異112系統 ユオーコ台〜公務員住宅〜ズズコカ通り〜ノヴァ中央公園
2025年7月23日にカクヨムで公開したものです。
「ご乗車ありがとうございました。終点のノヴァ中央公園っす」
終点に到着し乗客が降りるのを待った後、トランセは運転席を立った。
車内点検をするためだ。
トランセが運転手になりたての頃、終点到着時の車内点検は絶対に怠ってはいけないと、はこび師匠は何度も念を押すように言っていた。
もしも車内点検をせずにバスを離れ、中にお客さんが置き去りになっていたとしたら。
想像するだけで恐ろしい。
「よしっ。全員降りてんな」
車内に誰も居ないことを確認し終えて、運転席に戻ろうと踵を返す。
そこで、座席の下に何かが落ちているのを見つける。
「なんだ、新聞か。読み終わったからって捨ててくなっつーの」
溜め息を吐きつつ拾い上げる。
今日の朝刊だ。
一面は先日の国民議会選挙の結果にまつわる記事。
人はそこに文字があるとつい読みたくなってしまうもの。
発車時刻まではまだ少し時間があるので、ざっと流し読みするくらいなら許されるだろう。
「与党が勝ってマジ良かった。キヨスの党、不正だらけで無茶苦茶じゃねーか」
今回の選挙戦で野党第一党に躍り出たキヨスが立ち上げた新政党は、開票直後こそ盛り上がったものの、SNSへの陰謀論の流布や数々の不正行為の疑いが報じられるにつれて急速に人気を失っていた。
熱狂的な支持者だけはキヨスを擁護しているようだが、彼らの主張にはかなりの無理がある。キヨスの裏での行いは、到底庇い切れるレベルのものではなかった。
「なんかインターネットのせいで、最近の世の中はおかしくなっちゃってるっすね」
技術が進歩するのも、良いことばかりではない。
「って、こんなことしてる場合じゃねぇ」
新聞を読んでいる間に、発車時刻五分前になっていた。
トランセは急いで運転席に戻ると、お客さんの待つ停留所へとバスを動かした。




