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賢者の瞳は朱色に輝く  作者: 智慧砂猫
第四章

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第1話「扶桑の国」

「ようこそ、我らが扶桑の国へ!」


 船を停泊させる港につくと漁村にいた人々が待っていましたとばかりにアデルハイトたちを迎えた。もちろん、受け入れてもらうために先頭に阿修羅が立って引き連れたというのが重要でもある。先立って左舷と右舷が新たに大陸で出来た友人と学業に励んでいると報告の後、彼女らもまた学業に加わったため、アデルハイトたちはある意味では有名人だった。


 あの物騒な六天魔阿修羅に、師匠以外の友と呼べる仲間が出来たと。


「流石の人気ぶりだな、阿修羅」


「じゃろう? わちきは扶桑の統治者ゆえのう!」


「ああ。というか元の姿に戻ったんだな」


 アデルハイトの頭にぽんと手を置いてからから笑う。


「その方が受けが良かろ。わざわざ本来の姿を隠すでは、信頼のおけぬ相手じゃと思っておると民に伝えるようなものじゃからの」


 おかえりなさいと迎えられる阿修羅は、大切な民との交流を欠かさない。赤だの青だのと部族が分かれていがみ合う日常だったのも、阿修羅によって大きな変革をもたらされて今では手を取り合うほどの関係に至った。


 いわば阿修羅は扶桑の未来の担い手であり、扶桑最強の戦士であり、自国の人々のために橋渡しとなった英雄とも言える。


「すげえなあ、あんなにたくさんの人間が……」


「魔界じゃ見られない光景よね。皆恐怖で従うだけっていうか」


 ミトラとリリオラには新鮮な光景だ。誰かが愛されて頂きに立つなど信じられない。魔界では服従は好感によるものではなく恐怖によって満ちている。こんなにも羨ましい事があるのだろうか、と眺めていた。


「ウチらの国の匂いだ~! ん~、帰って来たって感じ!」


「アタシはあんま好きじゃないっすけどね」


 右舷と比べて左舷はどこかうんざりした様子だった。


「なんだ、左舷は自分の国が嫌いなのか?」


「……色々あるんすよ。ま、そのうち誰かから聞けばいいっす」


「自分からは話したくない事だったか、失礼した」


「いいえ~。別にアタシはアデルっちの事好きっすから」


 右舷が横で腕を使ってバツ印を作る。あまり浮かない表情だったので、どちらにとってもさほど良い思い出があるわけではなさそうだとアデルハイトは頷いて返し、何もなかったように阿修羅の元へ行こうとして────。


「おい、アデル、あぶねえ!」


 いきなり阿修羅に叫ばれてぴたっと足を止めると、空からひとつの影が降ってきた。一歩でも前に出ていれば踏み潰されたかもしれない。地面を小さく抉ってやってきた誰かに、阿修羅だけでなく扶桑の人々も緊張が走って姿勢を正す。


「なんでえ。メシも出来とると言うのにいつまで待たせやがる? 俺様を待たせるとは随分と偉くなったもんじゃあねえか、阿修羅」


「ひいっ、お師匠様!? わざわざ迎えに来るとは思ってなくて……!」


 狐の耳がぴくっと動く。不機嫌そうな目つきの美女が、目の前で驚いて動けなくなっているアデルハイトに気付いて見下ろす。


「なんでえ。これがてめえのダチかよ、阿修羅」


「これ!? 私が!?」


「うるせえなあ、いちいち驚くなよ。カスみたいな魔力しやがって」


「カス……!? え、阿修羅、この方はなんなんだ、すごく失礼だが!」


「騒ぐんじゃねえよ。うるせえっつってんだろ」


 むぎゅっと顔を掴まれて、アデルハイトは「ふぁい……すみまふぇん」と舌足らずに返事するしかなく、思いのほか怖ろしい印象を植え付けられた。


「み、皆よ。紹介しておかねばならぬ。この御方は、今回の修学旅行でぬしらの世話をしてくれる予定となっておる。名を鬼姫(おにひめ)。あるいは八鬼姫(やおひめ)と名乗っておられる、わちきの素晴らしい師じゃ。どうか……どうか、穏便に頼む」


 直後、阿修羅を背にしたまま八鬼姫は胸倉をぎゅっと掴んで地面に叩き落す。顔がめり込んだついでに頭を下駄で踏みつけて、八鬼姫は全員を睨む。


「ウム、まあ、つまらんであろうが俺様が島にいる数日間、てめえらの面倒を見てやる。有難く思えよ。地獄とはどうあるものかを経験できる良い機会じゃ」


 値踏みが済むと八鬼姫はどこかから取り出した札を一枚、ひらっと投げると札は激しく燃え上がり、都市部へのポータルを開く。


「ポータルを魔法陣なしで形成できるのか……」


「フ、気になるだろうが話は後じゃ。メシが冷めちまうからよ」


 わざと阿修羅の体を踏みつけてからポータルを潜って、はよう来いと指をくいっと動かす。ズボッと地面から顔を引っこ抜いた阿修羅が、誰よりも先に追いかけるようにポータルを潜った。


「この馬鹿師匠! いちいち殴るなと何度言うたら分かるんじゃ!?」


「知るかよ! 文句があるなら俺様に勝ってから言うんじゃのう!」


 仲が良いのか悪いのか分からない師弟に苦笑いを浮かべつつ、それもひとつの関係の在り方なのだろうと全員、ただ黙って受け入れた。


「で、では行こうか……。私たちも遅れると殴られそうだ」


 続々とポータルを潜っていく。最後に通ろうとしたルシルが漁村の人々に深く頭を下げて礼をしてから通り、それを最後にポータルは閉じた。

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