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賢者の瞳は朱色に輝く  作者: 智慧砂猫
第三章

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第15話「天才」

 家族水入らずの旅行なので、たまには盛大にポータルで聖都のど真ん中に現れる算段を立てていた──聖都の結界を超えるのに膨大な魔力が要る──ところへアデルハイトがやってきたのも、きっと神とやらの思し召しだと諦めた。


「言っとくけど、こんな人数運べるほどの魔力はないんだ。魔道具の準備をするまで適当に待っていてくれたまえ。それから────」


 箱を地面に置いて、魔道具を手にした瞬間、肩を(つつ)かれて振り返る。リリオラが満面の笑みで自分を指差しながら言った。


「アタシの魔力使えないかな、多分余裕で全員運べるわよ」


「……はあ? いくら強いったってそんな魔力あるわけが……」


 ふと記憶を遡ってみると、そもそも阿修羅を片手間に倒せるだけの威力の技を放てる事自体が異常な魔力量を物語っている。大人数とはいえ数えられる程度なら簡単に補填できるのではないかと考え直した。


「いいだろう、やってみよう。まずこっちの魔法陣の内側に手を置いてくれ。中には入るなよ。そう、それから魔力を放出するんだ。私が手に触れて感覚を分かりやすくしてやるからやってみたまえ」


「こうかしら……違うわね、こうかな。あっ、できた。こんな感じね!」


 呑気にやっているが、ポータルを形成するためには膨大な魔力量と繊細な制御能力がなくてはならない。大魔導師が数人以上いて初めて出来る事を、魔力が足りているとはいえ呆気なくやってみせるので、アンニッキは目を剥いて驚いた。


「(私が試しにやっただけで体得するなんて。魔族にもいるんだな、天才って奴が。……ああ、だからかな。奇妙な空気を感じる)」


 全身を覆う悪寒。リリオラからではなく、ひとつの出来事から未来を予期する。必ず、もっと良くない事が起きると分かる。気楽に過ごせるのも今のうちかな、と残念に思いながら、開いたポータルを見て立ちあがった。


「さ、開いたよ。流石に聖都へ魔族なんて連れて入れないから近場に放り出す。多分強烈な魔力波を感知したはずだから、私は別で小さ目のポータルを開いてエステファニアに事情でも話しておくよ」


「ありがとう、アンニッキ。お前にはいつも助けられているな」


 リリオラたちがポータルを潜る中、最後に挨拶をしてからとアデルハイトが舞っていると、アンニッキは少し寂しそうな顔で肩を叩く。


「元気でね、アデル」


「ん? ああ、埋め合わせは必ずするよ。またな」


 なぜそんな表情をしたのか不思議に思いながらも、急かされてアデルハイトもポータルを潜った。アンニッキの表情が脳裏にこびりついたまま、広い雪原のど真ん中で積もった雪を踏んで周囲を見渡す。


「そこそこ聖都から離れてるみたいだな。後で事情も伝えられるそうだから、どう探すのかは知らんが任せよう。リリオラ、探せそうか?」


「ん、任せといて。ほんのすぐ見つかるから!」


 双翼を勢いよく広げて、まっすぐ空へ飛んでいく。どの程度まで範囲を広げるかを確かめて、ルシルから渡された魔石から感じ取ったワイアットの魔力に波長を合わせる。息を深く吸い込んで、音波を放った。


 あらゆる生物の耳にも届く事がなく、決して感じ取られもしない。どこまでも広がっていく魔力の音波に目を瞑って感覚を研ぎ澄ませると、魔力の持ち主であるターゲットの位置を正確に把握できる。


 ゆっくり降りてアデルハイトたちのところへ戻って来ても、目をつむったまま話しかけないように手で制して、ジッと動かない。


「……いた。思っていたより近いわ、あっちの森」


 指差した方角には、確かに森が広がっている。聖都の外で暮らす猟師たちが拠点にしているそれなりに広い森だ。素人が足を踏み入れるとすぐに道に迷うので、基本的に聖都でも理由なく近づいてはならない場所として指定されている。


「結構、深い場所ね。いるのは多分……小屋の中? でも魔力はほとんど感じない。アタシも万能じゃないから、これだと生きてるか死んでるか分からないわ」


「行けば分かる事だ、案内してくれ。お前だけが頼りなんだから」


 悪い気はしない。リリオラはふふんと鼻を鳴らす。


「いいわ、ついてきて! これからもっともっと役に立って、皆からの信頼を得てみせるわ。この可愛いリリオラちゃんがいかに麗しいか教えてあげる!」


 とんでもない速度で飛行するので、全員が唖然とする。誰がついていけるんだと言わんばかりの状況に、ルシルが手を翳す。


「私が風の魔法でサポートします、いきましょう。戦闘は不得意ですがこういうのは得意なんです。はやくしないと置いていかれますよ!」


 先を走ったルシルの勢いもリリオラに負けていない。各自、それを追う形で走り出す。アデルハイトはのんびりと、皆が走っていくのを眺めて息を吐く。


「やれやれ……。不便だな、自分の魔法が使えないのは」


 どこまでやっていいかも分からない無理のできない体になった事が悔しい。それでも前に進むしかない。苦い想いを胸に募らせつつ後を追いかけた。


「(ワイアット……無事ならいいんだが……)」

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