インターバル 先輩のお見舞い
2024年11月13日にカクヨムで公開したものです。
月夜野かけるによる修道院襲撃事件から三日が経過した。
病院のベッドで眠るクシーディは、いまだに意識が戻らない状態だった。
「先輩、早く起きてくださいよぉ。このままマルメラーダを残して死ぬなんて、許さないんですからねぇ……」
クシーディの手を握りながら、マルメラーダが呟く。
しかし、今にも泣き出しそうなマルメラーダの声も、クシーディには届かない。
マルメラーダがあの時そばにいれば、こんなことにはならなかった。
こんなことには、させなかったのに!
大好きな先輩を守れなかった悔しさに、マルメラーダは強く唇を噛んだ。
そして、無意識のうちにクシーディの手を握っていた拳にもつい力が入ってしまう。
意識の無いクシーディは痛がらないから、マルメラーダはそれに全く気が付かない。
クシーディの細く繊細な指を折ってしまいそうなほどの怪力。
流石に見兼ねて、ここまで後ろで静かに見守っていた人見こころが口を開く。
「あの、あんまり手をぎゅっとしすぎると、クシーディさんが可哀想なのです」
「はぁ、お前を何を言ってやがる……あっ!」
こころに指摘されて、ようやく自分の手に力が入りすぎていることに気付いた。
慌てて手を離すと、「ごめんなさい先輩。痛かったですよね?」と赤くなってしまったクシーディの指を優しくさする。
先輩の白くて美しい綺麗な指を、こんな真っ赤にしてしまうなんて。
「もう、マルメラーダのバカバカバカぁ! どうしてマルメラーダはいっつもこう……」
熱くなると周りが見えなくなってしまうのか。
と、そこでふと思い出す。
マルメラーダは振り向いて、こころに話しかけた。
「そういえば人見こころ。お前にも謝っておくことがありました」
「?」
きょとんと首を傾げたこころに、マルメラーダは続ける。
「いつだったか聖域で、お前言ってましたよね。ザカリの教祖は佐藤美神なんじゃねぇかって。あの推理、お見事正解でした。間違ってたのはマルメラーダの方でした。すみません……」
異世界人に頭を下げるなど屈辱以外の何者でもないが、もしもこころの推理を素直に受け止めていたら、もっと違った結果になっていたかもしれない。先輩がこんな目に遭わなくて済んだかもしれない。
だからここはしっかりと、自らの過ちを認めて心からの謝罪をする。
それから再びクシーディの方へ向き直ると、意を決した表情で言った。
「神なんていなかった。なら、ザカリを裏切っても神への叛逆にはなりません。マルメラーダは先輩さえいてくれたらそれでいいんです。なので」
そこで言葉を切ると、マルメラーダはおもむろに聖書を取り出し、次の瞬間。
「こんなありがたくもない教えなんて、シュレッダーで紙屑にしてやります!」
隠し持っていた短剣で、分厚い聖書を空中で粉々に切り刻んだ。
紙吹雪が病室に舞い散る。
そして、その一片がクシーディの顔に落ちたと同時。
「ん、んん……。マルメラーダ……? えっと、私……」
「っ! 先輩!」
突然、クシーディが目を覚ました。
「先輩、良かったぁ。良かったですぅ〜!」
先輩が死んじゃわなくて、本当に良かった。
また先輩の大好きな声が聞けたことが嬉しい。
マルメラーダは大粒の涙を流しながら、クシーディに抱き付く。
「もう、どうしたの? そんなに泣いちゃって。で、この床に散らばった大量の紙屑は何……?」
一方、意識が戻ったばかりのクシーディは、何が起きているのか、現在の状況をいまいち飲み込めていない様子だった。




