第十三章も不思議な国の街の朝
第十三章も不思議な国の街の朝
「イエスの答えはうれしい」
僕はユミさんの笑顔を見て元気が出た。
ただし不安もある。昨日の夜にユミさんが「先生」と話していた内容だ。
「迷宮の館」
僕が元の世界に帰る為にはそこに行かなきゃいけないんだろうか。
昨日の会話の内容を僕は思い出して不安になる。
いや不安というよりはっきり言って行きたくない。「いやな予感しかしないよ」
ユミさんだって行きたくないオーラがバンバン出てるし。
けど運命って奴はとても残酷で僕達は行く事になりそうだ。
「先生が行けといったから」
ユミさんは僕にそう説明してくれた。
「わかった、行くよ」
僕はそっけなく返事をした。だってそれ以外に僕の選択する余地はないようだし、「先生」
が行けというなら何かヒントがあるはずだ。
「僕は元の世界に帰る」
そう決心してユミさんに従う事にした。
朝食を取った僕達は身支度をすませて「先生」の家を出て「迷宮の館」に向って出発する事にした。
「ちょっとお待ち」
ミスマーブルが僕達を引きとめた。
「お前たち準備がまるで出来ちゃいないよ。迷宮の館まで何日かかると思っているんだい」
僕「へっ?」
そんなにかかるの?てか、何処にあるの「迷宮の館」
ミスマーブルのあきれた表情をした後外人がよくやる「やれやれ」の仕草をした。
「大丈夫ですご迷惑はかけません」
ユミさんがキッパリとミスマーブルに答えた。
「ユミ、お前は今まで魂だけでここに来ていたんだよ。肉体を持って始めて来たのに何が
出来るというんだい」
今度はミスマーブルがユミさんにピシャリと言ってのけた。
「魂?」
僕は意味がわからず二人の顔を見ていた。「ユミさんが魂だけでここに来た?」
その時僕はユミさんの言葉を思い出した。
「うん、本当に簡単に言えば夢を見ている間に魂だけがここに来た。かな」
巨人のアロから開放されてこの街に入った時のユミさんの言葉だ。
「じゃあ本当にユミさんは魂だけでこの世界にやって来たんだ」
僕はそう確信してつい声を出してしまった。しかもかなり大きな声で
その声に驚いて二人は僕の方に振り返った。
最初に口を開いたのはミスマーブル。しばらく僕の顔を見た後。
「ユミこの子に魂の移動の話をしたのかい?」
そうユミさんに問いかけた。別に全部を喋っている訳ではないのにユミさんは「はい」としか言わなかった。僕は思う「僕は全然わかっていません!」
「じゃあこの子はお前が迷宮の館に行った事があるのを知っているのかい?」
「その事は・・」
ユミさんがミスマーブルにどう言えばいいのか。
又ユミさんの沈黙が始まる。
「えっ!それどういう事なの?」
僕の知っている事はこの世界ではかなり少ないらしい。
そりゃそうさ、僕この世界デビュー三日目だもの。
さっき二人の会話の意味を理解したら又新しい謎が現れる。
僕はユミさんに向って「迷宮の館」の事をもっと聞いてみたくなった。
でも、なんかみんなが僕に対して色々秘密にしている事が多いみたいだ。
僕が小学生だからってその空気は読める。
「ユミさんは迷宮の館に行ったことがあるの?」
僕は思い切って口に出した。
ミスマーブルは僕の言葉にちょっと嫌味な顔をしている。
ユミさんは冷静に僕の方に顔を向けて静かに言った。
「あるわ」
ユミさんの言葉はとても重い物に感じられた。
「じゃあ案内して。僕が帰る方法が見つかるかもしれない。」
この時の僕は元の世界へ帰る事しか考えていなかった。
「ヒロ、気持ちは分かるけどユミの事も考えておやり」
ミスマーブルが静かに言った。
僕にはその言葉の意味が分からなかった。
「いいんですミスマーブル。私は大丈夫」
ユミさんが今度は僕の方へ顔を向けて言葉を続けた。
「ヒロ君迷宮の館はとても危険な場所なの」
「うん」と僕はうなずく。
「でもヒロ君が帰る方法はたぶん見つかると思う。」
僕は心の中で喜んでいいのか悲しんでいいのか判らない複雑な気持ちになっていた。
実際「危険」というキーワードが無かったら僕は小躍りしていると思う。
「そんなに危険なの?」
僕は確認する様にユミさんに聞いてみた。
「うん、私はねあの中で17年間閉じ込められていたわ」
「17年!」
僕は驚いた。じゃあユミさんはいったい何歳なんだ。
「あの館の中で罠に落ちると時間が止まるの」
僕の疑問を補足しながらにユミさんが話しを続ける。
「でもね、そのお陰で魂だけで元の世界とここの世界の行き来が出来る様になったわ」
僕はたちまち不安になった。いやなるでしょう普通は、
「僕いやだよ17年も閉じ込められるなんて」
僕は顔が引きつっているのが自分でも分かるくらいに顔が引きつっていた。
「大丈夫今度は失敗しないから」
ユミさんはなだめる様な言葉で僕を落ち着かせようとする。
「本当に」
僕はユミさんをジッと見つめた。
「本当に約束するわ」
ユミさんは見えない目なのに僕の方に真っ直ぐ顔を向けた。
しばらくお互いに沈黙があった。
「ユミさんは僕の為に行ってくれるんだ」
僕はその事に気がついた。
僕はしぶしぶだけど「迷宮の館」に行く事に決めた。




