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第3話「これからの目的」

 あまりの堂々ぶりにユリシスは呆れて手で顔を覆った。


「拾ったって、お前な……。どこでそんなものを見つけたんだよ?」


「十五、六歳のときだったか。まだ軍に入る前、竜の巣に調査に行ったときに」


 子供の頃のアデルハイトは既に魔法使いの頂点とも呼べる存在『大賢者』の称号を手にしていてもおかしくないほどの天才だった。しかし家を飛び出す十三歳の頃まで父親の虐待を受け、能力をひけらかす事はしなかった。


 魔法を適当に人助けに使いながら、一方で大好きな魔法の研究に没頭した。魔界から現れたものとは違う自然発生する魔物の存在についても興味津々で『自分ならドラゴンが相手でもどうにでもなる』という意志のもと高い山にある竜の巣に踏み入った。


 その調査中に『綺麗な石ころだなあ』と思って拾ったものが賢者の石だった。何千年、あるいは何万年と掛けられて偶発的に自然発生したと見られ、調査の結果、最低でも億に届くだけの生命を魔力として凝縮されたものだと分かった。


「賢者の石とは私たち魔法使いの追い求める夢。たとえ大魔導師だとか大賢者だとか、そんな称号を捨てでも目指す価値のある夢だった(・・・)


 その製造方法が分かるまではアデルハイトも欲したものだった。だが真実を覗いて『存在してはならないもの』と断定。研究資料を誰かが盗みでもしたらまずいと思い、さっさと処分した。


 自然発生した賢者の石は気の遠くなる年月をかけて、近くで潰えた生命を魔力として取り込みながら完成された。それでも親指程のサイズにしかならない。人工的に作るとなれば大陸のあらゆる生命が消えてしまう、あまりに危険な代物だ。


「五年の間、四人に何か特別な動きはなかったか?」


「ああ。特に何かあったという話は聞かないな。皆それぞれの領土に引き籠って、必要なときだけ都市に来てる。少し違うのはキャンディス・メイベルだけだ。アイツは五年前に兄を亡くしてから、どこか田舎に移り住んだと聞いてる」


 魔物の毒に冒されたキャンディスの兄は、治療法も見つからないまま五年前に死んだ。聖女エステファニアの祈りも通じなかった。それもあってキャンディスは失意のまま、自身に与えられた領土のどこかで誰にも知られず、ひっそり暮らす事を選んで以来、都市に顔を出す事もなくなってしまった。


「魔界から魔物の襲来はなくなったが、現時点でこちら側に雪崩れ込んできた魔物全てを処理できたわけじゃない。なんとか協力を仰ぐために連絡はしてるが、キャンディスの領土だけは手付かずなんだよ」


 ふむ、とアデルハイトも考え込む。元よりキャンディスはアデルハイトの殺害に関与した主要人物のひとりではあるが消極的だった。暗殺と攪乱に長けた速度的戦闘を得意としているため、わざわざ動く必要もなかったのかもしれない。とはいえ他のメンバーに比べて毎日のように訪れては兄の話をする姿は決して偽りとは思えず『こちら側に取り込める可能性』を示唆しているふうに捉えた。


「あらかた分かった。五年で連中が賢者の石には殆ど近づいていないのなら、まあ、後十年は辿り着けんだろう」


「逆を言えば十年もあれば賢者の石の製造法に気付くって事か?」


 返されたアデルハイトが深く頷く。


「エンリケであれば可能性は無視できない。あれの頭脳と観察眼は決して偶然の産物とは言えん。魔法使いの中で『賢者に最も近い大魔導師』と呼ばれるだけある」


 最初の弟子であるエンリケは魔法使いとして大成するのは目に見えていた。細かな魔力の扱いに加え、多くの魔法を記憶していて応用も利く。天才とはまさに彼の事だと誰もが手放しに褒めるほどだ。


「だが今のところは不可能だ。賢者の石について話をした事があったのが、私としては一生の不覚かな。あれは造ってはならないものだ、なんて」


 余計な話をしなければエンリケたちとは良き師弟関係のままいられたのだろう。ただの伝説。与太話として済んだはずが、と肩を落とす。


「仕方ないさ。お前は自分の弟子を信じてた。裏切るなんて考えた事もないんだろ。俺だって同じ立場だったら喋ってたよ。気にする必要ない」


 ぽん、と小さくなったアデルハイトの頭に手を置いて朗らかに笑う。


「どうせ気付かないんだったら、後はこれから何をするかだろ。自分を殺した奴に復讐するのも、全部忘れて平凡に暮らすのも自由だぜ」


「……そうだな。何をするか、だよな」


 特別、何か復讐心のようなものは湧いてこなかった。とはいえ放置しておくわけにはいかない。自らの目的のために誰かを平気で殺せる人間が英雄として人々を導く立場にあってはならない。


「新しい英雄を立てたい。奴らに代わる英雄が必要だろう」


「おいおい、簡単に言うじゃないか。何年掛かる話なんだ?」


 アデルハイトの下で修業を積んだ者たちだからこそ英雄として輝けた。というのがユリシスの認識だ。アデルハイトはニヤリと笑みを浮かべて────。


「私が最強だとでも思ってるのならその理解は間違っている。世界は広いんだ、ユリシス。この世界にはあの四人よりもはるかに強く、しかし世俗に興味がなく一筋縄ではいかないバケモノみたいな奴ら(・・・・・・・・・・)がいる」

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