第十二章は不思議な国の街の朝
第十二章は不思議な国の街の朝
僕が目を覚ますといい匂いが漂っていた。
僕は知らない天井を見上げていた。「ここは何処だっけ?」寝ぼけ眼で考える。
「そうか僕は不思議な国に来ているのか」
そう考えると途端にパパやママの顔が浮かんで来る。
ちょっと前まであんなに嫌というか離れたい存在だったのに会えなくなって僕自身が不困ってしまうと急に思い出したりしちゃう。
「勝手だな僕は」
なんか自然にため息が出てきた。
小さなベットから下りて窓を覗き込んでみる。
お日様が街を照らしている。高台だから街の景色がすごくいい。
僕はぼんやりと外の景色を眺める。
「先生とか親とか友達とか・・」
僕はみんながどう思っているのか考えてみた。遠足の途中でいなくなって三日目。
「心配を通り越して怒っているとか」
独り言を僕はブツブツと口にした。
「起きているのかい?」
ドアのノックと共におばあちゃんの声が聞こえた。ちなみにおばあちゃんの名前は
「ミス マーブル」らしい。昨日の夜ユミさんに教えてもらった。
「ドラマに出て来る名前みたいだ」
僕はつぶやいた。そして慌ててミスマーブルに返事をする。
「はい、起きました」
「起きたなら着替えてキッチンへおいで。朝食の準備が出来ているよ」
「はーい」
僕は返事をしてミスマーブルが昨日の夜用意してくれていた。服に着替えた。
「変な服」
昨日まで来ていた服は汚れていたのでミスマーブルに無理やり脱がされた。
代わりの着替えの服を広げてみたけどセンスが悪すぎる。
しかし選択する余地が無いから僕はあきらめてその服を羽織った。
「おや、似合うじゃないか」
キッチンで料理を作りながらミスマーブルは笑顔で僕を褒めてくれた。
「別にうれしくないよ!」
そう突っ込みを入れたかったけど大人の僕はだまって椅子に座った。
僕の着ている服はインド人かインディアンが着ている民族衣装みたいでズボンも裾が広がりっぱなし、おまけに色はピンク!「なんて趣味だ」デザインした奴は僕の一生の敵になるだろう。
「おはよう」
ユミさんが部屋から出てきた。
「?」と僕は思った。
杖をついてぎこちなく動いている。昨日の動きとはあきらかに違っている。
「ユミさんおはよう」
僕はユミさんを注意深く見ながら朝の挨拶をした。
「おはようヒロ君」
ユミさんは上の空で僕に返事をかえした。
手と杖を使って一つ一つを確認してから椅子に座る。
確かに初めて出会った時。つまり遠足の日はこんな感じだったかもしれない。
僕は椅子に腰掛けながらユミさんの行動を注意深く見守る。
見かねたミスマーブルがユミさんの手を取り席に着かせた。
「ありがとう」
ユミさんが礼を言う。「元気ないじゃん」僕はユミさんを見ながらそう思った。
「ユミさんおはよう」
僕は声をかけた。ユミさんに元気がないと僕まで不安になるからだ。
ユミさんもミスマーブルが用意した服に着替えていた。僕と同じガラの女の子用バージョンだ。「ちょっと可愛いかも」同じ様な服なのにそう感じてしまう。
「さあ冷めない間にお食べ」
ミスマーブルが昨日と同じヤギのミルクと目玉焼、それとなんだか判らない黒いパンなんかを皿に手早く盛り付けて僕達の前に置いた。
その後に銀のお盆に食事を乗せてミスマーブルは「先生」の部屋へ消えていった。
キッチンは僕とユミさんだけになった。
「ねえ、ねえ、ユミさん先生はここで一緒に食べないの?」
僕の質問にユミさんは明るく答えてくれた。
「先生はもうかなりの年齢で立つことができないの」
「ふぅん何歳なの?」
僕は黒パンを山羊のミルクで流し込みながら聞いてみた。
「たぶん三百歳以上」
ユミさんはスープを飲みながら軽く答えた。
「さ、三百歳!」僕は驚いた、どんだけ長生きなんだよ。でもここは僕のいた世界とは
違うんだ。何があってもそうそう驚く事もないか。
「僕は先生に会えないの」
「まだ早いと思う。それに・・」
「えっ何?」
ユミさんが又考え込んだ。ユミさんは時折こういう仕草になる。癖なんだろうか、それとも僕にまだ言えない秘密があるんだろうか。
僕はテーブルに肘をついてユミさんの顔をじっとながめていた。
「ユミさんは何者?」そんな疑問が僕の頭の中をグルグルまわる。
しばらくの間キッチンに沈黙が流れる僕としては女子といる時はなるべく避けたい沈黙だ。
何か別の話題に話を持っていこうと僕が懸命に知恵を絞っていると今度はユミさんが僕に
話しかけた。
「先生にはもう直ぐ会えると思う。ヒロ君その時にはこの世界の事が少し理解できると
思うの。その時まで答えを待ってくれない。」
その時のユミさんの顔は今まで見た中で「と、いっても知り合ってまだ三日だけど」一番
真剣な顔になっていた。
「それは僕が元の世界に戻る事に関係ある」
ユミさんはニッコリと笑って「イエス」の顔をした。




