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賢者の瞳は朱色に輝く  作者: 智慧砂猫
第二章

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第31話「宣戦布告」

 人員はすぐさま集められた。会議はヴィセンテ公爵邸で行われ、緊急であると報せを受けて国王までもがやってきた。集まったのは国の最高権力者と、最精鋭たる面々。王室近衛隊の隊長ユリシスを筆頭に、上級魔導隊最高指揮官のヨナス・ジュールスタン公爵。王国軍魔導騎兵隊の隊長でありジルベルトの弟子であったロッソ・レムス伯爵。四英雄のひとりキャンディス・メイベル。


 名が知れておらず列席したのは六天魔阿修羅ならびに後から到着した左舷、右舷。アンニッキ・エテラヴオリと、アデルハイトが呼ぶように指名した学園の生徒シェリア・ジネットとマチルダ・ハリエットだ。


「……こほん。ヴィセンテ卿、君に呼ばれて来てみたが」


 国王ファウロスが、自慢の白いたっぷりの顎鬚を手で撫でながら、不安そうにアデルハイトへ視線を流す。


「彼女はどこの誰なのかね? 会議の主催であるようだが」


「ええ、彼女はアデルハイト・ヴィセンテ。ヴィセンテ家の養女であり、師ともいえる魔法使いでございます。実力は保証しますのでご安心ください」


 ファウロスはユリシスを心から信頼している。彼が言うのならば間違いはないのだろう、とまた咳払いをして話を進めるよう手を振った。


「では端的に聞こう。ヨナス卿、聖都の状況は?」


 初めて話す相手の態度に何人かが驚いたが、ヨナスは気にも留めない。


「奪還の必要なしと判断した。連中は何を思ったのか、聖都を放棄。聖女エステファニアのみを連れ去ったとみられている。派遣した隊はほぼ全滅した。生き残ったのは十五名ほど。敗走の際にワイアット・フリーマンが殿を務めた」


「……ワイアットの生死はどうなっている」


 ヨナスは目を瞑り、残念そうに首を横に振った。


「死亡を確認した。預かった遺書は家族に送り届ける予定だ」


「わかった。その件については個別で後で話しても?」


「構わない。卿はフリーマンと仲が良かったのだろう、話は聞いている」


「フ、それは光栄だ。では話を戻そう。誘拐された子供についてだが……」


 内心、かなりキツい報告だった。ぐさりと矢が突き刺さったような痛み。最後に会った夜の事が頭を過った。それでも気丈に振舞い、話を続けた。


 既に聖都の状況は安定化を始めており、信徒たちは聖女補佐官であるプルスカ・テレーズを中心に防護壁の再構築と町の復旧に尽力している。既に帝国軍の二個師団は撤退済みで、安全は確認出来た。


 一方、聖都侵略後に学園へやってきた帝国軍は、才能ある魔法使いの子供を誘拐しようと試みたが、そのおおよそが失敗。捕獲はしたもののフェデリコ・ブラッドフォードを筆頭に殆どが奪還。数名が攫われた状況だった。


「────誘拐されたとみられるのはカイラ・ケンドール。ウィリー・ジュールスタン。それからローズマリー・イングリッド。最後にエドワード・クレイトンの四名です。内三名がヘルメス寮の者で、ウィリー・ジュールスタンについても過去には魔力検査で八位通過という優秀さを持っています」


 ロッソの報告に思わずアデルハイトの視線がアンニッキを捉えた。


「アンニッキ、お前……」


「行きたかったさ。でもフェデリコが娘を想うなら今は待てと」


「……すまない、私がしっかりしていれば」


「君のせいじゃない。あれは誰にも予測できなかった事態だろ」


 心配でたまらないはずなのに、アンニッキは気丈に笑ってみせた。だが腹の奥底で腸が煮え返るほどの怒りを抱えているのは言うまでもなく、もし許されるのなら帝都の人々すらも殺して回りたいとさえ考えるまで感情が黒く淀んでいた。


「すみません、報告を続けても?」


 ロッソが小さく手を挙げる。アデルハイトが申し訳なさそうに咳払いした。


「続けてくれ」


 そう言われてロッソは懐から魔石を取り出して長いテーブルの中央に置く。


「失礼を。……誘拐事件から二日後、聖都にあった帝国軍の二個師団は即時撤退を始めたと見られます。そこまでは理由は分かりませんでしたが、さらに二日後になって帝国の皇帝ネヴァンから、このような音声記録が届きました」


 魔石に魔力を注ぐと、雑音交じりに声が聞こえ始めた。


『あ、あ。あ~。……グロー、もう()ってるのか? テストだろう?』


『何やってんですか、本番です。早くしゃべって下さい。これ安物なんですから』


『うむ、であれば。────こほん、王国の諸君。よく聞いて欲しい』


 なんだったんだ今の、と誰もが思った事に口を閉ざして耳を傾ける。


『我が名はネヴァン・ウァスファ・フィン・ナベリウス十四世である。不忠の臣下により進撃ありとの報を受け、音声を記録する。そなたらの国民は私の願うところになき誘拐によって我が国へ連れて来られた。よって現在は手厚い保護の下監視しているが、これを謝罪するつもりもなければ返還も考えていない。我々が望むは、戦争。どちらが勝者でどちらが敗者であるかを決するための戦いである。しかし、今回の件に関して、私の臣下に対する信頼における過ちは清算せねばならない』


 しばらくの沈黙。まだ録音は続いていて、雑音だけが聞こえる。小さく、すうっと息を吸い込む音が聞こえ、ネヴァンは告げた。


『────我らは帝都にてそなたらを迎え撃つ。戦場で会おう』

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