仮面夫婦は全然仮面を被れてなくない
企画・原案:満月イモリン様
あとpixivで拝読した史実漫画に影響を受けています
僕の名前はカイ・ハーケンブルグ。
代々王城にお仕えしている召使家系なんだけど、この度の配置換えで北ナーロッパ大陸の頂点に立つ夫婦のお世話をするという栄誉を賜った。
バートル海の覇権を握る人族の国王、ゴーン・マクラウド様
大国ケモナから嫁いだ獣人族の王妃、ステラ・フォクシィ様
お二人は、両国の講和の証として結婚された。
要は政略結婚というやつだ。他に特徴をあげるなら、共に顔面偏差値の高いクール系夫婦。
そして
それ以上に仲が冷え切っているッ……!
赴任初日、僕は公務をする二人に付き添うところから働き始めたんだけど、仮にも夫婦だというのに全然会話しないんだよ。
というか、目すら合わさない。大丈夫なの、これ?
夫婦別姓でステラ様に権力を与えていないと聞いてはいたんだけど、公の場でも『王妃』と呼ばないし。
不仲は他国の大使にも認知されているようで、謁見の時なんて相手にめちゃくちゃ気を遣われていた。
「あの、バトラ先輩。あれで大丈夫なんでしょうか?」
「お二人は仮面夫婦だからなぁ」
休息時間、先輩召使にきいてみるとハッハッハッと笑って返された。
仮面、全然被れてなくない?
不安になってくるんですけど。
「仕方がないんだよ。和平したとはいえ、ケモナは長年の敵国だ。太后さまや古い大貴族達は今でも仲良くするのに反対しているしね。」
成程。ゴーン様もステラ様も理知的な方だから政略婚自体には賛成だけど、感情は別と。
僕なんかは戦争で血縁者を失った訳じゃないから、『平和になってよかったし、せっかく夫婦になったなら、これから仲良くやっていけたらなー』なんて思いそうだけど、王族はそうもいかないんだなぁ。
午前の公務が終わり、お二人は夕方まで休息。
今度はゴーン様の居室にお世話に入ることになった。
ちなみにステラ様の居室は別の階だ。
普通の夫婦だと部屋は隣あわせが普通なのに。
きっと公務以外では顔も合わせたくないんだろうなぁ。
これから、こんなギスギスをずっと見せられるのか。気が重いなぁ。
いやいや、そんなこと思ってはいけない。
今回の人事は本来、僕の年齢ではありえない異例の抜擢。
前に勤めていたベテランが軽い糖尿病になったらしく、長く勤められそうな若い召使として白羽の矢が立ったのが裏事情らしいけど。
ま、経緯はさておき、期待にこたえられるように頑張らなくっちゃね。
「失礼いたしまッ…ス?!」
入室早々、いきなりちょっとセリフを噛んでしまった。失態だ。
でも、言い訳をさてほしい。
だって、仮面夫婦のお二人がめっちゃイチャイチャしていたんだよ!
「ステラは本当に素敵だねぇ」
「もう、ゴーンさまったら。わっち照れてまうわぁ」
耳をくすぐるような甘い声で二人が囁き合っている。
距離はほぼゼロ。ゴーン様の脚の間にステラ様が座り、背後から両腕を回しかけられている。いわゆる『バックハグ状態』だ。ちなみに、ステラ様のキツネ耳は嬉し恥ずかしそうにぴょこぴょこしている。
え、この二人、さっきまで公務で目も合わさずに、ツンとしていた人たちだよね?
もしかして頭でも打った?それとも入れ替わり?影武者?
どういうこと、と周囲を回すが召使はみんな、によによニマニマ。
あれ、僕パラレルワールドに転移した?
「お二人の仲は、本当はあんな感じなんだよ」
デザートの準備で引っ込んだときに、バトラ先輩がこっそり教えてくれた。
階も別々な二人の居室だけど、実はゴーン様が秘密裏に作らせた専用通路でつながっているという。
僕は政治には疎くて全然知らなかったんだけど、なんでも戦時中、お二人とも公務をこなしながら相手国の捕虜を支援するなど、互いが両国の関係改善に奔走していたそうだ。帰国した捕虜や外交官からその話を聞いていて、お互い、相手の事を高く評価していたらしい。
その後、2人の婚約が成立したが、水面下では何度も破棄されそうに。
しかし、2人とも婚約破棄を断固拒否し、和平にかこつけて結婚にこぎつけたそうだ。
もともと互いを評価していた上に、障害を乗り越え結ばれたお二人。当然、超ラブラブ。
ただ、政務に支障がでないようにするためと、太后様や大貴族を刺激しないように、あえて冷えた夫婦仲を演じているという。
「でも、公務中も密かに大好きサインは送り合っているけどね。殿下が顎に手を当てて考えるそぶりをする時は、大体王妃に向かって指ハートを作っているし。あと王妃が狐耳を5回ピコピコするのはアイシテルのサインだよ。」
「そうなんですか!?」
今日もそのしぐさは確かにあった。
お二人とも無表情でやっていたから、無意識下の癖だと思っていたよ……
その後、給仕したモンブランをお互いあーんし、ニコニコしていた二人。見ていると苦いコーヒーを飲みたくなってくるくらい甘々だ。
でも、「そろそろ公務のお時間です」と言われた瞬間、スンとした顔になって距離を取られた。
初めは全然仮面被れていないじゃんなんて思っていたけれど、そうかぁ、そっちが演技か……
前言撤回。完璧な仮面夫婦だ、この二人
結局お二人はその後も、長年にわたりずっーと、公的な場では仮面を被り続けていた。
「怨嗟があっても未来志向で飲み込む」という周囲へのメッセージになるのだそうだ。
そんな仮面がやっと外れたのは晩年も晩年。
ステラさまが先に天寿を全うして崩御された葬儀の際。
いつも冷静なゴーン様が、人目をはばからず大号泣された。僕たち一部の召使は、『それはまあ号泣するよな』と思ったけれど、臣下のほとんどは凄く驚いていた。
最後に少しだけ僕の話を。
最古参の召使いとして、死がお二人を別つまで50年間にもわたり敬愛する主人にお仕えできたのは、僕の人生で最高の誉。長くお仕えできるよう、徹底的に健康管理をした甲斐があったというものだ。
まあ、晩年には軽い糖尿病になったけどね!
甘々査定で高評価頂けたらわっち嬉しい
A A
(*´ω`*)




