異111系統 ウォーティエ町〜シュイテウ宮〜キョースミサー川〜クィン市庁
2025年7月2日にカクヨムで公開したものです。
今日から路線バスの全運行車両の前面下部(ヘッドライトの間)には、とある幕が掲げられている。
【国民議会選挙 投票日7月20日】
選挙期間中には恒例となっている、投票日を知らせる幕である。
今回の選挙の最大の注目点は、国王与党が過半数を維持出来るかどうか。
というのも、現女王の天川スピカと官房長官のセトが、ここ最近SNSやインターネット上で大バッシングを受けているのだ。
発端はどこぞのネットメディアが発信した記事。
私も軽く読んでみたが、内容はほとんどが憶測や推論で、中には完全な虚偽情報も含まれていた。
にもかかわらず、それを信じてしまう人間は相当数いるようで。
「ねぇあのショート動画見た? トンネル工事現場の事故、あれ実はセトが仕組んだものらしいよ。セトはあそこにロボットが埋まってるの知ってたのに、あえて黙ってて見殺しにしたんだって」
「え〜マジ? ヤバっ。それじゃあ作業員の人たちはセトが殺したようなもんじゃん」
こうして今も、車内ではお客さんがその内容について会話をしている。
どの路線でも必ずと言っていいほど誰かしらはこの話題を口にするので、国民に広く浸透してしまっているのは確かだろう。
そして、その陰謀論を利用して猛烈な勢いで支持を広げているのが、キヨスが立ち上げた新しい政党。
スピカとセトを執拗に攻撃し、現在の政治に不満を持つ人々を上手く取り込んでいた。
しかし、彼の掲げる政策や主張は極端なものばかりで、それを嫌う者も多く。
その結果が。
「キヨスはメー王国を再び偉大にしてくれる救世主だ! キヨスの党に投票しろ!」
「うるせぇ、黙ってろキヨス信者! あんな奴に国を任せたら一瞬で崩壊するに決まってる」
支持者と反対派の対立が深まり、世論は真っ二つに。
国民の分断が進んでしまった。
「お客様、他のお客様のご迷惑となりますので車内ではお静かに」
こうやって注意をするのも何回目だろうか。
溜め息をこぼしつつ、私は車内放送の操作ボックスのボタンを押す。
『次はスミョー市。ウーラック町線はお乗り換えです』
SNSで歪に曲がった選挙戦。
さて、どんな結末になることやら。




