異121系統 トー交易路〜シャンジーク関所〜クィチ城址〜タチュイ川
2025年10月15日にカクヨムで公開したものです。
クィチ城址の停留所に着いた時、はこびの運転するバスの異変に気付き、急いで助けに向かったオクトーバー。
間一髪のところではこびを守ることが出来て、本当に良かった。
「この不届き者は私がどうにかするけん、はこびさんは仕事に戻ってほしいたい」
「うん、分かった。オクトーバーさんも無理はしないでね」
こうして事件は一件落着。
あとはこの執行人をフェブラリーに引き渡せば……。
と、今後の流れを考えていたら。
不意に背後に気配を感じた。
「何者たい!?」
「動くんじゃねぇですよ」
オクトーバーが振り向こうとすると、背中に固い物が当てられる感覚。
間違いなく拳銃の銃口だ。
オクトーバーは現在、クシーディの背中に拳銃を突きつけているが、オクトーバーもまた全く同じことをされている。
そして、オクトーバーを脅す人物の声には聞き覚えがあった。
だが、オクトーバーがその人物の名前を口にするよりも先に、しっかりとその姿を見ているはこびが彼女の名前を呼ぶ。
「えっ、マルメラーダさん!? どうしてここに……!」
驚愕した様子のはこびの声に、マルメラーダは温度の無い冷酷な態度で応じる。
「非番の日にどこで何をしていようが、マルメラーダの勝手ですよね? 異世界人のお前は口を挟むんじゃねぇです」
「でも、だって! 今、マルメラーダさんはオクトーバーさんを殺そうと……」
「それはこいつが先輩を殺そうとしたからであって、マルメラーダは先輩を守ろうとしているだけです。正当防衛ですよ」
むしろ己の方が正義であると、悪怯れることなく主張するマルメラーダ。
こうなったそもそもの発端が、守ろうとしている先輩クシーディが無辜の人間を殺そうとしていたからだというのに。
そんな会話が行われている間、オクトーバーは背後のマルメラーダに気を取られていたせいで、前方の注意を疎かにしてしまっていた。
「でかしたわ、マルメラーダ」
「しまっ……!」
完全に油断した。
気が付いた時には、一瞬で身を反転させたクシーディに握っていた拳銃を奪われていた。
クシーディが再び銃口をはこびに向ける。
このままでは私の銃が、大好きなはこびさんを殺してしまう。
「だ、だめっ……! それだけは、絶対に……!」
もう私は無能なんかじゃない、役立たずじゃない。そう、思っていたのに。
結局、私は何も変わっていなかった。
止めなければいけない。止めなければ後悔すると分かっているのに。
弱気な過去の自分が出てきてしまって、行動の邪魔をする。
狭い路線バスの中で立ち尽くしてしまうオクトーバー。
「お前は一旦どきやがれです」
「うひゃぁっ!」
するといきなりマルメラーダに腕で押し退けられ、オクトーバーは二人掛けの椅子の上に尻餅をついてしまった。
変な角度のまま、足を下ろして座る。
「なっ、何するたい!」
突然何をするのかと怒りをぶつけるも、マルメラーダはこちらに目もくれない。
マルメラーダは足早にクシーディの背後まで移動すると、そこでなぜかクシーディを羽交い締めにした。
まさか、仲間割れ?
「あなた、何をしているの? 今は戯れ合っている場合じゃ」
「もしここで先輩がこいつを撃ってしまったら、きっと正気に戻った時に先輩がショックを受けると思うので。だから先輩のためにも、ここは絶対に撃たせません」
「……ねぇマルメラーダ、大好きな私のことを裏切るつもり?」
「違います。信じているんです。信じているからこそ、こうしているんです」
どういうことだろうか?
執行人同士の二人の話の内容が全く見えてこない。
「これ以上おかしな真似をするようなら、自慢の後輩であっても容赦はしないわよ?」
「ええ構いませんよぉ。今の状態の先輩になら、マルメラーダが余裕で勝っちゃうと思うのでぇ。ってことで、表出ろです」
マルメラーダが挑発すると、クシーディはそれに乗った。
二人はバスを降りて、戦いに向いた広い場所へと向かっていく。
「とりあえず助かって良かったけど、これって結局何だったの……?」
「う〜ん、私にもいっちょん分からん」
執行人が異世界人を狩りに来た。
そこまでは理解できたが、その先の展開についてはオクトーバーにも意味不明だ。
車内に取り残されたはこびとオクトーバーは、目を見合わせて首を傾げた。




