【実録】歌舞伎町のメンズパブで雇った「元右翼」スタッフの洒落にならない話
これは、俺がまだ若かりし頃、新宿・歌舞伎町の片隅で小さなメンズパブを経営していた時の話だ。
基本ワンオペで開始した店だったが、男女共に客が少しず付いてきたので、ある情報誌でスタッフを募集した。
二、三日すると店電に、男性から入店希望の連絡が入り、面接する事になった。
時間ギリギリに来た男の外観を全て説明すると、中肉中背で金髪ショート、深めに被ったキャップ、上の古着はメーカー不明の大きめのトレーナー、下は膝に穴の開いたダボダボの古着のヴィンテージジーンズを腰パン、靴はナイキのスニーカー、両眉毛の先端にリング型のピアス、両耳にも五個位ずつのピアス、特に耳たぶは一円玉程の穴が開いた埋め込み式の拡張ピアスを装着していた。
(うーんよくわからんがB-boy系とかいうやつなのかな?)
しかし、自分で言うのも何だが、とりあえずロゴが目立つハイブランド品を着るだけの自分なんかよりは、古着を生かした組み合わせセンスは抜群に感じられた。
「君が面接希望者?」
「そうっす」
(そうっすって、言葉づかーい。まあ、カブキで夜職だからこんなもんか、キャップ位とれってんだよ)
「履歴書は持ってきたかい?」
「うっす」
「どれどれふーん。二十歳になったばかりだね……高校中退迄しか書いてないけど、今迄何してたの?」
「……右翼っす」
「右翼って、あの右翼か?」
「多分、その右翼っす」
「ふーん、その前は?」
「暴走族っす」
(ふーん、そのパターンね。族に入っちゃうとヤクザや右翼に弱み握られてそのまま就職コースになりがちなんだよな)
「まあウチの店はカブキにある位だし、真面目にさえ働いてくれれば前職に関しては少ししか問題にしないよ(笑)」
「良かったっす、俺マジメっす」
(なんか突っ込めよ、てゆうか真面目なヤツが暴走族なんかに入るかよ)
「とりあえずウチは服装も緩くて自由だから、明日から出ておいで」
「広告に書いてあるとおり、最低時給からスタートだけど、ドリンクバックやボトルバックがあるから実力があれば稼げるよ」
飲み屋は、スタッフが客に気に入られたり等して、ドリンクをご馳走して貰ったり、ボトルを入れて貰うと固定給料の他に追加で歩合給料が貰えたりする。
「了解っす。明日からお願いします」
次の日から早速出勤したトモキは、自分で言うだけあって仕事に関しては驚くほど真面目だった。センスも良く、客あしらいもうまい。
入店してから一か月が過ぎようとしていた時だった。
普段はテンション高めの接客をしてくれていたのだが、ここのところなんだか元気がない。
顔も明らかにやつれてきていたのが見て取れる。
「おいトモキ、お前まさか…『クスリ』やってんじゃねえだろうな?」
※昔に相当やっていた事を聞いていた
裏に呼び出して問い詰めると、彼は小刻みに震えながら言葉を絞り出した。
「ちっ違うんすよ、最近家で毎日悪夢ばかりみるんすよ」
「どんな?」
「それが、起きたら汗びっしょりな割には、ほとんど覚えてなくて……」
「なんだよそれ、全然覚えてないんかい」
「そういえば内容迄は思い出せないけど、見た目はリングに出てきた貞子みたいな怖い女だったような……」
「それが本当だとすると、確かに怖いな」
「ですよね?」
「でも所詮夢なんだし、気にすると余計見ちゃうぜ?」
「もう1週間位ぶっ続けっすからね」
「俺も小さい時に連日悪夢の経験あるけど、そのうち見なくなるから大丈夫だって」
「そうだといいんすけど……」
「お前の寝室の入口に、盛り塩でも置いとけば?」
「まあオーナーが言うなら……とりあえずそれやってみますわ」
「ははは その位しか思いつかん。あっ!イザとなったら簡単なお経とか唱えれば効くんじゃねーか?」
「はあ……でも悪夢でうなされてる時に唱えれますかね? ちなみにどんなお経すか?」
「ナンミョウホウレンゲキョとかナムアミダブツとかよー、俺もよう解らんけど」
「何それ、全然適当じゃないすかー」
「いやいや、ドラキュラには十字架!悪霊にはお経!で間違いないって」
「はあ……とりあえず参考にしておきますわ」
そんなやりとりをした後、トモキは元気なく帰宅していった。
トモキの部屋は狭い四畳半で絨毯が敷いてあり、ロフト型ベッドで下にデスクや収納棚があるタイプだった。
夜に仕事をしている人は、とにかく寝れる時に寝るのが基本だ。
昼を超えてから寝ようとして、万一寝れなくなると、普通の人達と同じように出勤時間の夜に眠くなってしまうからだ。
ここから先は全て本人から聞いた話だ。
(はあ・・・睡眠不足が続いて眠いけど、またあの貞子もどき出てくんのかなー?すげー嫌だなー)
(そうだ!まず盛り塩だ)
キッチンにあった小皿と塩をベッド下のデスクに持ってきて、そのうちの二枚に塩を盛って三角に固めた。
梯子を登って、ベッドの頭の両端にそれを一つずつ置いた。
ベットの頭側には窓があった為、トモキなりに窓が怪しいと考えたのだ。
本能的に、悪霊に接近されないようにしたかったのだろう。
嫌な予感がしつつ寝床につく。
睡眠不足が続いてるせいで、すぐに寝落ちするトモキ。
すると…
ガチャーーン!!
(はっ!?)
びっくりして飛び起きるトモキ。
インテリアとして足元の壁に掛けてあったパブミラーが、留め具が外れてベット下に落ちていた。
よく見ると、割れた鏡は“内側から叩き割られたように”広がっていた。
(……貞子の仕業か??)
寝ぼけ眼で部屋を見渡すトモキ。
(……とりあえずいないな……良かった)
(イヤ、所詮夢なんだから現実にはいないのが当たり前か)
しかし睡眠不足だったトモキは、それ程気にする余裕もなく、またすぐに眠りについた。
どの位時が経っただろうか。
突然
ガッ!!
両足を誰かが掴んできたような感覚が走った。
(!?)
しかも全身が金縛りで動けない!
ここでようやく思い出したのだ。
自分が『毎日金縛りにあっていた』のだという事実を。
金縛りには二種類あるという。
その違いはただ一つ。
目を開けれるか、開けれないか。
今回のトモキは前者だった。
足元の向こうには、この世のものとは思えない恐ろしい顔をした上半身だけの怨霊が、長い髪を振り乱しながらトモキの両足首をつかみ、ベットの下へ引きずり落そうと恐ろしい力で引っ張っていく。
ズズッ
ズズズッ
身体全体が自分の足の方向へと、どんどん引きずれられていく。
「うっうわーーーー!!」
(そっそうだ!おっお経!)
「ナムアミダブツ! ナムアミダブツ!!」
『ゔ!』
「……ナンミョウホウレンゲキョ! ナンミョウホウレンゲーキョウ!!」
発音等は滅茶苦茶だが、とにかくでかい声で叫び続けた。
すると
『ゔぁぁーーーーー!!』
怨霊がこれまたこの世の物とは思えない、気持ち悪い声を発しながら消えていったのだ。
「はあ・はあ・・はあ」
(消えた? 効いた??)
恐る恐る部屋を見渡したが、どうやら見当たらない。
体中、汗でびっしょりだった。
デスク上にあった残りの皿と塩で、盛塩を足元に二か所追加し、計四ヶ所の魔法陣のような体制をとった。
そして疲労困憊のトモキは死んだように眠った。
ジリリリーーン!!
「うあーーーー!!」
目覚ましの音で飛び起きた。
まだ完全に恐怖が消し去っていなかった。
恐る恐る部屋を見渡すが誰もいない。
(魔法陣が効いたのか?)
(そうだ!落っことしたパブミラーを片付けなきゃ)
ロフトベッドの梯子を降りた。
(!?)
そこでトモキは恐ろしい光景を目にして、驚愕した。
なんと! 女が引きずり落そうとしていた側の「真下の絨毯」に、割れた鏡の、長く鋭い破片の数々が、まるで剣山のように突き立てられていたのだ!!
(マジかアイツ! 俺をここに落とそうとしてやがったのか!)
(とりあえず、すぐにオーナーのところに電話しなきゃ)
電話を受けとり、全容を聞いた俺はすぐに、知り合いのお寺の住職に電話でTから聞いた事全てを説明して、その日のうちにお祓いに行かせた。
ほどなくして住職から電話が入った。
「本人はお祓いをして、落ち着きを取り戻して帰りましたよ」
その言葉に一安心したのも束の間、住職の声がそこから一段低くなった。
「……ところでリョウさん。貴方から聞いた彼の自宅住所の事で、ちょっと言いにくいのですが……」
「どうしました?住職」
「ただの偶然だと思いますが、そこには以前私が相談受けていた女性が住んでいたんです」
「えっ!?そうなんですか?」
「そして、その方は悩みの果てに、私の説得にも関わらず、その部屋で自ら命を絶たれました」
「ええっ!?」
「……彼は、本当にそこに住んでいるのですか?」
背筋に冷たいものが走った。
正直、嫌な予感しかしなかった。
翌日からトモキは店に来なかった。
唯一の連絡手段の携帯も、お客様の都合アナウンスで止まっていた。
心配になり、数日後、彼が書いていた履歴書の住所を頼りに現地を訪ねてみたが、空き家になっていた。
あれから、トモキがどうなったのかは分からない……
何が本当で、何が偽りなのかも……
笑った時のあの明るい笑顔が、今でもふとした時に脳裏をよぎる……
最後までお読みいただきありがとうございます!
「面白かった!」と少しでも思っていただけましたら、ぜひページ下部の
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援をお願いいたします!
皆様の評価とブックマークが、何よりの執筆の励みになります




