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第三話:天使来訪、フラグ襲来

こんこんこん。


静かな部屋に、軽やかなノックの音が響く。

まるで春風がドアを叩いたみたいに柔らかい音だ。

思考がふっと止まり、俺は反射的に顔を上げた。


「にいさまっ! お父様とお母様を、よんできましたわ!」


鈴の音みたいに澄んだ声が、廊下の向こうから弾む。

その声だけで、胸の奥のどこかが温かくなった気がした。


「リオ、ありがとう。入ってきていいよ。」


そう言うと、扉がゆっくりと開いた。

重厚な木扉が、リオの小さな体には少し大きすぎる。

でも、彼女はそれを両手で押しながら、えいっと頑張るように入ってくる。

光が差し込んで、リオのふわりとした白銀の髪が輝いた。


……可愛い。いや、天使か?いや、天使より尊いかもしれん。


ぱたぱたと短い足で俺のベッドまで駆け寄ると、勢いよくぴょんっと跳ねてベッドの上へ。

スカートの裾がふわりと舞って、リオは満面の笑みを浮かべた。


「にいさまっ!ちゃんとつれてきましたわ! ほめてくださらないの?」


ちょこんと首を傾げ、潤んだ瞳で見上げてくる。


はあああ……可愛い。語彙が全部蒸発する。

さっきまで転生後の状況を整理してたけど、それが一気に吹き飛んでしまった。

目の前の可愛い生命体の存在があれば、人生は完成している。


「ありがとう、リオ。リオは……本当に、いい子だね。」


そう言いながら、ベッドから落ちそうになっている彼女を膝に乗せる。

軽い。あたたかい。

そして、ほんのりと甘い香りが鼻先をかすめる。

なんだこれ、ミルクと花の匂いが混ざった甘い香り、天使もきっとこんな匂いをしているのだろう。


(あー……可愛い。許されるなら吸いたい。いや、いくらイケメンでも妹を吸うのはアウト。絵面が不審者すぎる。でも吸いたい。吸いたい……!)


必死に理性の手綱を握っていると、視線を感じた。

見ると、父上——エルフェリア公爵がなんとも言えない顔で俺を見ている。

不安そうな、でも少し呆れたような、そんな複雑な表情だ。


「父上?どうかなさいましたか?」


「……アレク。いつもリオを吸っているのに、今日は吸わないのかい? 珍しいね。体調がまだ悪いのかい?」


…………いや待て。

まるでアレクシスが常習的にリオを吸っているみたいな言い方じゃねぇか。

どのレベルで? リオ公認なの? いや、むしろリオは嫌がってないの?イケメンでもやっていいことと悪いことがあるくない?


そんな疑問が脳内を渦巻き、俺は思わず頭を抱える。

シスコンどころじゃない。もはや変態の領域。


(推しの兄が変態かもしれないこと知りたくなかった……!)


「にいさま……? やっぱり、げんきじゃないんですか……?」


リオが不安そうに潤んだ目で覗き込む。

やばい、泣かせたくない。リオが泣いたら俺は死ぬ。理性が飛ぶ。


「い、いえ。もし病だったら、リオにうつすのが嫌で……あまり近づかないほうがいいかと思いまして。体は元気です!」


笑顔を作る。だが多分、今の俺の顔はひきつっている。

父上が「そうかい?」と優しく笑いながら、大きな手で俺の頭を撫でた。

その手はあたたかくて、どこか懐かしい。人に頭を撫でられるのは随分と久しぶりだ。


「何かあったら、すぐ薬師を呼ぶんだよ。」


「わかりました。」


母上——公爵夫人もベッドのそばに腰を下ろし、俺の手をぎゅっと握る。

白く繊細な指。ああ、この人がこの天使を産んだんだ。

ありがとう、神に感謝しても足りない。


「意識が戻ってよかったわ。今はゆっくり休みなさいね。リオは離した方がいいかしら?」


「わかりました。休みます……。でも、リオとは離さないでください。むしろ、毎秒一緒にいたいです!」


勢い余って叫んでしまった。

両親は顔を見合わせ、くすくすと笑う。


「本当に仲良しねぇ。リオ、アレクが無理をしないように見張っててちょうだい。」


「わかりましたわ! にいさまのこと、ちゃんと見はります!」


小さな胸をふんすと張って宣言する。可愛い。世界一可愛い!

その気迫すらも尊くて、俺は思わず口元を押さえた。


「じゃあ、私たちは仕事に戻るよ。おやすみ、アレク。」


「夕食のときにまた顔を見に来ます。」


そう言って、父と母は静かに部屋を出ていった。

扉が閉まる音がして、部屋に二人だけになる。


「にいさまっ! ごほんを読んでさしあげますね? それともおえかきのほうがいいかしら?」


ぱあっと咲いたような笑顔。

こんな天使が人間界に居て、いいんだろうか?リオが微笑んだら世界平和すらも成し遂げられそうだ。


(俺、この子を絶対に守る。どんな運命でも、この手で守り抜く。そのためにも破滅フラグをへし折らなけ

れば…!)


「そうだな……今日は、お絵かきがいいかな。」


「わかりましたわ! どうぐを取ってまいりますね!」


ベッドから器用にぴょんと降りて、すとんっと綺麗に着地。

そのままぱたぱたと軽い足音を響かせて、扉の向こうへ走っていった。

残された部屋に、ほのかに甘い香りが残る。

俺は天井を見上げて深く息を吐いた。


「……やばい。俺、すでに妹依存症かもしれん。」


リオの来訪で完全に止まっていた思考が、ようやく再始動しだした。


「しかし……どうすっかな……。」


頭の中にはやるべきことが山積みだ。

木と雷、二つの属性を扱える人材の確保。

もしリオを連れて行くなら、リオの安全確保。

この年齢で他家と関係を築く難しさ。

さらに魔法が使えるかの確認も必要だ。


……うん。無理ゲー。子供一人で抱える内容じゃない。


「全部いっぺんに解決できる都合のいい方法なんてあるわけ――いや、あるじゃん!? なんで今まで忘れてたんだ俺!」


思わず立ち上がる。

頭の中に電撃が走った。


天才魔術師――シド・ノワール・アストレア。

「ロゼリアの恋鐘〜星の乙女〜」の攻略対象の一人で、ロゼリア王国随一の魔術師。

おっとりした性格で、ヒロインたちを優しく導く三歳年上のお兄さんポジション。

さらに続編「白銀の断罪」では、幼少期のエルフェリア兄妹に魔法を教えていた描写まである。


「シドは作中で全属性を操ってた……! なんで忘れてたんだ俺! これなら植物の件も、両親の死も回避できる!!」


テンションが上がる。

もし彼を味方につけられれば、木属性も雷属性も完璧。

問題は、どうやってシドに“植物を枯らしてもらう”よう説得するか。

子供の言葉なんて、まともに取り合ってもらえるはずがない。

いや、それ以前に――今のエルフェリア家とシドって、交流があるのか?


(……これは、両親に聞くしかない。でも、聞いたら転生記憶がバレるかもしれないし……)


(くそ、でも植物は早急に枯らさないと危険だ。どうする、どう動く――)


「――にいさまっ! にいさまっ!!」


「うわぁっ!?!?!?」


反射的に声が裏返った。

目の前に、いつの間にかリオがいた。 ふんわりしたスカートの裾、光をはね返す銀糸の髪。

いや、忍者か? 音もなく登場するなこの天使。


「リ、リオ……!? い、いつの間に戻ってきたの……!?」


「ついさっきですわ。にいさま、とてもこわいおかおをしてどうなさったんですの?」


そう言って、リオはベッドによじ登り、俺の頬にちょこんと小さな手を添えた。

あったかい。柔らかい。甘い匂いする。

人間、こんな小さな手でここまで理性を揺さぶれるのか。


「……いや、リオ。ちょっと考えごとをしてただけだよ。心配しないで。」


できる限り柔らかい笑みを浮かべる。

リオはじっと俺を見つめ、数秒の沈黙のあと――


「にいさまは、まだげんきじゃないので……かんがえごとは、だめですっ!」


小さな眉を寄せて、ぷぅっと頬をふくらませる。

天使の怒り。尊い。可愛い。

だが、言葉は容赦ない。


「しっかりおやすみしないにいさまは――きらいになっちゃいますよっ!」


ピシャーーーーンッ!!!!!!

心に雷が直撃した。

思考の全回路が一瞬でエラーを吐く。


「えっ!?!? 嘘だよね!? リオ、それはダメ、それは兄様にクリティカルダメージ入るやつ!!

わかった、考えごとしないからっ!! だから嫌いになるのだけはやめてっ!!!!!」


この子に嫌われたら、生きる意味がなくなる!

王国どころか宇宙を滅ぼすかもしれない。


「きちんとおやすみするにいさまは……だいすきですわ!」


にぱっと笑う。

その瞬間、世界が花畑に変わった。

ああ、生きててよかった。神様ありがとう。

嫌われてたら血涙を流して暴走してた。たぶんゲームのラスボスへと化してた。


「よかった……ほんとによかった…。リオに嫌われたら生きていけない……。」


思わず胸を押さえて息をつく。

リオは小首をかしげて、ふわっと笑った。


「にいさまは、わたしのことがだいすきですものね!」


破壊力。

その無自覚な一撃が一番重い。

俺はただ頷くしかなかった。


「うん、大好きだよ、リオ。これからもずっと。」


そう言いながら、膝に抱き上げる。

軽くて、あったかい。

リオは嬉しそうに微笑んだ。


「さて……お絵かきしようか。何を描こうかな?」


「わたし、おはなをかきたいです! じつは――にいさまのおみまいに、おうじさまがすてきなえのぐをくださったんですよ!」


「へぇ、王子様が? ……よかった――」


言いかけたところで、思考が止まった。


……待て。今、なんて言った?

おうじさま? 王子?

このタイミングで? まさか、あのクソ王子がもう動いてるのか!?


「……リオ、もう一度言って。誰からそれを貰ったって?」


「…?おうじさま、ですわ!」


ズドォォォォォンッ!!!!!!

三度目の雷が、今度は現実に頭の中を貫いた。


(王子。お前、もうリオに手を出しているのか!?!?植物について考えてる場合じゃねぇ!!)

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