表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/25

第十七章も不思議な国の市場の悪夢4

第十七章も不思議な国の市場の悪夢4





僕は完全に無気力だった。そして今「闇の狼」の眠りに引っ張り込まれようとしている。

女の子の顔が頭から離れない。悪夢を見ている様だ。


目がどんどん重たくなってくるし視界が霞んでいく。

最後に僕が「闇の狼」を通して見た光景は足元に転がっている熊のぬいぐるみだった。


「あの子のだ ついさっきまで大事に抱いていた」


僕が考えられたのはそこまでだった。


悲しみが襲う。僕の思考はそこで途絶えた。

深い谷の底にゆっくり落ちていく様なそんな感覚だった。



だいぶ時間が経ったと思う。

どれくらい経ったのだろう。

僕の身体は眠りから目覚めた。しかし完全な目が覚めている訳じゃない。


だから「僕は今も眠っている」と、思う。


正確に言うと眠っている事を自覚しているんだ。

二人の自分がいて一人の僕は眠っている。そしてもう一人の僕は眠っている僕をながめている。それが一番しっくりくる説明だ。


辺りは真っ暗で眠りの中で僕は孤独感いっぱいになっている。

眠っている僕を眺めながら。


「あの娘を助けられなかった」


僕はあの娘の事意外に考える事ができなくなっていた。


今いったいどうなっているのか僕にはさっぱり理解できない。

だけど周りの暗く静寂な世界は今の僕にとって一番ありがたい世界なのかもしれない。

僕はこの孤独な世界の中で一生暮らそう、なんて事を考えていた。


「トントン」


誰かが口真似でドアをノックする。

僕はゆっくりと振り返った。「別にそれが闇の狼でもかまわない」

自分でも驚くくらい無防備だ。


「あれ?」


誰もいない。暗い闇だけが広がっている。


「トントン」


又声が聞こえた。僕は声のする方向に振り向く。

また誰もいない。変わりに花が一輪置いてあった。


「何の花だろう?」


ピンク色の花びらを付けていて一つ一つの花びらがピンと立っている。

僕は無意識にその花を拾い上げた。


「ネリネという花だよ」


また声が聞こえる。今度こそと僕は思い声のする方に素早く振り返ってみる。


男の人が笑顔で立っていた。


「誰ですか?」


僕は不機嫌な声で質問した。実際にかなり不機嫌だ、今は本当に一人にしておいて欲しい。

男の人はニコニコしながら僕を眺めながら話を続けた。


「ネリネの花言葉を知っているかい?」


どうでもいい事を僕に質問してくる。


「知りません」


僕はイライラを積もらせながら質問に答えた。

相変わらずニコニコしている。口元は見えるけど暗くて顔はよく分からなかった。


「ネリネの花言葉は忍耐・・」


そう言って男の人は僕に近づいてきた。「あっ!」僕は息を飲んだ。

男の人の姿が「僕自身」だったからだ。


僕は座りながら腰を抜かした。しかも大人の人みたい。


「大人の僕?」


その姿は僕そのものだった。



「あなたは誰?」


僕は近づいてきた僕に警戒しながら質問した。

なんだか話がややこしい。


「自分に向って誰とは実に悲しいね」


余裕の顔でさらに僕に近づいてくる「闇の狼」の罠かも知れない。

僕は一歩後ずさりしてさらに警戒を深めた。


「僕が二人もいるはずが無い。誰だ、お前は」


男の人は瞬きを二回して僕を見つめなおした。僕の反応に驚いているらしい。


「うん うん 恐れるのも無理はない。順序立てて話をしよう」


納得したように男の人は僕の前であぐらをかいた。いやでも目が合う。


「ヒロ君ここは闇の狼の記憶の中だ。そして今君はその中にいる」


「闇の狼・・記憶・・?」


「そう記憶の中だ。そして今の君は肉体を持たず魂だけで行動している」


「魂だけで?」


信じられない話だけどユミさんも魂だけで行動していた様な話をしていた。


「難しいかな」


男の人は僕の反応を見ているみたいだ。


「話を続けてください」


僕は先を聞いてみる事に決めた。


「君の魂は肉体から離れて無意識のうちに闇の狼の記憶に飛び込んだ。それが今の状態だ。

 そして君が魂だけの存在だから私は君に会うことが出来ている。」


「あなたは何者ですか?」


僕は男の人の正体を知りたくなった。そしてどうして僕の姿をしているのかも。

男の人は僕の質問にニッコリ笑って次の言葉を口にした。


「この世界では先生と呼ばれている」


「先生?」


「先生」を訪ねて僕達はこの街にやって来た。僕自身は姿を見ていない。

けど年齢は三百歳って聞いている。


「本当に先生なのですか。」


「どうして、そんな事を聞いてくるんだい?」


「だって先生って三百歳なんでしょ、若すぎます」


「じゃあこれでどうだい」


僕が瞬きをした一瞬で先生の姿は小さなサルみたいな老人に変化した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ