第二話:シンキング進退
「とは言ったものの……どうやってハッピーエンドを目指すか、だよな。」
俺が生き残るには、リオが断罪されないこと。それが絶対条件だ。
つまり——リオを救えれば、俺も助かる。
……いや、助かるとかそういう話じゃない。
あんな可愛い天使が死ぬとか、そんな世界、存在していいはずがない。
尊い。あの笑顔を曇らせるなんて、人類の大罪だ。
「リオが断罪されないために必要なこと……まずは第一王子との婚約を止めるところから、だな。」
第一王子、レオンハルト・アルヴェール・ロゼリア。
リオの婚約者にして、ロゼリア王国の王太子。
そして、俺の中では断罪ルート製造機その一号。
「王子と婚約しなければ、少なくとも“王子から”断罪されることはない。……うん、つまりリオの平和は俺の平和ってわけだ。」
だが、それだけじゃない。
正直に言う。
俺は——どうしても、絶対にリオをあの王子になんて渡したくない。
レオンハルトの性格を一言で言うなら、“俺様”。
良く言えばカリスマ性のあるリーダー気質。
悪く言えば、王族補正で傲慢が極まった自己中貴族のテンプレートだ。
ゲーム内では幼少期にリオへ一目惚れし、「俺の婚約者は君だ!」と無理やり婚約を決めたくせに、成長してヒロインに出会った途端「やっぱり愛してるのは君だったんだ」とか言い出して、 リオを公衆の面前で断罪。
……お前、最低だろ。
しかも負けず嫌いが極まってる。
ゲーム内でリオが王立学園の試験で一位を取ったとき、
「僕が一位のはずだ!間違いだ!」と駄々こねてたシーンは伝説級。
おい王子、王族補正は頭の中にもかけてんのか?
そんなやつと結婚したら、リオが苦労するに決まってる。
俺の可愛いリオが、あんな傲慢男に傷つけられるとか……冗談でも無理だ。殴りかかる自信がある。
——もしリオが「王子のことが好き」と言うなら、俺は全力で止める。
例え国を敵に回しても、断罪されても、俺はリオを守る。
「幸い、まだリオが第一王子と婚約する前だ。まだ、婚約はなんとかできる。」
『リオの婚約を阻止する』――それだけじゃ足りない。
もう一つ、絶対に潰さなきゃいけない要素がある。
――両親の死だ。
リオとアレクシスを“氷の兄妹”に変えた元凶。物語が始まる前に蔓延した
――魔欠病。
感染者の体内から魔力が吸い取られ、体に花が咲いて朽ちていく、忌まわしい病だ。「ロゼリアの恋鐘〜星の乙女〜」が始まる十二年前、そしてその過去編でリオが主人公の「ロベリアの恋鐘〜白銀の断罪〜」の一年ほど前に王国内で流行し、数えきれない命を奪った。エルフェリア兄妹の両親は、その疫病によって命を落とした。幸運にも幼い兄妹だけは隔離されて助かったが、代償は大きすぎた。
「魔欠病は、隣国から持ち込まれた――植物の突然変異による空気汚染が原因だったはずだ。……そして、今年が“その年”だ。つまり、俺には時間がない。」
頭の中で、ゲームで見た光景がフラッシュバックする。根源となった変異植物を現地で見つけ、全属性の魔術を重ね掛けして枯らす――あの手順。ゲーム通りなら解決法は分かっている。だけど現実は冷酷だ。俺——アレクシスの扱える属性は「火」と「闇」の二つ。リオは両親がいた頃は「水」と「光」を操れたが、両親の死後に“光”が歪んで“闇”に変わった。二人合わせて四つの属性――それでも、全属性を揃えるには足りない。この国の魔法は「炎」「水」「木」「雷」「光」「闇」の6種類なのだ。2種類足りない。しかも、その四つが発現しているかすら怪しい。しかも、幼いリオを危険地帯に連れて行くわけにはいかない。俺一人で突っ込んだところで、何もかもが空回りするだけだ。
両親を失った後には政治の現実という壁が立ちはだかる。
両親を失ったエルフェリア家は後ろ盾を失い、伝統ある屋敷でありながら“狙われる”立場になった。命も、地位も、財産も、ぜんぶ奪われかねない。伝統を守るには幼い兄妹だけでは力不足。そこで差し伸べられたのがロゼリア王家の“救済”だ――だがその救済は鎖でもあった。
「王家が『全ての権利と安全を保障する。だが代わりに、君の妹は第一王子と婚約すること』――そんな条件を突きつけられたら、普通の家なら首を縦に振るしかないだろう。家が潰れるか、婚姻で体裁を保つかの二択だ。」
俺の胸の奥で、悔しさが沸騰する。王家に頼らなければ生き残れない弱さ。政治に踏みつけにされる屈辱。自分の血の繋がった家族を守るために、他者の掌の上で踊らされる絶望。――ぜんぶ、今は幼い身体のせいでどうにもならない。
「場所は分かっている。対処法も、大まかな手順もわかる。時間と人手が足りない。物語が始まる時が刻一刻と近づいている。もしこの年を越せなければ、両親は死に、王家の婚姻圧力は不可避になる。一番有効なのは両親の生存。もし二人が生きていれば婚約に対する抑止力になるかもしれない…!」
しかし方法が見つからない。
全属性を揃えるには外部の協力が要る。木属性、そして雷属性の使える人はきっと世界には沢山いる。しかし、その人が幼い子どものことを聞いて、協力してくれるだろうか?幼い俺の身体と、まだ発現しているか怪しい魔力では、何一つ単独で解決できない。時間は刻々と減っていく。王家の“救済の鎖”に身を委ねる以外の選択肢がないという悔しさが、胸の中で痛く爪を立てる。
「ちくしょう……!」
考えろ、考えろ、考えなければ、考え——




