見えるのだけど おかしな事にその影に鳥の羽の影も追加されていた。
僕は痛みを堪えながら首を回してその正体を突き止めようと思った。
鳥の顔が見えた。鷹だった。
「警備兵・・・・?」
鷹が無表情に言った。
「そうだ助けに来た」




