カエルのケロ助Ver.5.11
ここに珍妙な人間がいた。
名を芳崎奏。
中身カエルの人間である。
カエルの名はケロ助、非常にカエルとしてはポピュラーな名前である、という事にしておく。
「芳崎先輩、帰らないんですか?」
「ええ、すぐ行きます」
ケロ助は男に声をかけられ、空を見上げるのをやめた。
大きなオレンジの様なおいしそうな夕日。
食べられないので注意されたし。
学生たちが下校する時間である。
ケロ助もまた他の学生同様に学校を後にしようとしていた。
ケロ助が人間の女になってまだ時間も浅いのだが、すっかり馴染んでいた。
何せ元が両生類である。
水陸両用なのだ。
順応性は高い。
ケロ助と男が校門の所まで来ると、男はケロ助に対し、一礼する。
「それじゃあ、芳崎先輩。また明日」
「ええ、そうね。また明日」
背を向けた男が振り返るとケロ助は突っ立ったまま、まだその場にいる。
不思議そうに男はケロ助に近づくと、声をかけた。
「芳崎先輩、家に帰らないんですか?」
「帰る?一体何処に帰ると?」
ケロ助はふと考えた。
帰る場所とは一体どういったものだろうか?
土地に起因するのだろうか?
それとも人。
はたまた物であろうか?
俺にもケロケロ村という故郷がある。
だが、旅に出た俺にとって、そこはもはや帰る場所ではない。
「私に帰る場所なんてない」
「一体どうしたんですか?家で何かあったんですか?」
男を見つめるケロ助の瞳は潤んでいた。
カエルにとって水分は大事なファクターだ。
基本皮膚呼吸なので、その体は湿っていなければいけない。
きっとその名残で目がウルウルしているのだろう。
よく分からんが。
男とケロ助が無言のまま数刻見つめあい、男が口を開く。
「芳崎先輩がもし良ければ、僕の家に来ますか?」
「・・・いいのですか?」
ケロ助はさらに思考する。
俺は流浪の身。
帰る場所は無い。
だが、そもそも帰る場所というものは元から存在するものではなく作りだすものではないのか?
で、あるのならば、この旅もこれから帰る場所を作り出すための旅とも言えるのではなかろうか?
「ただ少し問題があって・・・・今両親が出払っていて、二人きりになっちゃうんですけど・・・」
「ええ、いいわ」
そんなこんなでカエルの繁殖期っていつだっけと調べる羽目になるのである。
まあ、何が起ころうとケロ助の旅は続くのだった。




