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異世界ローカル路線バス  作者: 横浜あおば
第一期中期経営計画

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ウィザードエクスプレス35便 王城前(メー王国王都)〜ヴァンデー橋(ガタ公国首都)

2023年8月9日にカクヨムで公開したものです。

 お盆休み。このシーズンになると毎年、旅行や帰省の人たちで高速バスはいつも満席になる。

 今日も座席は予約で全て埋まっていて、キャンセルも出なかったため当日のチケットは販売されなかった。


 スーツケースやボストンバッグを持ったお客さんが列を成した先。荷物を預かってバスのトランクに一つ一つ入れているのは、この便を担当する運転手の遠町とおまちはやてだ。


 ウチは荷物を受け取りながら、乗客の女性と軽い雑談を交わしていた。


「お姉さんはガタ公国に何しに行かれるんです? ご旅行ですか?」

「あっ、目的? それはもちろん、スピカちゃんのライブに参加するためです!」

「スピカ? どっかで聞いたことある名前やなぁ……」


 お姉さんのスーツケースをトランクの奥に押し込みつつ、誰やったっけなぁと考えていると。彼女は車内に持ち込む手荷物のリュックに付けたストラップをウチに見せてきた。


「ほら、この子です。最近は結構人気出てきて、ライブのチケット取るのも一苦労なんですよ」


 トランクから出て、その写真入りのストラップに目を向ける。

 そこでようやく思い出した。


「ああそうや、天川あまかわスピカや! 聖橋ひじりばしの主力やった子ですよね?」


 有名アイドルグループの中で圧倒的な人気と実力を持ち、不動のセンターとして名を馳せたかつての天才アイドル。志半ばで亡くなってしまったのだが、その後スピカもこの異世界に転生していたことを同僚の沢山さわやまはこびから聞いていた。


 しかしお姉さんは、キョトンとした顔で首を傾けている。

 ウチ、何かおかしなこと言ったやろか?

 こちらも首を傾げると、スピカファンのお姉さんが口を開いた。


「ひじりばしって何ですか? スピカちゃんはデビューからずっとソロアイドルですよ?」


 せや! 異世界の人が日本にいた頃のスピカを知るはずが無いやん!

 ここでようやくミスに気が付いたウチは、笑顔で必死に誤魔化した。


「あれ、おかしいな? ウチ何言ってるんやろな? と、とにかく! 天川スピカのライブ、楽しんできてや!」

「は、はいっ!」


 お姉さんのチケットをチェックして、ウチは次のお客さんを呼ぶ。


「次の方どうぞ〜。お荷物お預かりします」


 続いてやって来たのは、男女のペアだ。カップルに見えなくもないが、恋人同士と考えるとちょっと違和感があるような……。


「俺の荷物はそこそこ大きいんだが、載せられるか?」


 まずは勇者風の男性が手にしたボストンバッグを掲げながらそう問うてきたので、ウチは目測で判断して頷く。


「ああ、それくらいやったら大丈夫ですよ」


 総重量30キログラム、3辺の長さが2メートル以上だとお断りさせて頂くが、お兄さんの鞄はその基準に収まっていそうだ。


 ウチはお兄さんからボストンバッグを預かろうと手を伸ばす。

 するとその時、彼の連れであろう修道女風の女性がぽつりと忠告の言葉を口にした。


「その鞄、めちゃくちゃ重いですよ?」

「えっ?」


 直後、ウチの両手にとんでもない負荷がかかり、腕に激痛が走った。

 あまりの重さにバッグを地面に下ろしてしまう。


 彼女さん、分かってたんならもうちょい早く言ってくれや!


「痛たたたっ……」


 危うく腰までやるところだったわ。


 苦悶の表情を浮かべるウチの姿を見て、彼女さんがお兄さんに視線を向ける。


「あんた、バカみたいに力強いんだから、気を付けなさいよ?」

「いやいや、バカって何だよ?」

「バカにバカって言って何が悪いの? このスマホゴリラ」

「あ? 今ゴリラつったか!?」


 待て待て。ウチをほったらかして喧嘩始めないでくれや。

 心配とかしてくれないんか。


 結局、お兄さんのボストンバッグは重量オーバーだった。

 しかし、お兄さんがポケットからスマホを取り出して操作すると、バッグが光に包まれて跡形もなく消えた。彼女さん曰く、お兄さんは異世界から転生してきた勇者で、持ち物を謎空間に収納するストレージが使えるらしい。

 なら最初からそうしろや。


「はい。そんじゃデート楽しんできてな!」


 スマホに表示されたチケットを確認して、ウチは二人が乗り込んでいくのを見送った。


「次の方どうぞ〜」



 それから三日後。ウチが担当したトー王国に戻る便に乗ったのは修道女風の彼女さん一人だけで、スマホ持ちの勇者様の予約は何故かキャンセルされていた。

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