メーハン昼特急116便 ウミエダ(ハン帝国帝都)〜王城前(メー王国首都)
2025年8月27日にカクヨムで公開したものです。
ハン帝国を出たバスはヘイジオ皇国、ヴィワー湖水国を抜け、現在はムイノ議府自治区の領内を走行中。
そして、あと数キロでメー王国との国境だ。
これなら時間通りに終点に到着出来そうやな。
ハンドルを握るはやてが、そう安心したのも束の間。
「うおっと」
前を走る馬車が急に速度を落としたので、こちらも慌ててブレーキを踏む。
同時にハザードランプを点滅させて、後続に急減速することを伝える。
「うわぁ〜、何やこの渋滞は……」
前を見ると、列の先頭が見えないほど馬車が連なっている。
これは国境まで続いているとみて良さそうやな。
それからしばらく前の馬車が動くのを待っていたのだが。
「いや、ホンマに動かへんな」
いつまで経っても一向に進む気配が無い。
せめてノロノロ運転でも前に進んでいればストレスも少ないんやけどなぁ。
「あぁ、もう」
段々とイライラしてきて、乗客に聞こえないように小さくため息をこぼす。
その時、運転席の窓をコンコンとノックされた。
「はい?」
窓を開けると、立っていたのはムイノ議府の治安維持部隊の男性だった。
男性は敬礼をしてから、物腰柔らかく言う。
「もしかして、お嬢さんもメー王国に行かれるところでした?」
「はい、せやけど。何かあったんです?」
「ええ。実はですね、メー王国が一方的に国境を封鎖してしまいまして。今ちょっと通れなくなってるんですよ」
「えぇっ!? どないしてそんなことに?」
「すみません。我々にも情報が降りてきてなくてですね。本当に突然のことで、もう何が何だか……」
「うわぁ、マジですか」
「もし交易路から出る場合は、一度Uターンして頂くとオウガ岐の出口がありますのでね、そちらをご利用ください。ご迷惑をおかけして、本当にすみません」
治安維持部隊の男性は自分が悪いわけでもないのに深々と頭を下げると、急ぎ足で後続の馬車にも状況を伝えに行った。
「えぇ、どういうこと?」
「おばあちゃん大丈夫かな?」
「娘が心配だ。早く帰りたい」
今の会話を聞いて、乗客もざわついている。
メー王国で一体何が起きているのだろうか。
状況を知りたくて、はやては業務用携帯で営業所に電話をかける。
しかし。
『現在、おかけになった番号は電波の届かない場所にいるか、電源が入っていないためかかりません』
「あかん。繋がらへん」
ますます不安だ。
どうにかして、連絡を取る手段は無いものか。
そこではやては、とある存在を思い出す。
「あっ、せや!」
着信履歴を遡り、祈る思いでリダイヤル。
「あれ? 遠町さんだ」
「おっ、出た。あんた、道引繋やんな? 人間なんかAIなんか知らんけど、ちょっと営業所と繋いでくれへん? 状況が知りたいんや」
はやてが電話をかけた相手は、以前ロボットの襲撃から助けてくれた謎の存在の道引繋。
この番号で再び話せるのかは賭けだったが、繋がって良かった。
早速頼み事を伝えると、繋の申し訳なさそうな声が返ってきた。
「あ〜、それなんですけど。私は交換手じゃないのでそういうのは出来なくてですね」
「なんや使えへんな」
通信関連なら何でも出来ると思ったのに、とんだ期待外れだ。
時間を無駄にはしたくないので即座に切ろうとしたのだが、繋が慌てた様子で引き止めてきた。
「わぁ待ってください! 電話は無理ですけど、衛星画像なら送れますよ?」
衛星画像って、空から見た写真かいな。
でもまあ一応、それでメー王国が今どうなってるかは分かるか。
「ほんならそれ送っといてくれ。無いよりはマシや」
「了解です! この携帯のアドレスでいいですか?」
「おう、ええでええで。じゃ、さいなら」
はやては通話終了を押し、電話を切る。
電話アプリを閉じると、すぐに一通のメールが届いた。
開いてみると、そこに添付されていたのは。
「な、何やこれ……」
メー王国の悲惨な光景が鮮明に写された衛星画像だった。




