異109系統 中メグ廊〜カシューミ外堰〜ラキファ原〜クィタ聖樹
2025年6月18日にカクヨムで公開したものです。
発車時刻まではまだ少し時間があるので、私は運転席に座って休憩をしていた。
すると、前扉の外で手を振る人物の姿が見えた。
乗り場が分からなかったり、目的地までの行き方を聞きたかったりで、運転手に声をかけてくるお客さんは結構いる。
きっと今回もそんな感じだろうと思って前扉を開ける。
「どうされました? って、あれ?」
「どうもっス」
だが、そこにいたのは困っていたお客さんではなく。
以前に私の密着取材をした、情報屋のスティールだった。
「お久しぶりですスティールさん。今日もお仕事ですか?」
「そうなんスよ。今は暴走した謎ロボットについて調べてるんスけど、これがなかなか上手くいかなくて。本当参っちゃうっス……」
どうやらスティールは、小松さんやはやても巻き込まれたあの事故の真相に迫るため、今も取材を続けているらしい。
どうにか助けになってあげたい気持ちもあるけれど、路線バスの運転手である私がしてあげられることなんて……。
と考えてから、ふと先日の乗客の会話を思い出す。
「あっ。そういえばこの前、お客さんがあのロボットは騎士団の兵器だって言ってましたよ? まあ、噂話レベルって感じの話し方でしたけど」
一応教えてあげると、スティールはなぜか渋い顔をした。
心底不快といった様子で、大きく溜め息を吐く。
「それ、どこぞの自称ジャーナリストが流してる陰謀論っスね。報道記事に憶測や私見を書くなっていうのは常識なのに、新興メディアはそういうのお構いなしなんスよ。アイツらはきっと、過激なタイトルのこたつ記事でPVさえ稼げればいいって思ってるんス」
スマホが急速に普及したことで、この世界にもインターネットの弊害が……。
「って、愚痴ってすまなかったっス。はこびさんに言ってもしょうがない話だったっスね」
「いえ。スティールさんもたまにはストレス発散しないと。情報屋さんのお仕事ってなんか大変そうですし」
気にしないでくださいと微笑みかけると、スティールは申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。
と、そんな話をしていたら、いつの間にか発車時刻五分前になっていた。
「スティールさん、このバス乗られます? クィタ聖樹方面ですけど」
「あっ、乗るっス。現場のとこ通るっスよね?」
「はい。カシューミ外堰で降りたら一番近いかと」
「それじゃ、お願いするっス」
スティールは運賃を支払うと、以前の密着取材の時と同じ運転席から見て左斜め後ろの、タイヤの上の一人掛けの席に座った。
『ピンポンパーン。大変お待たせ致しました。このバスは異109系統、ラキファ原経由クィタ聖樹行きです。発車までしばらくお待ち下さい』
その後スティールは目的地でバスを降りるまで、走行中ずっと私の一挙手一投足をまじまじと観察していた。
今回は私に密着してるわけじゃないのに。
見られてるとすごくやりにくい……。




