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賢者の瞳は朱色に輝く  作者: 智慧砂猫
第二章

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第40話「逃がさない」

 勝ち誇った表情に、ゴーヴが怒った。僅かでも先を行かれたと認めたうえで、それがとにかく気に入らない。若造のくせに生意気な事を言いやがってと歯を軋ませ、オスカリを振り返った。


「おい、もういい! ここまで来たら緊急用のスペアを使う!」


「────! 了解、だったらこの辺りを一気に吹っ飛ばすぜ!」


 オスカリの体が煌々と赤く輝き始める。阿修羅の事前情報通りに自爆を躊躇なく選んだ。腕や手足に嵌められた魔石が強い光と共に、限界以上の魔力凝縮によって大爆発を起こそうとしていた。


「ッ……やはりそれが奥の手か! アーヴィング、アラナ、退避だ!」


「馬鹿めが! たかが逃げた程度の範囲で済むと思うな、若造!」


 突っ込んできたゴーヴに剣を振るう。だが、もはや戦うのではなく捕らえる事を考えての行動は体を切り裂かれても止まらず、残った片腕が強引にユリシスを捕えて地面に押さえつけた。


「生憎と本来の私など、とうに死んでいてね。私が死ねば次の私が起動する。これも我が帝国への愛国心ゆえだ。愚かなどと言うてくれるなよ」


「ちっ……! 死んだところでってわけか……!」


 爆発を阻止するにはオスカリの魔石を破壊しなければならない。アーヴィングとアラナは退避せず、捕まったユリシスを助けようと命令を無視する。


「アーヴィング、あなたは魔石を! 私は隊長を助けます!」


「了解です、アラナ副隊長!」


 ユリシスの救助は問題ない。だが、問題はオスカリの頑丈さだ。いくら聖力にも限度があるとはいえ、アーヴィングでは打ち破ったうえですべての魔石を破壊するなどあまりにも難しい任務。いくら相手が爆発のためには動けないといえども、必死になって斬りつけて破壊できたのはたった二カ所だった。


「残念だったなァ、てめえら! ここで俺ごと死んでもらう!」


 あと数秒で魔石は限界を迎えて魔力爆発を起こす。絶体絶命だとアーヴィングも諦めて、せめて隊長たちの盾になれればマシかもしれないと頼りない魔障壁を張って、自分の命だけで済む事を祈った。────だが。


「残念なのはあなた。私たちを敵に回して済むわけない」


 突然、オスカリの影の中から二本のブレードが射出されて両足が斬り落とされる。同時に潜んでいたキャンディスが飛び出して空中で二本のブレードをキャッチすると、素早く着地。突風の如き速さで以て胸の中心にあった最も大きな魔石をブレードでオスカリの体ごと縦に真っ二つにしてみせた。


「ば、ばかな……何者だ、お前……は……!?」


「そうだね、こう名乗っておこうかな。────エステファニアのお友達」


 砕かれた魔石から魔力が霧散していく。完全に沈黙したのを見て、ゴーヴの顔が一気に青ざめた。


「あ……ああぁぁああぁぁ!! 私の最高傑作が、オスカリが……!」


 もうユリシスたちなど眼中にない。倒れて動かなくなったオスカリに縋って、おいおい泣きだす。長年の研究で創りあげた、我が子同然のサイボーグ。魔法使いの少ない帝国で『帝国の役に立てるのなら身を捧げてもいい』とまで言ってのけた、ゴーヴにとって誰よりも強い愛国心を持つ男だった。


「貴様ら、よくもよくも! 私のオスカリを……クソッ、最低の気分だ! 悪いが、もはや構っていられん。早急に核を修理せねば……!」


 核は非常に頑丈な造りなうえに、エステファニアの聖力まで使って補強してあった。だが、どれほどの防御性能を誇ったところでキャンディスの前では紙も同然。たとえ自爆しようとも傷付かないはずの魔石の核は真っ二つになっていた。


 これ以上留まっていては、確実にオスカリは死んでしまう。いくら高速戦闘が出来ても視界を遮られれば追跡は難しい。ゴーヴは一息に毒霧を充満させて身を護りながら隠れ、オスカリを連れて行こうとして────。


「それはいけないわ。あなたを逃がしたら、また戦う事になるんでしょ?」


 空から降った炎の塊がまっすぐ落ちて天へ昇る柱となって霧を吹き飛ばし、逃げようとしていたゴーヴを正確に中心に捉えて燃やす。


「うああああああっ────!? な、なぜ私の位置が……!」


「残念よね。強い敵と戦ってみたかったのだけれど、拍子抜け。アタシが来るより先に皆が殆ど倒してしまっているんだもの」


 派手な真紅の扇子の要に嵌った紅緋の魔石がキラリと輝く。広げた扇子をバシッと閉じると炎はフワッと風に消え、完全に焼き尽くされて動かなくなったゴーヴが、真っ黒な灰になって崩れていった。


「皆様、ごきげんよう。帝都も大体が片付いてきたみたいよ。さっき正門が盛大に空を飛んでいくのも見たから、そろそろ阿修羅さんたちも合流時ね」


 肩まである長い髪をふわっと梳いて、勝気に微笑む。


「良かった、殿下。ご無事で何より。キャンディスもありがとうな。二人がいなかったら、俺たちは今頃爆発に巻き込まれてたと思う」


「ううん、私たちは後始末をしただけ。ね、グレタ?」


 グレタはどうでもよさそうに城砦へ振り返った。


「残党狩りでは楽しくありませんわ。早く行きましょ、敵の本陣はあの城砦でしょう? キャンディスとあちこち回ったのだけれど、おチビさんの姿が見当たらないの。もしかしたら、もう城砦に入って────」


 ジャラジャラと鎖の引く音がして、全員が視線を向けた。遠くから悠々とやってきたのは、一人の女だ。露出の多い服を着て、腰まである長い白髪を揺らしながら、薄青の瞳が彼らを見つける。


「あらあら、何よ。城砦じゃ暇だから遊びに来てあげたのに、ゴーヴとオスカリは死んじゃったわけ? 下らない研究で遊んでばかりいたから仕方ないかしら」


 鎖の先に繋がっているのは人だ。それも帝国の人間ではない。ユリシスはよく見て、それがエドワードだと気付く。


「……っ!? お前、その子に何をした!」


「何ってお散歩だけど。言う事を聞かないから躾けてたの」


 パッと鎖を離して、女はひどくつまらなさそうに肩を竦めた。


「いけないわよね、図体だけデカくて品のない魔法使いなんて。必死にお友達を守るために抵抗してたけど、これで死んじゃったら笑いものじゃなぁい?」


 小馬鹿にした態度にユリシスとキャンディスが一歩前へ出た。


「女性とは戦わない主義なんだが……ま、そうも言ってられないか」


「その子を返して。そうすれば痛い目見なくて済むかも」


 女は意外そうな顔をしてから、ニコッと満面の笑みを浮かべて────思いっきり両手の中指を立てた。


「言葉と喧嘩売る相手くらいまともに選びなさいよ、お馬鹿さんたち」

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