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賢者の瞳は朱色に輝く  作者: 智慧砂猫
第三章

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第26話「沈黙もここまで」

 驚いたシェリアが、ぽかんと口を開けて沈黙する。何を言っているのか分からず、それからハッと我に返ってまた驚いた。


「えっ、あ、でもアデルハイトを見に来たんじゃ……」


「んやぁ、別に。俺は参観なんてしてもな。どうせコイツにはユリシスが見に来るだろうから、あんまり要らねえだろ。そんときにお前の話を偶然聞いてよ」


 元々、ふとした会話の中でシェリアが両親と不仲である事は知っていた。だから、参観日で困った事が起きそうだとアデルハイトに相談を持ち掛けられて、ディアミドは快く了承した。可愛い娘の友達が困っているのなら助けてやりたい。そんな事が起きなければなおさらいいが、と思いながら。


「ま、だから今日はお前のために来たみたいなもんだ」


「うわあ~……。へへ、ありがとうございます」


「おう。あ、それと敬語じゃなくていいぜ。むず痒いんだよ、そういうの」


「え……あ、う、うん……わかった! 今日は頑張る!」


「バカ、今日はじゃなくて今日もだろ。ほれ、行ってこい」


 頭をぽんぽんと撫でて、背中を押す。もう授業が始まる頃だ。アデルハイトには肩を叩き、阿修羅とはハイタッチをして教室の後ろで他の保護者たちと軽く言葉を交わして笑い合いながら見守る態勢だ。


 アデルハイトたちが席に着いて授業が始まると、保護者はしんと静まり返る。遅れて入って来たユリシスが、小さく会釈をしながらディアミドの横に立った。


「や、こんにちは。今日はアデルハイトの授業を観に?」


「そりゃお前に任せるさ。今日は別件でな。この後時間空いてるか」


「ええ、まあ。数日は王都にいる予定で」


「じゃあ今日くらいは休め。パーッと遊ぼうじゃねえか、あいつら連れて」


「……それは名案だ。後で秘書に連絡を入れておきます」


 授業は滞りなく進んでいく。いつもなら大人しくしているシェリアが、よく手を挙げて目立っていたのが印象的だ。廊下での出来事を見た人々は多いが、活き活きと授業を受ける姿は良く受け止められた。


「と、言う事で今日は人間と魔物の魔核の違いについてでした。皆様、本日はありがとうございました。保護者の皆様は……」


 一年から継続して基礎学科の担任となったクリフトンも、参観日となるといつもより始終緊張の面持ちで、ようやく終わったと一息吐く。


「ヘルメス寮の生徒は今日の授業はここまで。後は寮で普段の学習の様子を見て頂くように。それでは────」


 授業が終わったらアデルハイトたちはいったんヘルメス寮へ戻ってから、ゆっくり話をしようと言う事になって、校舎を後にする。ようやく解放されたと思うのは教師だけではない。アデルハイトたちもユリシスやディアミドの手前、いつものように楽な姿勢で受けるのはいかがなものかと緊張していた。


「皆、普段からああして授業を受けてるなんて真面目でなにより」


「俺はもっと気ぃ抜いてやってんのかと思ってたぜ。こいつらの事だから」


 図星に生徒組三人はぎくりとする。ユリシスやディアミドも保護者として、学園に通う身である以上は真面目に授業を受けてくれるだろうと思っているので、もしそうでなければ態度を改めるようには言うつもりだった。


「まあまあ、ぬしらの思うよりわちきらは真面目であったというわけじゃ。それより早く帰ろう。ルシルも首を長くして待っておろう」


「そ、そうだね……。早く帰ろう。ボクもちょっと周りが気になって」


 嫌いだからこそなんとなく分かる。ただ黙って帰るような相手ではない。それゆえの強い警戒心でディアミドにしがみついて歩くシェリア。彼女の予想は、やはりと言わざるを得ない。校舎の外ではヒースが待っていたのだから。


「あぁ、やっと出てきたね。シェリア、さっきは強くあたってしまってごめんね。君と仲良くしたいのは本当の気持ちなんだ。だから……」


 シェリアをそっと後ろに下がらせて、ディアミドが前に出た。


「悪いがこれからまだ授業があるそうなんでな。あんまりシェリアに関わってやんなよ。何度も言わせんなっての」


「申し訳ないが、この子にはもう学校を辞めてもらうつもりでいる」


 いかに魔導師の推薦で入学したといっても、シェリアは親の保護下にある。退学させて、違う場所で勉強をさせるとヒースは言い出した。


「いくらここが魔法使いの名門校といえども、わざわざ大魔導師になんてなる必要はない。よそで卒業して、働きながら勉強したらいい。あなたのようにガラの悪い大人と関わっているのは見過ごせない」


「おいおい、俺がガラ悪いってか……。まあ間違っちゃいねえが」


 黙って後ろにのいたシェリアが、ぎゅっとディアミドの服を引っ張る。


「ボクはいかない。なにが働きながらだよ。そんな気さらさらないくせに! ここでなきゃ学べない事もたくさんあるのに他へ行けって!?」


「だってそうだろう? この人が誰であれ、まともな教育なんて受けてないような人間と一緒にいたら君が汚れてしまう。可哀想じゃないか、私の子なのに!」


 無理やりシェリアを連れて行こうと腕を伸ばした瞬間、アデルハイトが掴んで妨害する。ヒースがぎろっと睨んだが、まったく怯みもしない。


「シェリアが学びたいと努力した事をお前が否定するのは親のしていい事じゃない。これ以上を黙って聞いているつもりはないぞ、ヒース・ジネット」

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