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異世界ローカル路線バス  作者: 横浜あおば
第二期中期経営計画

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回送(回想) 無言の魔女が向かった先は

2025年8月14日にカクヨムで公開したものです。

 公園の奥にひっそりと佇む六つの石碑の前で、静かに手を合わせる一人の女性。

 無言の魔女リティーだ。


 ここは六勇者墓所。

 千年前に魔王を倒した勇者たちが眠る墓地である。


「…………」


 リティーは目を閉じて、墓標に記された人物に心の中で語りかける。


 ツナグさん、お久しぶりです。リティーです。

 魔王討伐の際は、大変お世話になりました。

 って、私みたいなへっぽこ魔導士なんかのこと、勇者であるツナグさんが覚えている訳ありませんよね……。

 私、一応あの時、ツナグさんと一緒に王都で魔物の群れを倒したんですけど。

 あっ! いや別に、私すごいでしょってドヤってるんじゃないですよ?

 何かエピソードをお話しした方が、私のことを思い出して頂けるかなと思っただけで。

 全然、自慢とかじゃなくて! はい……。


 どうしよう、自分でも何喋ってるのか分からなくなってきた。

 これ絶対、天国でツナグさんが馬鹿にして笑ってるよ。


「うぅ……」


 心の中ですら上手く話せないなんて。


 自分のあまりのコミュ障さに悲しくなって、リティーが目に涙を浮かべた、その時。

 不意に脳内に声が響いた。


「あははっ。リティーさんってホント昔からそのまんまですよね!」


 えっ? ついに私、幻聴聞こえるようになっちゃった?

 今、どこかからツナグさんの声がしたような……?


「幻聴じゃないですよ! 本物の道引みちびきつなぐです!」

「え、ええっ!?」


 脳内に直接……!

 で、でも一体どこから? っていうかそもそも、死んだんじゃなかったの……?


「こ、ここ。ツナグさんの、お墓……」


 ということは。ま、まさか。ゆ、幽霊!?

 じゃあ私、ツナグさんに取り憑かれて。


「あ、あばばばば」

「あぁちょっと落ち着いてください! 私、幽霊じゃないです! きちんと説明しますから!」


 数分後。


「なるほど、そういうことだったんですね」

「ですです。なので、そこに埋まっているのは物理的な私だけで、魂はこうして宇宙ステーションでずっと生きてるんです」


 良かった、心霊現象じゃなくて……。


「で、今日はどうしたんですか? あの引きこもりのリティーさんが、わざわざ私のお墓参りだなんて」

「あ、あの。えっと。この話、ミカミさんには絶対に秘密にしておいてほしいんですけど」

「分かりました、大丈夫ですよ。私も誰にも言いませんし、このやり取りも量子暗号通信なので誰に聞かれることもありません」

「私、実はこの前、話しちゃったんです。最終処分場のこと」

「最終処分場って、あの原発の核燃料のやつですか?」


 そう。それ。

 こくこくと二度頷く。


 すると、繋が困ったような苦笑いを浮かべる気配。


「あ〜。それはもう手遅れですね」

「て、手遅れ……?」

「リティーさんがバラしたこと、佐藤さとうさんはとっくに気付いてますよ?」

「えっ、ええ〜っ!?」


 どうしよう! それじゃあ私、処刑される?

 核廃棄物と一緒に、地下深くに埋められて処分される?


 イヤだ、イヤだイヤだ。死にたくない。殺されたくない。

 痛いの怖い! 苦しいの嫌い!


「脅すつもりじゃないですけど。実際、リティーさんは早くこの国を出た方がいいと思いますよ。本当に処刑されかねないんで」


 嘘でしょ……!?


「そ、それはどういう……?」

「これ、かなりセンシティブな情報なので、信頼できるリティーさんだから教えるんですけど。もうすぐ、この国でクーデターが起きます。表向きはキヨス王子が主導しているように見えるんですが、真の首謀者は佐藤さんです。混乱に乗じて修道女を利用して邪魔者を一掃するつもりらしいので、今回の件によってリティーさんも対象に含まれてしまったかと」


 さ、最悪だ。

 あの情報屋とかいう人、絶対に許さない。


「じゃあ私は、いつまでに逃げたらいいですか?」

「う〜ん、細かい時期までは語部かたりべさんも言ってなかったので何とも。ただ、早ければ早いほどいいとは思いますよ。いつクーデターが起きるか分かりませんし、毎日怯えながら過ごすのもリティーさんには厳しいでしょう?」

「た、確かに、そうですね」


 私は臆病だから、恐怖を感じながら毎日を過ごすなんて無理だ。

 クーデターの正確な日時が分からないのなら、一刻も早く逃げ出すべきだろう。


「ありがとうございます、ツナグさん」

「はい。また何か困ったことがあればいつでも頼ってください。生前につながりのあったリティーさんなら、どこにいてもプラチナバンドで念話魔法が届きますので」


 へぇ、そうなんだ。心強いなぁ。

 って、あれ? ということは、わざわざお墓に来なくてもお家から話せた?


「あははっ、気付いちゃいました? まあ、そういうことになりますね」


 ガーン!

 頑張ってお外出たのに〜!


 リティーはショックで、しばらく動くことが出来なかった。

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