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賢者の瞳は朱色に輝く  作者: 智慧砂猫
第二章

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第22話「悪い報せ」

 違和感を覚えつつも、ひとまず講義室へ急いで戻る。受け付けは変わらずウィリーとマチルダがやっていた。アンニッキは落ち着かない様子で待っていて、アデルハイトを見つけると駆け寄ってきた。


「やあ、遅かったね。今はカフェを営業中だ。お化け屋敷ならいざしらず、こちらなら問題なく回せている。エステファニアが来たんだって?」


「ああ。それで、キャンディスとジルベルト、それからディアミドの状況が分かっていない。全員無事であればいいんだが。今は報せを待ってる」


 ずっと頭の中で警鐘が鳴っている。何か悪い事が起きるかもしれないと告げている。どうしようもない不安に圧し潰されそうだった。


『大丈夫だ。悩んだって、どうしようもない事だってあるさ』


 聞こえて思わず振り返った。また自分の声だった。


「どうしたんだい、アデル。何かいたのか?」


「……いや。ただの幻聴だ」


 賢者の石は自我を持つ。ディアミドの仮説は正しいのだろうか。ふと思い返して、何故だか悲しい気持ちになった。もしそうだとしたら、賢者の石はまるで哀しんでいる気がしたから。


「まあ、この話はあとで詳しくしよう。お前にも迷惑をかけた」


「気にしないでいいとも。さあ、中に入って。忙しいからね」


 お化け屋敷の人気もあって、午後も期待が出来ると足を運ぶ人たちでごった返していた。王都どころか他の町からも来るので、学園祭の間は敷地の中をこれまでにない程の大人数が埋め尽くす状況にアデルハイトも驚かされた。


 これまでは遠巻きに見て学園祭が始まる時期は人が多い程度に捉えていたが、予想を大きく超えていた。忙しすぎて、不安を抱えて俯いている暇もない。普段は見られないシェリアたちのメイド服も目の保養になった。


 全てが終わったのが夕方四時半。残っている客も少なくなった頃にマチルダと数人が「後はやっとくよ!」と、初日は目立ったトラブルもなく片付いた。アデルハイトの初めての経験もひと段落がつき、他に見て回りたいわけでもなく先に帰路に就く。ぼんやりと今後の事を考えながら。


「(結局、先に帰るのは私だけか。アンニッキも忙しそうだったから、話すのは帰ってからになりそうだな。お腹もちょっと空いてきたかも……)」


「ああ、ここにいたんですね。良かった、帰る前で」


 小さく手を挙げて寄って来たフェデリコに顔をあげた。


「お前か。早かったな、結果はどうだった?」


「また歩きながら話しましょう。帰る途中のようですから」


「わかった。聞かせてくれ、落ち着かないんだ」


「ええ、では結論から伝えておきましょうか」


 いつもよりも人が賑わっている学園内で二人の会話に耳を立てる者などいないだろうが、念には念を入れて会話は聞き取りにくいようにしてから、フェデリコはひとつ咳払いをして効果を確認すると話を始めた。


「ディアミド・ウルフが北の大地へ派遣されるといった話はありませんでした。理由は分かりませんが、個人的な都合で向かわれたかと。……それからもうひとつ、軍内部で随分と騒ぎになっていたのであなたに先にお伝えすべき事が」


「なんだ。まさか帝国軍に大きな動きでもあったとか?」


 フェデリコは難しい顔をして頬をポリポリと掻く。


「聖都へ派遣された中級魔導大隊から先程新たにあがってきた報告では、敵軍の師団はいずれも戦線からの撤退を始めたそうです。今後については帝国側から、ある条件の下、和平交渉の申し出があったと」

「突破はさせなかったという事だな。それで条件というのは?」


 どう話したものかと悩む。せっかくの楽しい気分に水を差してしまうのは申し訳ない。だが、かといって伝えなくてはならない。フェデリコはなんとも胸の中がモヤモヤとかき混ぜられる嫌な気分になった。


「……突然、聖都の高い壁を前に、皇帝が現れたそうです。どこで嗅ぎつけたのかはわかりませんが────『賢者の石を差し出せ』と話していたと」


 全身が凍りついたかと思うほど冷たくなって、嫌な汗が滲んだ。


「私の事を知っていたのか?」


 不安は外れる。フェデリコは否定した。


「いえ。エンリケの研究成果を寄越せという意味のようだったと、現地に戻った聖女からの報告があります。他の方々は気付いておらず、そのあたりはワイアットさんを通じて、私に話して頂きました。それと報告には続きが」


「聞きたくないけど、聞かないといけないんだろう?」


 嫌な話の続きとなれば、もっと嫌な話(・・・・・・)だと相場は決まっている。溜まっていた疲れが、より重くなった気がした。


「あなたにこんな話を聞かせなくてはならないのが残念です。カシュランからキャンディス様が帰還。……剣帝ジルベルトの死亡が確認。そしてお戻りになられたキャンディス様もまた、話を済ませると命を落とされました」


 今度は全身がざわつく。どこのだれが、と言葉も出てこない。だが怒りは湧かなかった。ただ、ひどい落胆があった。


「キャンディスには会えるのか」


「はい。皆様には伝えられますか?」


「いや、学園祭が終わるまでは隠しておこう」


「ですよねえ。……夜に司令部へ来てください。ご案内します」

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