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異世界ローカル路線バス  作者: 横浜あおば
第二期中期経営計画

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インターバル コーヒーと記憶は苦い

2025年4月30日にカクヨムで公開したものです。

 とある日、王都の喫茶店にて。


 人見ひとみこころは、この世界に来てからずっと疑問に感じていたことがある。


「どうしてここは、欧州風の世界なのに道路は左側通行なのです?」


 それに答えたのは、不機嫌そうにテーブルに肘をついている後輩運転手にしてザカリ正教執行人見習いであるマルメラーダだ。


「千年前に佐藤さとう美神みかみがこの大陸を支配した時に、全部を日本と同じに変えやがったそうですよ。交通ルールだけじゃなくて、文化や言語も」

「そうか、なのです。だから私の言葉が、この世界の人にも通じるのです?」

「ですです。逆に今までマルメラーダたちが日本語を喋っているのを不思議に思わなかったんですかぁ?」


 マルメラーダは、こころがやっとそこに気付いたのかと馬鹿にするように鼻で笑うと、紙コップを手に取ってコーヒーを一口。

 しかし直後、顔を歪めてゴホゴホと咳をした。


「苦っっ!」


 どうやらブラックコーヒーが苦すぎた様子。


「砂糖、入れるです?」


 こころがテーブルの隅に置いてあったシュガースティックを差し出すと、マルメラーダはこちらをぎろりと睨んだ。


「あぁん、佐藤ぉ?」

「佐藤じゃなくて、砂糖なのです……」


 マルメラーダは佐藤美神を敵視するあまり、砂糖と聞くだけで怒りが湧いてしまう状態らしい。


 まあマルメラーダにとってみれば、美神は魔王を倒した勇者でも大陸を支配する神でもなく、大好きなクシーディを洗脳した極悪非道の大罪人なわけで。

 しかもザカリ正教において異世界人は禁忌だと教わってきたのに、その教祖こそが異世界人の美神だったのだから復讐心に駆られるのも当然と言える。


 しばらくして落ち着きを取り戻したマルメラーダが、差し出したシュガースティックを拒みながら言った。


「お前の気遣いには感謝しますが、結構です。マルメラーダはこのまま飲みます」

「どうして、なのです?」


 そんなに苦いのなら絶対に砂糖を入れた方がいいと思うけれど。

 首を傾げたこころに、マルメラーダは再び顔を歪めつつコーヒーを啜ってから答える。


「だって、先輩は無糖のブラックが好きなので……」


 なるほど。こころは得心した。


 マルメラーダはザカリ正教の執行人の先輩であるクシーディに恋愛感情を抱いている。

 つまり、好きな人がいつも飲んでいる物を飲みたかったということ。


「何ですか、人見こころ。言いたいことがあるなら黙ってないで言いやがれです」

「別に、何でもないのです」


 こころが首を横に振ると、マルメラーダは残りのコーヒーを一気に飲み干して椅子から立ち上がった。


「先輩の洗脳を解く方法は、現状では佐藤美神を殺すしかありません。なので私はこれからそのための行動をします。その際ついでにお前らのうちの一人を転移陣まで連れて行ってやっても構いません。人見こころ、お前は日本に帰りたいですか?」

「……日本に帰れる、のです?」

「えぇ、帰る手段は存在しますよぉ。向こうで死んでいなければ、という条件付きではありますがね」


 私は日本に帰りたいのだろうか?

 あんな世界に、戻りたいのだろうか?


 分からない。自分がどうしたいのか、考えられないのです……。


「…………」

「まあ、今から殺りに行くって話ではありませんし、準備もあるので実行はまだまだ先になるでしょう。ゆっくり考えて、納得のいく答えを出すといいです。お前が後悔しないように」

「はい、なのです」


 マルメラーダが喫茶店を後にする。


 一人残されたこころは、複雑な表情でまだ口をつけていないオレンジジュースをじっと静かに見つめていた。

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