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第9話「絡繰遊郭」

 店から出てきたアデルハイトの顔を見て、八鬼姫は満足げに頷く。力強い顔に変わったと確信して、フーッと煙を吐き出すと全員を一瞥する。


「央佳!」


 呼ばれると八鬼姫の背後に、風のように現れた赤い肌の女性。角は決して長くなく、鬼人としての力関係は下から数えた方が早い。だが八鬼姫にはとても可愛がられており、手を出す者は誰一人としていなかった。


 そのためか、八鬼姫からも手ほどきを受けて妖術を学び、力こそないなれど小間使いとして央佳ほど優秀な人材はどこを探しても見つからない。


「此処に。なんなりとお申し付けください、九尾様」


「こやつらの着物を城に運んでくれ。帰ったら湯浴みしてから着替えさせる。鬼人の町の本番は夜遅くからじゃからのう」


 積まれた箱をサッと抱えた央佳は、短く「御意」と返事をして、風の如く去った。阿修羅がとうとうこのときが来たかと真剣な顔をしてアデルハイトたちの背中をばしっと軽く叩いて言った。


「こっからは遊びじゃなくなる、今のうちに緊張感を持っとれ」


「どういう意味だ。稽古するのは分かるが、まさかこんな場所で────」


 八鬼姫がフーッと煙を吐く。視界が完全に遮られるほどの煙に包まれ、全員が咳き込んだ。しばらくして視界が開けたときには、阿修羅の結界でも見覚えのある紅い月が昇る、扶桑の城下町に似た石畳と白黒の木造家屋が並ぶ場所に立っていた。ただ、そこにいるのは鬼人の代わりである無数の傀儡人形だ。


「これは……阿修羅と同じような結界か!」


「左様。こいつは俺様のいくつかある結界のひとつじゃ」


 片手を挙げれば、傀儡人形たちが一斉にアデルハイトたちへ首を向けた。


「これが俺様の《傀儡箱庭(くぐつのはこにわ)絡繰遊郭(からくりゆうかく)》。魔力ひとつで動く木偶共の数は無制限にも等しい。ここでは俺様こそが絶対。俺様が死なないかぎり、その木偶共も不死性を持つ。そして全ての人形が────俺様の尾の数で強さが決まる」


 八鬼姫から、ぶわっと炎の尾がひとつ生えた。魔力の塊だ。そのひとつの尾が、すでにアデルハイトやリリオラ、ミトラの魔力を遥かに超えている。同時に傀儡人形たちにも魔力が宿り、そのいち個体ずつが大魔導師でさえ手も足も出ない、無敵の軍勢とも呼べる代物となった。


「最初のステップは簡単。てめえらには、その人形共がある程度倒されるまで休まず戦い続けてもらう。武器は本物だ、一歩間違えば死ぬやもしれんな?」


 人形たちが動き出した途端、誰よりも素早く動いたのが阿修羅と、左舷、右舷。既に経験者である三人は八鬼姫の目的を最初から知っていて、全員が順応するチャンスを作ろうと周囲の人形を手早く蹴散らした。


「呆けてるんじゃあねえわいのう! ああ言ったらもう始まっとる!」


「さっさと気張るっす、戦闘開始っすよ!」


「も~、ウチは汗かきたくないってのにさぁ!」


 傀儡人形が破壊され、再生を始めるとアデルハイトたちにもスイッチが入る。魔法使いは属性を操れる。いくら傀儡人形が無限の再生を繰り返すとしても、完全に灰にしてしまえば同じ事だと破壊しては焼き払う、と言った行為を繰り返す。


 しかし、数が一向に減らない。十五分もすると流石にリタイアが出た。最初にシェリアが脱落、それからルシルが限界を迎え、八鬼姫に回収された。その後もしばらく続き、ようやく八鬼姫が傀儡人形たちを止める。


「うむ、てめえらの実力は大体把握できた。ここからは個別メニューになるのう。まだまだ戦える元気もあるようじゃから……シェリアとルシル、てめえらはやはり基本的な魔力の器の状態を限界まで引き延ばす。そして────」


 アデルハイトを指差す。


「まずはてめえに試練をくれてやる」


 空に軽くあげた手を振り下ろすと、四つの傀儡人形が降り立った。八鬼姫の尾は四本に増え、傀儡人形が魔力に満ちて動き始める。


「さっきよりも強いな……。これを一人で倒せと?」


「ただの木偶じゃあねえぞ、アデルハイト。よう見てみるがよいわ」


 傀儡人形はそれぞれ武器を手にもっている。一人は大きな魔杖を。一人は大きな剣を。一人は星球武器を。一人は両手にナイフを。その持つ武器の形状にも見覚えがあり、アデルハイトは驚愕する。


「これは……まさか……!」


「フ、よろしい。では更なる変化を見せてやろう!」


 手を翳して薙ぐように振り抜く。宿った魔力が傀儡人形の姿を変えた。ただの無機質な木製の人形から、命を吹き込まれた生命のように。驚いたのはアデルハイトだけではない。弟子である阿修羅でさえも見た事のない術に目を白黒させた。


 目の前に現れたのは大賢者エンリケ。剣帝のジルベルト。聖女エステファニア。大盗賊キャンディス。アデルハイトの弟子であり四英雄の姿があった。


「馬鹿な。なぜ四人がこんなところに……!?」


「はっ、安心せい。こりゃあ本物じゃねえよ」


 八鬼姫が煙管を咥え、ニヤリと笑う。


「────《絡繰遊郭(からくりゆうかく)再演舞踊(さいえんぶよう)》。俺様の魔力で、この結界にいる者の記憶を読み取って構築された模倣体。しかし、侮るなよ。こやつらの強さはてめえの弟子共をゆうに超えておる。アデルハイトよ、見事打ち倒してみせよ!」

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