異98系統 王城前〜ウィリアニス中央市場〜王都西門〜ニサーラ井堰
2025年2月19日にカクヨムで公開したものです。
『次は王都西門。走行中、止むを得ず急停車する場合があります。お立ちのお客様は、吊り革、手すりにお掴まり下さい。車内事故防止にご協力をお願い致します』
王都の街路は人通りも多く、特に慎重に運転をしている。
それでも全ての危険を完璧に予測するのは難しい。
もうすぐで次の停留所に到着する。
降車ボタンは押されていない。通過で良いのだろうか。
と、一瞬だけ別のことに気を取られていたら、目の前に男性が飛び出してきた。
「わっ!」
私が慌ててブレーキを踏むと、バスは急停車。
立っていたお客さんはよろめいたが、全員が吊り革に掴まっていたため転倒は免れた。
どうにかギリギリ、轢かなくてよかったと前を見る。
しかし。
「あれ……?」
なぜかそこには誰もいなかった。
確かにさっき、建物の隙間から男の人が飛び出してきたと思ったんだけど……。
気のせいだとは思えないのだが、事実としてそこには誰もいない。
まあ、何も無かったのだから良しとしよう。
「急ブレーキ、大変失礼いたしました」
謝罪のアナウンスをしつつ、私は再びバスを発進させた。
そして、次の停留所に到着。
待っている人がいたので前扉を開けると。
「えっ!?」
なんと乗り込んできたのは、さっき飛び出してきたはずの男性だった。
男性はSuicaのカードをかざしながら、驚いて固まる私に言う。
「運転手さん。俺、何か間違ってます?」
「い、いえ。精算は出来てます……」
「んじゃ、早く出発してくれねぇか? ちょっと急いでるんだよ」
「あっ、すみません」
『発車致します。お掴まり下さい』
前扉を閉めてバスを発進させると、窓の外を見ていた男性の独り言が聞こえてきた。
「ふぅ、やっとあいつらから逃げられたぜ。結局、このバスに轢かれて死んだのが一番つらかったな。ありゃ二度目のループだっけか」
ん? やっぱり私、お客さんのこと轢いたんですか……?
終点に到着した後、一応車体の点検を行ったが、人を轢いた痕跡はどこにも無かった。
う〜ん、あれは本当に何だったんでしょうか。謎だ。




