回送(回想) この世界はあたしの思い通り
2024年11月20日にカクヨムで公開したものです。
修道院の礼拝堂。
ムーンサルトによる襲撃事件の時に現場にいた修道女が、怪我人を除いて全員集められた。
明るく照らされた壇上に、一人の少女が立つ。
可愛らしいセーラー服には似合わない、凶悪で強大な魔力を放つ彼女の名は佐藤美神。
誰も姿を見たことがなかったザカリ正教の教祖にして、ザカリ正教が崇める神である。
「ほら、神様だよ? 神様を初めてちゃんと目にした今の気持ちは? 幸せ? 感動した?」
一方的にありがたみを押し付ける美神に、修道女たちは黙り込んだ。
ある者はその振る舞いに嫌悪感を抱き、またある者は目の前の少女が神であることを信じようとしなかった。
「あれ? 思ってた反応と違うなぁ。敬虔なる信者なら、泣いて喜ぶところなんだけど……」
無感情の虚ろな瞳で全員を見回した美神は、おかしいなと首を傾げた。
それに対して、一人の修道女が声を上げた。
「お前のような異世界人が、神であるはずがないだろう! 我々は異世界人は禁忌であるとの教えのもと、数多の異世界人を処分してきたのだ! お前が神だというのなら、この矛盾をどう説明する!」
神に抗う勇気ある発言に、「そうよそうよ!」「騙されないんだから!」と続々と賛同や共感する者が現れる。
「はぁ、うるさいなぁ」
面倒くさい。
美神は大きく溜め息を吐いた。
「みんなはあたしの操り人形なんだから、自我を持たないでくれる?」
「何だその言い方は!」
「私たちはあなたの道具じゃない!」
美神の横暴な態度に、修道女たちは当然反発する。
だが、美神はそれが気に食わない。
強制的に黙らせてやろう。
「この世界は神の思い通り」
美神が口にしたのは、聖書の本扉(1ページ目)に書いてある一文。
無詠唱で魔法を発動するための魔導書でもある聖書の中で、唯一魔法行使に関係の無い文章。であると、今の今までザカリ正教の修道女が信じて疑っていなかったもの。
刹那、この場にいる修道女全員の身に異変が起こる。
一斉に無表情になり、機械のように直立した。
ただ真っ直ぐに、崇拝対象たる美神の目を見つめる。
この場にいる修道女全員が、それぞれが持っていた聖書を介して美神の魔法にかかってしまったのだ。
「よし、みんな良い子だ」
その姿を見て、美神は満足そうにうんうんと頷いた。




