ある家族の節分
「わるいおにはそと!」
「ふくはうち!」
まだ幼い二人の子どもたちの元気な声と、バラバラと豆が撒かれる音が辺りに響く。そしてすぐに「うわぁ」という情けない叫び声とともに大男がドタドタと家から走り去っていった。
それを見て歓声をあげる子どもたちの頭を撫でながら母親がにっこりと笑う。
「ありがとう、二人のおかげで悪い鬼さんは家から出ていったよ。これで今年も一年幸せに過ごせるね!」
「うん!」
子どもたちは声を揃えると、嬉しそうに頷いた。この家族の節分はこうして今年も無事に過ぎていった。
その日の夜、子どもたちの母親は鬼役を務めた父親の晩酌に付き合いながら「毎年悪いわね」と言った。
「いやいや、構わないよ。僕だって普段とは真逆なこの役目を楽しんでるしね。あ、このお面は返すね」
夫から返された先祖伝来のお面を見て妻は少し複雑そうな表情をする。
「本当だったら私が豆を投げられる役をやるのが良いんだと思うけど……」
「昔からのしきたりとは言え妻が家から追い出されるのを見るのは、福の神としても夫としても見逃せないなあ」
ふくよかな顔に苦笑を浮かべてそんなことを言う夫の言葉に、妻は元々赤い顔をさらに赤くしていた。
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