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第十章は不思議な国の「闇の狼」

第十章は不思議な国の「闇の狼」





闇の狼は走っていた。匂いを嗅ぎ分けて「ヒロ」を追う。

闇の中を抜けて懸命に走る。辺りは霧が立ち込め恐らく「望まれた街」はこの島から

離れるだろう。


「ふざけるな」


闇の狼は呪いの言葉をいくつか口にしながら自分の足をさらに速めようとしていた。

しかし霧が少しずつ島と「望まれた街」を切り離そうとしていた。


「結界か?」


闇の狼は進む方向に違和感を感じていた。そして進めば進むだけ自分の体から血が噴出す。

その結界に挑む様に足を進める。結界は割れたガラスの様に一歩足を踏みしめる度に

「闇の狼」の身体に破片を突き刺した。


「ぐう・・」


苦痛に顔をゆがませながらも足の速度は緩めない。

緩めれば「ヒロ」の痕跡を失ってしまう。それが分っている。


「くそう」


血だらけになりながらも「闇の狼」は先に進んだ。

大きな血溜りがいくつも出来上がっていた。苦痛に意識が揺らぐ。

しかし確信があった。もうじきこの結界は終わる。「そうすれば・・」


何枚かの鏡が見える。その鏡に自分の姿が見える。「闇の狼」は後ろを振り返る。

自分の姿は果てしなく前も後ろも鏡に映し出されていた。


「小ざかしい」


そう言って「闇の狼」は力一杯に鏡を頭で割る。

われ散った鏡の破片は容赦なく「闇の狼」に突き刺さった。


「ぐがぁ!」


悲鳴と苦痛の怨嗟の声が思わず口から漏れる。


「まだだ」


さらに頭で鏡を割っていく。痛みはその度に「闇の狼」を蝕んだ。

足元にはさらなる血溜りがいくつも出来上がっていく。


「闇の狼」が牙を立てて鏡に喰らいついた。鏡は何枚も割れていく。

鏡の破片ひとつひとつに「闇の狼」の姿が映りこむ。


「そこだ」


割れた破片を「闇の狼」が覗き込む、その一枚を噛み砕いた。

途端に視界が広がる。


「闇の狼」の目の前に老人が現れた。ベットに横たわり目を閉じている。

それは「先生」であった。


「先生お前が結界を張っていたことは百も承知だ」


老人は何も言わず眠っている様に見える。「闇の狼」に対して無防備だ。


「下手な小芝居はやめろ、先生」


「闇の狼」は大きく口を開けて、その牙で「先生」の頭を噛み砕こうとした。

しかし「先生」は動くことが無い。死んでいる様だ。


不適な笑いをひとつして「闇の狼」は「先生」に牙を立てた。


途端に炎が「闇の狼」を包み込んだ。

炎が全身を焦がし、苦しみのあまり七転八倒する。

その次の瞬間「闇の狼」は結界をガラスの様に破壊して現実世界に戻った。

炎は消えたが全身は黒く煤けている。激しい火傷の痛みが彼を襲った。


「闇の狼」は立ち上がり周辺を見渡した。

どうやら「望まれた街」側には出られた様子だ。

「闇の狼」は再び駆け出した。「ヒロ」の匂いを追って。




夕暮れの景色はいつ見ても素晴らしい。

門番のアロはその赤い目で街に沈む太陽を眺めていた。

この時間になると街に向う人々の数は極端に減っていく。変わりに街から出て行く

旅人たち。そうした平和な風景がアロの目に移っていた。

しかしアロの嗅覚は不振な匂いを感じ取っている。


「災いを持つものが来る」


アロは直感でそれを感じていた。

不振な匂いと災いを持つ者の予感がアロに警戒を促させる。


「門番のアロ」


不意にアロは後ろから呼ばれた。知らぬ間に後ろに回られたのだ。


「だれだ」


アロは不覚を取った自分に怒り、振り返った。


「闇の狼?」


アロは意外な顔で「闇の狼」の姿を確認した。黒く焼けただれ醜い姿になっている。


「ひさしぶりだな、アロ」


「闇の狼」は自分の姿を知らないかの様に気楽にアロに向って話しかけた。


「なぜお前がここにいる?」


その言葉の後に沈黙が流れる。

「闇の狼」は答えなかった。変わりにアロに向って不適な笑みを見せている。


「目的はなんだ」


アロは「闇の狼」に向って叫んだ。しかしアロにも実の所は察しがついていた。

「闇の狼」がここに来た本当の理由について。


「この街に入る、それをお前に伝える」


「闇の狼」はアロに向ってそれだけを言い。消えようとしていた。

アロはその気配に気づき巨大な手で「闇の狼」の首根っこを掴む。


「邪魔するな、アロ」


「闇の狼」はその俊敏なアロの動きに毒づき牙をむいた。


「私の名前の意味を忘れたか」


「忘れてはいない。下僕だろ」


その言葉を吐くと同時に「闇の狼」は渾身の力を込めて右の巨大な爪でアロを引き裂いた。

アロは巨人とは思えない素早いスピードでその爪を交わす。

すんでの所で爪を交わしたがアロの胸から腹にかけて五本の傷が付けられている。


「血迷ったか闇の狼」


アロは「闇の狼」と対峙した。この騒ぎに多くの群集が遠巻きに二人を見ている。


「ここを通すわけにはいかん」


アロが鬼の形相で「闇の狼」をにらみつける。


「押し通る」


「闇の狼」は不敵な笑みを見せながらアロを見ていた。


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